第88話 僅かな変化
ボードレースが終わってから、数日が経ったある日。
今日は学院の休日を利用して、ボード専用コースがある郊外まで俺とマナとエリカで遊びに来ていた。
王都全体をコースとした先日の大会よりかは流石に狭いが、充分に立派なレース場には都市から離れているというのに、沢山の人が集まっていた。
マナもよくここを利用していると言っていたから、スケーター御用達の場所なのだろう。
「マナ、今日こそは……決着つけるわよ」
「いいよ、負けないから!!」
遊びに来たと言ったが、ここに来た目的はあの日、不完全燃焼で終わった二人の勝負をつける為でもあった。
エリカはこの日のために大会後も暇さけあれば練習に励んでいたらしい。ほんとエリカは負けず嫌いな奴だ。
「ユウも準備はいい?」
「はいはい……お前らこそ準備はいいのか?」
「えぇ、大丈夫」
「うん、バッチシだよ!」
俺はそんな二人の勝負の見届け人を請け負った。
最初は一緒に走ろうと誘われたが、俺はまだボードを破裂させた苦い思い出から、あまり乗りたくはなかった。それで審判をすると言って難を逃れたのだ。
二人はスタートラインに並び、俺の合図を待っている。ウズウズとしており待ちきれないといった感じだ。
「じゃあ、よ〜い……スタート!!」
スタートと同時に二人のボードが駆け出した。
そして邪魔者がいない二人だけの決勝戦の結果は……。
「やったぁ〜!! 私の勝ちぃ〜!!」
「はぁ……負けた。やっぱり速いわね」
マナの勝利で幕を閉じた。
勝ったマナも、負けたエリカも終始笑顔で走り切ったいいレースだった。
エリカもよく善戦したが、やはりまだマナには数歩届かない印象を受けた。あんな反則のようなボードを使われては仕方がない。
でも、これからは先はどうなるかわからない。負けず嫌いのエリカがこれで諦める筈がないからな。今から数年後が楽しみだ、今日とはひと味違った展開を見せてくれるだろう……。
※
俺達がレースを終えて、木陰で休憩をとっていたとき、ある事をエリカから軽く打ち明けられた。
「そういえば、この間……魔術ボード研究会に誘われたわ」
「えっ? ボード研究会に?」
学院のボード研といえば、運動系では珍しく上級科の生徒も所属するぐらい人気な研究会だった筈だ。
それに魔導具研と違って、全員人間で構成されているだろう……。それはつまり、魔人とか関係なくエリカの実力が認められたということだ。
「そうなの……それはもう熱烈に勧誘されたわ。是非来てほしいってね」
凄いことだ。指名で誘われるなんて……。
「まって! なんでまた私は誘われないの!!?」
「それは……知らない。
けど、私が誘われた理由をきいたら、あの大会で見かけたって言ってたわ」
「えぇ〜……だったら尚だよ。私もいたのに〜!」
「マナの走りは危なかっしいからじゃない?」
「そうだな」
「そんなぁ〜……ひどぃ〜」
まぁ実際のところは、マナと走ることに怖気づいてるとかかもな。
あんな別次元の走りを魅せられては、越えられない壁を見せられては、マナと走りたくないと思ってしまうのも理解できる。
「それで……その誘いには、なんて返事したんだ?」
「その場で断ったわ」
「……よかったのか?」
「いいのよ、今はそれよりも……優先したいことがあるの」
「そうか……」
「でも……一歩進めた気がして嬉しかったわ。私には変えられないと思ってたから」
変えられない。それはきっと魔人に対する目の事を言っているのだろう。エリカはボードレースに参加することで、魔人の印象を悪くすると恐れていた。そんなエリカにとって、その僅かな変化は大きな意味も持ったものだったに違いない。
「よし……じゃあそろそろ、もう一走りしましょうか」
「おう、行ってこい」
休憩を終えてエリカは徐ろに立ち上がり。
「なにいってんの……ほらユウも走るわよ」
そして、俺を挑発するように人差し指を向けた。
「えぇ……嘘だろ、俺下手くそだからいいって」
「エヴァに聞いたわよ、マナのボード乗りこなしてたって」
あれは勢いでやっただけで、たまたまなんだけどなぁ……。
「いやでも、ボードが……」
「はい、ユウ! 貸してあげる」
マナは自身のサブボードをどこからともなく取り出した。
「準備いいな……」
しかし、ここまでされては走らない訳にはいかない。俺もそこまでチキン野郎じゃない。
「はぁ……わかった。お手柔らかに頼む」
「そうこなくっちゃね」
そして3人で夕刻まで数レース走った。
言うまでもなく俺の結果は散々だったが、楽しく走れたから、まぁいいよな。




