第87話 レース結果
レースが終わり、俺達観戦組は選手待機所で休んでいる二人のもとに来ていた。
マナは使用していたボードの手入れを入念にしており。
「はぁ……」
そして、エリカは不満そうにマナをみていた。というか睨んでいる。あの結果に納得がいかないのだろうな。
「どうかしたの? エリカ?」
とうのマナは鈍感なのか、よくわかってないようだった。ポカンとしている。
エリカが不満そうにしているのは、レース終盤の展開についてだ。レースの最後の直線、二人は横並びの接戦を繰り広げた。
しかし、ゴール目前で……。
「なんで最後まで走らなかったの?」
マナはレース中にも関わらず速度を落とし、レースを放棄した。でも、それには理由がある。エリカもわかってはいるが聞かずにはいられないのだ。
「えっ? だって、エリカが心配だったんだもん」
他の選手の妨害から復帰後、順調にみえたエリカであったが、やはり無理をしていた。最後の直線で突如として、エリカは気を失うように失速していったのだ。
でも当然だ。当初決めていた利用していい魔力量を大幅に越えての魔術の行使、さらに怪我も重なって、いくら丈夫であるエリカといえど身体の限界に達したのだ。
それに気づいたマナは、エリカを助けるためにレースを放棄した。実に友達想いのマナらしい行動だと思うが……。
「私なんて放っておいて良かった。
あと少しでマナは優勝できたのに。私のせいで……」
「そんなの気にしなくていいよ! レースならまた出たらいいんだし。
それにね、私は楽しく走るために走ってるだよ。あのままゴールしても、ぜんぜん楽しくないよ」
「でも…………」
未だに浮かない顔をしているエリカをみて、エヴァは……。
「はいはい、暗い話は終わり。
惜しくも優勝は逃したけど、二人とも楽しく走れた。それでいいじゃん。
それとも、エリカは楽しくなかったの?」
「それはまぁ……楽しかったかしら?」
「なら、この話はもうお終い。それより二人も疲れてるだろうし、何処かで休憩しない? 皆んな朝から何も食べてないでしょ?」
「そうだね〜、私お腹ペコペコだよ〜」
「えぇ……いいわよ」
「あぁ」
同期の俺達の確認をとったエヴァは次に。
「先輩達もそれでいいですか?」
「自分はいいっすよ。会長とレオンさんはどうするっすか?」
勝手なイメージだけど、レオンさんは打ち上げとかには参加しなさそうだ。
「……俺は遠慮しておく」
「そうなんすか? それは残念っす……。
会長はどうします?」
「私も折角のお誘いだけど、これで失礼させてもらうよ。この後、予定があるんだ」
「……そうなんですね。わかりました」
俺達は待機所を出て、休憩できる店を探すために街の大通りまで出てきた。
そこで途中まで道が同じだったブレンダさんと、レオンさんと別れることとなった。
「今日はお忙しい中、来ていただいて、ありがとうございました」
「いや、こちらこそ今日はありがとうね。良いものを見せてもらった。見に来て正解だったよ……」
ブレンダさんはそれだけ言い残し、足早に去っていった。本当に多忙なのだろう。
しかし、そう言ったブレンダさんの去り際の背中から寂しさのようなものを感じ取れたのが俺には不思議でならなかった。
※
ユウ達と別れた後。
ブレンダとレオンは今日のレースについて、話をしていた。
「今日のエリカの走りには驚かされた……いい意味で予想を裏切られたよ」
「魔人が扱える魔力量の限界を越えたことだな?」
「あぁ、普通ならもっと早い段階で気を失っていた筈だ。でもエリカは強固な意思で限界を無視して走り続けた。その身体で私達魔人の可能性を示してくれたんだ」
「可能性……俺たちが人間と同じように魔術を扱える日が来るってことか?」
「さぁどうかな。でもエリカの身体に変化が起き始めているのは間違いないだろうね」
ブレンダが言う変化とは魔族の特性である進化のことである。
「なるほど、つまりエリカは俺達の目標達成に必要な人材ってことだな?」
「そうだね、是非ともうちに入ってもらって、志をともにしたかった。
でも、無理強いはできないよ。今ならエリカが私の誘いを断った理由がよくわかってしまうからね」
「アイツらか……確かに人間にしては変わった良い奴らだ」
「うん、ほんとうにユウ達はいい人間だ。
だからこそ……残念でならないよ。ララや彼らのように賢明で理解ある者が少ないことがね……」
そういったブレンダは涼しい顔で笑っていたが、その創ったような不気味な笑みにレオンは恐怖を感じ取ったのだった。
「ん? そ、そうだな……」




