第84話 熱い想い
エリカたち先頭集団が2周目に入り、レースは中盤に差し掛かる。
マナは半周遅れなんて関係ないと、グングンと距離を詰めていっていた。
そんな中、先頭では何やら不穏な動きが見られた。
エリカに対して、悪意が籠もった目を向ける者達がいたのだ。
「おい、魔人……さっきから邪魔なんだよ。
どけよ!」
エリカは浴びせられた汚い言葉を取り合う必要はないと、聞き流す。
「…………」
しかし、それがより相手の不満を高めてしまった。
「ちっ……無視かよ。魔人のくせに調子に乗りやがって」
「生意気ねぇ……。立場をわきまえるべきだと思わない?」
「フッ……あぁそうだよな」
最悪なことに、エリカに同じ土俵に立たれるのが面白くなかった数人が結託し、煽るようにエリカの進行を妨害したのである。
「おら!! 邪魔だ! どけよ!!」
「っ!? ちょっと、危ないじゃない!」
「うるせぇ! 魔人が!」
「チンタラ走ってんのが悪いんだよ!」
そして無理な追い越しをしたあげく、避けたエリカを狙っての無理な幅を寄せ。
それらは誰からみても明らかな反則行為だった。
しかし、試合を監視する審判は動かない。
審判が黙認したのをみた彼らは……。
「……おっと! バランス崩しちまった」
それだけでは飽きたらず、わざとボードに接触してきたのだ。
「ッ!?」
エリカのボードは改造により悪路に弱く。
特に高速走行中は少しの操作不備が命取りとなる。
エリカは強引な接触によりバランスを崩し、ボードもろともコース上に叩きつけられてしまった。
「フッ……ダセーな」
「魔人にはソコがお似合いね……」
目をつむりたくなる様な痛々しい惨状。コースにエリカの赤い血が拡がっていく。
それほどの大事故だ。普通の人間なら、怪我ではすまない。
「……最悪。審判どこみてんだか……」
痛みで………意識が飛びそう……。
骨折は……たぶんしてない。でも体中が殴られたように痛い。
ぶつかってきたアイツら、私が魔人だから、回復がちょっと早いだけで痛みも感じないと思ってるのかしらね……。
まぁ、わかってたけど。なにか妨害はされるとは思ってた。普通の人間は私達のこと嫌いだから……。
でも、こんなにもわりやすく妨害してくるなんて、仮にもスポーツ大会なのに馬鹿でしょ。
スポーツを嗜む権利なんてない。
マナが好きなこの大会を汚さないでほしい。
エリカは身体に鞭を打ち、立ち上がろうと腕に体重をかけたが……。
「いたっ……」
上体をあげることは叶わなかった。
そんなエリカに追い打ちをかけるように、観客席からは汚い言葉が次々と発せられる。
『魔人め……汚らわしい』
『魔人のくせしてでしゃばるからよ』
『これに懲りたら、二度と顔みせんじゃねえぞ!!』
私の情けない姿をみてか、認識するのも無駄な程のくだらない野次が観客席から飛んでくる。
魔人を差別する言葉だ。
馬鹿馬鹿しくて、より力がぬける。
なんで……そんな嫌な笑みを浮かべてるの?
笑うなら、私が転けて面白いなら、もっと堂々と笑いなさいよ。コソコソと苛つく……。
昔からそう……魔人ってだけで、この暴力的で、拒絶的な目を向けてくる。
もういい……。
マナが誘ってくれて、大会に出れて嬉しかった。
皆んなと一緒に練習や改良してきたこの一週間がとても楽しかった。
それだけで、充分……
「エリカッ!! 大丈夫か!!」
その声は、不思議なことに雑音に紛れることなく、消されることもなくハッキリと聞き取れた。
冷たい罵声を払いのけるような、温かく優しい友の声だ。
あのときのエヴァの言葉が心に響いた。
『いま、貴方の周りには誰がいるのか、もう一度よく見て考えたら?』
私は誰の目を、声を気にしてる?
私は誰の想いに応えたいんだろう?
そんなの考えるまでもなく、答えはわかりきっているのに……私はまだ気づけてなかったみたい。
「いま、そっちに行くから、まってろ!」
ユウが私を助けるため、人ゴミを掻き分けて、こちら来ようとしている。
けど、その優しさはまだ受けられない。途中リタイヤの条件の一つに外部からの補助があった。
駄目……まだ私はマナと走ってない。
約束を果たしてない!
先頭にはいなかったけど、マナは必ず来る。
マナにこんな姿見せられない!!
想いに応えくれるかのように、冷めた身体に熱が入るのがわかった。
「え、えりか? 立てるのか?」
「えぇ……まだ走れる」
「何言ってんだ!? ボロボロじゃないか!」
「これぐらい何ともない」
「いやでも!」
「今は走りたいの、お願い……」
ユウは私以上に辛そうな表情をしている。優しい人……だから彼ならきっとわかってくれる。
「…………わかった。無理すんなよ」
「ごめんなさい、ユウ……無茶を言って」
「でも! 危険を感じたら、すぐにリタイアしろよ」
「うん、わかってる。じゃあ……いってくる」
エリカは再び魔術を展開し、ボードが走り出した。
「あれ……? 痛く……ない」
すでに身体中がボロボロなお陰で、感覚麻痺ってるのかも、魔力を使えば身体が裂かれるように痛い筈なのに、全く感じない。
「都合がいいわ、いまなら余裕……」
エリカは研究で提唱されていた限界以上の魔力をボードに込める。
それにより火を吹くボードは限界を越えて加速していった。
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エリカがクラッシュしてから数分。
先頭集団は2周目半分を通過したところだった。
エリカを蹴落とした選手達は愉悦に浸っていた。
「いい気味ね……」
「当然の報いだろ」
「あぁ魔人が調子に乗るからだ」
しかし、そんな彼らに異を唱える者がいた。
赤い髪をなびかせ、先頭を走るその選手はつまらなさそうに語りだす。
「なぁ、お前らさ……勝てないからって、ダセェことすんなよ。こんなの興ざめだぜ」
「はぁ? 何言ってんだ、オメェは?」
「アンタ、魔人を養護する気!?」
「いやいや……魔人とかはどうでもよくてさ。俺が言いたいのは、レースなら技で速さで語れってこと。まぁ〜お前らにはわかんないよなぁ……」
「グチャグチャうっせぇぞ!!」
「お前も同じ目に会いたいのか? あっ!?」
「おっ! いいね〜。ちょうど俺もそう思ってたところだったんだよ。
このままじゃぁ不公平だし、ちょっと……邪魔させてもらうぜ!!」
スタート地点の観戦所にいる4人は浮かない顔をしている。
「エリっち、大丈夫すかね……」
「ユウが向かってるなら、大丈夫ですよ」
ユウはエリカが妨害されているのを見た瞬間、マナの予選用ボードで現場に向かっていたのだった。
「それにしても、さっきから先頭しか映さないなんて、運営はなに考えてんだか……」
「ほんと、そっすね。空気読んでほしいすっよ。
んん……? ていうか先頭なんかおかしくないすか?」
モニターを見るとそこには、一人の選手が展開した進路を遮るような火炎魔術により混乱する様子が映し出されていた。
「ありゃりゃ、あれは普通に反則すね」
「でも、仲間内で争ってくれるならラッキーですよ」
結果、妨害行為として、赤髪の選手は失格退になってしまったが、エリカが遅れを取り戻すには充分すぎる時間稼ぎとなったのだった。




