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第80話 レース開始

 日は流れ、大会本番の日。多くの人々がこの大会の観戦に集まり、都市は騒然としていた。 


 マナは地元民しか来ない小さな大会だと言っていたけど、とてもそうとは思えなかった。


 都市内部では侵入規制線が貼られ、都市内をぐるりと一周するような立派なコースが出来ていたのだ。


 これを小さな大会とは呼ばないだろう。

 

 レーススケジュールの関係で大会の朝は早く、8時には会場入りしなければならなかった。


 エヴァを除く俺達は大会にエントリーすべく、受付に向かっていた。エヴァはお姉さんの事で少し遅れてくるらしい。


 前を歩くニナ先輩とエリカは何やら話をしている。


「ニナ先輩……本当に今日の大会、私が出てもいいんですか? ボードの改造までして貰った以上、研究会としてニナ先輩が出たほうが……」


「なにいってんすか!!」


エリカの迷うような発見をニナ先輩は一蹴していた。


「研究とかより、もっと大事なことがあるんすよ!

 だから、皆んなに見せつけてやってくださいっす。そのボードをエリッチ以上に乗りこなす人は誰も居ないすから」


 それを聞いたエリカは、よりやる気に火がついたようだった。


「わかりました……期待に応えられるよう頑張ります!!」


「その意気っすよ!」


 二人の数歩後ろを俺とマナは歩いていた。


 マナは二人の会話を聴いて。

「エリカ……嬉しそうだね」と小声で呟いた。


「そうだな、楽しみで仕方ないんだろ」


「だね、まぁ〜それは私もだけどね」


 マナはそういい嬉しそうに笑みをこぼした。

 本当にボードが好きなんだと思う。


「にしても……来てからずっと気になってたけど、マナはなんでボードを2つ持ってんだ?」


マナは恐らくボードケースだと思われるものを2つも持参していた。青色と白色の大きな鞄を背中と手に一つずつ。


「いやな、一つはわかるんだ、この間のスカイなんたらだろ?」


「スカイフィッシュ3号だよ! これは本選用。こっちの白い普通のは予選用なんだ」


「え? 本選と予選で使い分けてるのか?」


「うん、温存しておきたいから」


「本気で優勝狙ってたんだな……」


「とう〜ぜん!!!」


マナのやる気は本物だ。こりゃ本当に優勝したりしてな……。


「マナ! ユウ! 何してるの、はやくきて!」


 一足速く受付についたエリカが手招きしていた。


「はいはい〜!」


二人は無事エントリーを終えて。

エリカは予選3組目で、マナは次の予選4組となった。


「エリカ! 予選は違ったけど、本選で待ってるからね!」


「わかってる、任せて」


予選は10組あり、大体一組20人が同時に走行する。そして、各予選組の上位2人が本選に上がるシステムとなっている。


 つまり、去年も今年と同じならば、マナの18位は約200人のうちだった訳で、それはエリカが称賛するのも当然だ。



時間は進み、エリカの予選第3組が始まろうとしていた。


 レースで重要となる最初のスタート位置は抽選となっており、エリカは前列から2列目となかなかいい位置につけていた。


 出場しない俺とニナ先輩は道路に沿って設けられたスタート付近の観戦スペースにて、遅れてやってきたエヴァと、レースの開始を持っていた。


「実際のところ、どうなんだ? 俺あんまボード詳しくないんだけど、エリカは勝てるのか?」


「どうでしょうね。私も大会出場者のレベルがわかんないから、なんとも言えないのが正直。

 でも、私が協力したんだから簡単に負けるなんてあり得ないし……許さない」


「フッ……そりゃ頼もしい」


 エヴァのこの言葉には自分への自信だけではなく、エリカへの信頼も込められている気がして、少しだけ嬉しくなった。


「大丈夫っすよ! 自分達の最高傑作であるロックバードは、絶対に負けないっす!」


「すみません、そのロックバードってなんですか?」


「あのボードの名前っす、なんでもマナっちに聴いたら、普通はつけるものらしいんで、そう名付けたっす」


「それ……たぶん騙されてますよ」


そうこうしていると、エリカが出走する3組が始まる時間となった。



         ※


出場者が各々のスタート位置についていく。


「なんだぁ? お前のボード。タイヤついてんぞ」


「おいおい!! ここは素人がきていい場所じゃないだろ〜!! 帰ったらどうだ?」


「魔人にはそれがお似合いだな」


ロワードでは見かけない一風変わったボードに対して、他の出場者は次々と冷たい言葉を投げかけた。わざとらしく大きな声で話すもんだから、観客席まで聴こえてくる。


「アイツら……絶対頭悪いわ。いかにも馬鹿そうな見た目してるもの」


「見た目に関しては言い過ぎだけど、馬鹿だとは俺も思うよ」


エヴァは怒りを顕にしているが、当のエリカはその程度の言葉には動じず、集中しているようだった。


「ふん……見てなさい。馬鹿にしてられるのも、今のうちよ」


そして、スタートの合図であるブザーが盛大に鳴り響き。


一斉に出場者達がスタートを切ろうと、ボードの魔術を展開していく。


そんな中、エリカが乗っているボードから、凡そ聴いたこともない爆音が発せられた。エンジン音といえば、わかりやすいだろう。


それとともにボード後方から激しい火炎が噴射される。


ニナ先輩がボード本体を、エヴァとエリカが魔術式の改良をして出来たこのボードは、一般的にボードに使われている風魔術ではなくて、炎魔術を推進力として利用した、前に進むだけに魔力の全てを使ったボードである。


何度見ても、その火を吹いて地走る様は……あれだ。


ん? 名前が出てこない……そう! ロケットみたいだ。


 式構造はあの魔鉱石が記憶できる限界の応用中級レベルで、速度はもちろんながら、目を見張るのはその加速力だ。

 

 スタートから数秒足らずで最高速に到達し、瞬く間にスタート地点からは見えなくなってしまった。


 出場者も、観戦者もエリカの走りを見て、目を丸くしている。


馬鹿にしていたようだったから、その顔を見れて、どこかスッキリとした。


走ってるエリカに見せてやれないのが非常に残念だ。


 その後のレース展開であるが、ボードに限らず、レースにおいてはスタートダッシュが重要であるのは言うまでもない。


 つまり開始直後に、先頭集団を抜けた時点でエリカの勝ちは決まったようなモノだった。


 レース状況を映し出す写映魔術により、投影されたアナログ放送レベルの平面映像では、エリカが先頭集団を引っ張っているのが確認できた。


 そして、そのまま危なげなく逃げ切り、最後に温存のためかスピードを緩めたため一人には抜かれたものの、見事2位で予選突破を果たしたのだった。

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