第70話 代償
「はぁ? 何言ってるのユウ。駄目に決まってるでしょ」
エリカは俺の発言に当然、噛みついて来た。
でも……。
「駄目だと、誰が決めたんだ?
倫理に反するからか?
……そんな事ないだろ。多数派の価値観を社会に押し付けただけだ。
別によくないか? 絶対に何をしてでも、生き返らせたい大切な人がいても。決して悪い思いじゃない」
「そんなのまちがえて…………」
エリカは自分に置き換えて考えたのか黙ってしまった。そして、今の言葉を殺して。
「いえ、そうね…………貴方、この魔術式は他人に害をなすような魔術なの?」
「これはそんな魔術じゃない。ただ私自身を犠牲に、死者を蘇生するだけ」
「本の内容通りだとすれば、そうよね……。わかった……勝手にすればいいわ」
それを聞いたエリカは魔導具の効力を切り、エヴァの拘束を解く。
エヴァを拘束していた黒い手錠は崩れ、形を失った。
「えっ? えっ!? ダメだよ、そんなの!!
生き返る人もエヴァさんの犠牲で生き返るなんて、そんなの望んでないよ!!」
今の状況を遅れて理解したマナは、すかさずとめようとした。
「……そうなのかもね。でも、私は望んでる。お姉ちゃんが生き返ることを強く、強くね」
エヴァは助けを求めるように、小さな金属のロケットペンダントを握った。
「そんな……の駄目だよ、絶対に……」
マナはその場にへたり込んだしまった。
彼女はエヴァの儚い希望に縋る姿を見て、止めることが出来なくなった。
今のマナに彼女が納得できるほどの他の手段を提示することはできなかったからだろう。
悲しんでいるマナが可哀想だが、俺にも止めることは無理だ。正解かどうかは置いておいて、彼女の想いに共感してしまった俺には……。
「マナさん、ありがとね。心配してくれて……。
私はこの為だけに入学した。あの日から、この為だけに生きてきた。だから大丈夫。
そして、ユウと……エリカもありがとね。気持ちを汲み取ってくれて」
「……違うわ。どうせ失敗するからよ」
「そう……。でも残念ハズレ。魔術は絶対に成功する。私はこんなんでも優秀なの」
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エヴァによる魔術式の展開が始まった。俺達は描かれた魔術式から離れた位置で見守る。
外部から干渉するタイプの魔術は初めて見るが、恐らく工程は普通の魔術と殆ど同じ、魔術式の構築、魔力の組み込み、展開だ。
床に描かれた魔術式は魔力が込められた白墨で書かれたのか、術者の魔力に呼応して淡く光り輝く。
巨大な二重円の中にある小さな2つの円の片方に、エヴァが大事に持っていた丸い金属のペンダントを置き、もう一方にエヴァは立った。
「ねぇ! やっぱり今からでも止めようよ!」
マナは優しい奴だ。いま、エヴァの心を理解できなくとも、必ず皆が納得できる道があると信じている。
俺は酷い奴だ。マナは自分独りじゃ、止める事ができないから、助けてって言っているのに俺は……。
「……はっきり言って、俺にも正解はわからない。でも、エヴァの顔を見ろよ。この上なく満たされて喜んでる顔だ。あんな顔した奴を止めることは俺にはできそうにない」
「でもこんな方法じゃ!
……誰も幸せになれないよ」
「かもな……。でも幸せは個人が決めることで。ましてや俺たち、他人が口を出していいことじゃない」
エリカのことに、散々首を挟んだ俺が言うかって感じだが、本当に……このことについては、どうすることもできないと思う。死者との対話は、その人にしかできないのだ。割り切れなんて無責任なことは言えない。
「だとしても、今はなくても! 他に方法が見つかるかもしれないよ!」
「……それはエヴァの姉を生き返らせる他の方法を見つけることか。それとも姉を諦めさせる方法か?」
やっぱり俺は酷いやつだな。これでは止めるのは諦めろと遠回しに言っているようなものだ。
「そんなの……わかんない」
「だいじょうぶよ、マナ。
今まで、クロード教授の魔導書は、いくつか世に出てきたことがある。でも、誰もそれを解読できた者はいない。教授が考案した特殊な文字が使われているのよ。
しかも、あの手の禁書とも言える魔導書を、上級科だとしても、一回生に理解できるとは到底思えない」
「でも……仮に成功しちゃったら?」
「……成功なんて、万が一にも有り得ないわ」
エヴァは魔術陣に魔力を通し、念を込め、展開させた。
「やっと……終われる。おかえり、クレアお姉ちゃん」
魔術陣は赤黒色に染まり、エヴァの身体を光が包む。
「うそっ!?」
「エヴァ!!」
光がなくなると、エヴァは消えていた。術者が消えたも尚、魔術陣は展開されたままであり、眩い光を放ち続けている。
そして、より輝きを増し。あたり一面が光に包まれ、魔術式の答えは導き出された。




