第67話 痕跡
俺とエリカとマナは放課後、クロード教授の研究室を訪れた。
「センセ〜! いますか?」
「…………」
「…………あれ? センセ〜! いますか〜!」
マナが何度か研究室の木造のドアを数度ノックしたが、誰の応答もない。
「先生いないっぽいね……」
「まだ戻ってないみたいだな」
「だったら、今日はもうやめとこ〜よ」
「甘えるな。ほら、先生を探しに行くぞ」
「えぇ〜」
「まって! おかしいわ……」
エリカは何かに気づいたのか。俺たちを呼び止めた。
「何がだよ?」
「この部屋の中、誰かいる……」
「えぇ? でも、返事なかったよ」
「私は……感覚で分かるの、絶対にこの部屋の中に誰かがいる。気配を隠しきれてない」
俺は気配なんて全く感じないが、魔族は人よりも五感が優れているらしいから、魔人であるエリカには何か感じ取れているのだろう。
「それって、先生以外の誰かが中に潜んでるってことか?」
「えっ!? 泥棒!?」
「可能性はあるわ…………マナ、どいて私が確認する!」
「あいあい!」
「クロード先生、中にいるんですか?
様子がおかしいので、入りますよ……」
エリカがドアノブを撚ると、ガチャガチャと錠が引っかかた。
「鍵かかってるね。やっぱり居ないんじゃー」
「まって! また動いてる!! これは先生じゃない!!」
動いているというエリカの声に反応してか、俺とマナにも聞こえるほどの、なにかが割れる音が研究室内から発せられた。
そして、それとほぼ同時にエリカは勢いよく、力尽くで扉をこじ開ける。
「だれ! そこにいるのは!」
急いで、俺とマナも研究室に入って確認する。
先生の研究室には初めて入るため、元々の部屋の様子は当然知らない。
研究資料や学術書などが机や床に散らかっていたが、最初からそうだった可能性もあるし、特別内部が荒らされている感じもしない。
そして、誰かがいるということもなかった。
「うそ……」
「う〜ん? 誰もいないね」
「確かに誰かがこの辺りに向かって……」
エリカは研究室の窓付近にいき、自分の感覚を頼りに痕跡を探していく。
「エリカ、どうだ? 何か分かりそうか?」
「わからない……。でも、絶対に誰かいたと思う」
「ねぇ、これって!」
マナは講義室の床から、何かを拾い上げる。
マナが手のひらに載せて見せてくれた、それは小さく透明で光を反射する欠片だった。
「……硝子の破片か?」
「もしかして、窓ガラスかな?」
「たしかに、俺らが入る前に何かが割れる音したしな。でも……」
「窓……キレイだね」
研究室の窓は、分厚いはめ殺し窓であり、部屋の中が薄暗かったこともあり、俺達の戸惑った様子を曇りなく綺麗に映し出していた。
「いいえ、窓の破片で間違えない。
恐らくは、窓を壊してからすぐに、直したんのよ。それは、その時に修復しそこねた欠片……」
「えっ? 魔術で窓を修復できるの?」
「物質固定魔術だと思う……。難しい魔術だけど可能よ」
物質固定魔術は古よりある魔術で、難易度の高さから、使える者は少ない。
物を元の形状に戻す魔術であって、壊れた窓を直す魔術でもなければ、時間を逆転させている訳ではない。
ただ物質形態を事前に固定し記憶しておいて、形状を変化させても、記憶を元にして復元する事ができる魔術。欠片が復元しきれてなかったのは、初めの固定が不十分だったからと考えられるだろう。
「だとしたら……身体強化の術もかな? ここ5階だし、窓から逃げるには必要だよね」
「……恐らくね」
「その2つの同時使用なんて。普通科の生徒にできるのか? 上級科生徒じゃないか?」
「私もそう……考えてる。
でも、あくまでも可能性が高いのは彼らというだけであって、確実ではないのよね……。
痕跡を残すなんてヘマする三流が、上級科に居るとは思いたくないし」
「でもでも、そこまで絞れれば、あとは聞き込みをすれば、正体わかりそうじゃない?」
「そうね……」




