第64話 変えたい未来
落ち着いたタイミングで、この状況に疑問を持っていた俺達に、オリビア先生は簡潔に説明してくれた。
先生は俺達が入学した日と同じ日。つまり昨日付けで、ポトル都市の中等学院から、ここ国立魔術学院の助教授となったらしい。
前から、なぜ国立魔術学院の試験で、先生が審判員をしていたのかが疑問だった。
てっきり卒業生として、手伝っているだけかと思っていたが、それを聞いて納得した。
「すまなかったな、ふたりとも。最初から知っていたのに、止めに入れなくて。
特にエリカにはなんて、謝ればいいか……」
先生は一部始終を見せてもらったと言っていた。エリカが暴行されている様を何もせず傍観していたのだ。でも………。
「先生なりの、理由があったんですよね」
「……情けない話だ。
私が止めても、エリカにとって本当の意味での救いにはならないと、躊躇してしまった。
でも……それだけじゃない。お前達なら行動を起こしてくれると信じていたんだ」
「先生……」
「……私は急いでエリカを医務室に連れていく。落ち着いたら、お前達も後から来い」
先生はエリカを抱きかかえて、去っていった。
「エリカ、無事だといいけどっ……」
マナは糸が切られた操り人形のように、その場に膝から崩れる。
「どうした、マナ!?」
「いやね。終わったら、急に足が震えて来ちゃって、たてないや。エへへ……」
「無理しやがって。
……しかし、あれは何だったんだ?」
「あれって?」
「アイツの腕が折れたのは、何かしたのか?」
「あぁ〜……あれは初歩的な与えられた衝撃をそのまんまはね返す反射魔術だよ」
意味はわかるし、ありそうな魔術だが。
聞いたことはないし、誰かが使っているのも見たことがない。
「反射魔術? 聞いたことないな」
「そう? ……きっとユウが知らないだけだよ」
「……まぁ、そうなのかな。
でも、反射魔術は暴力はじゃないのか?」
「確かにあれも暴力だね。
ユウに偉そうなこと言ったのに、ごめん。
話し合いで解決したかったけど、私が未熟だったみたい。やっぱり未来は変えられなかった……」
「未来? もしかして、講義室で言ってたのはあの光景か?」
「うん……エリカが倒れてるところと、ダニエラさんの腕が折れるのが視えた。
だから、何とか阻止しようと思ったけど、わたし頭悪いから……やっぱ無理だったみたい」
「それで、俺を止めたのか……」
でも、反射魔術を使わなければ……いや、暴力になされるがまま屈するのは違う。それに咄嗟に発動してしまったのだろう。
「なぁ、見えた光景が変わる事はあるのか?」
「私の経験上……変えられた事はないよ」
「なるほど……」
見えても結果が変えられないなんて、何か特別な力なのだとしたら残酷なものだな。
「……ユウはこんな私が怖くないの?」
「あの呪いの魔女ってやつか?」
「うん……」
ポーラという少女が言っていた呪いの魔女。
マナ達の中等学院で何が起こったのかを知らないけど、その噂の由来はなんとなく想像できる。
マナは皆んなに、俺と同じ事をしたと言っていた。きっと中等学院で、マナは占いとして、皆んなの未来を予言してきたのだ。
占いなんて言い方をしたのは、そうでもしないと取り合って貰えなかったからであろう。
そうして、占いで悪い未来を宣言され、予言どおり不幸になった人からしたら、マナは自分に不幸を届けた呪いの魔女に見えるのかもしれない……。心が弱い人は、自分の不幸を誰かのせいにしたくなるし、何をしても変えられない未来なのだとしたら、よりそう思う人もいるだろう。
でもマナは、見えた未来みたいなビジョンを変えたいだけなんだと思うし、そこに悪意がないのはわかる。
そうだ、マナが俺に占いをしたのも俺の未来を変えるため。そして今日もエリカを助けるために行動した。
呪いの魔女? 何言ってんだ?
「俺は……まず呪いなんて、信じる性格じゃねぇな。大体さっきも言ったけど、まだ占いを信じてない。たまたまかもしれないからな……」
「えぇ〜……本当に疑り深いね」
「けど、マナは俺の最悪を止めるために、必死になってるんだろ? 俺を呪ってる訳じゃないんだ。怖い訳がない」
「……そっか。
なんだかユウは……あの人に似てるね」
「えっ? なんか言ったか?」
一瞬、マナの顔に寂しさを感じだが、俺の気の所為だったと思う。すぐに明るい100%の笑顔になったからだ。
「ううん、何でもない!
それよりも〜暫く立てないからおぶって行って〜!」
「はぁん? いやだね。自分で歩け 」
「えぇ〜! 私もう足がガタガタなんですけど〜 」
「何言ってる、ほれ! 休憩終わりだ。いくぞ」
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日は廻り、俺が入学して3日目の朝を迎えた。
太陽の光が射し込んだ寮部屋では、今日も昨日と変わらず、朝からグリーンはいないし、ケイはバカの一つ覚えのように、また寝ている。
まだ3日だというのに、二人共ほんと一貫している。
しかし、そんな日常となりつつある日々の中にも、昨日と変わっていくこともある。
俺は朝の支度を終えて、一限目の講義室に急ぐ。
そして、ザワザワと声が洩れ出ている講義室の扉を勢いよく開けた。
中に入ると、昨日の事件の噂を聞いてか、俺にも視線が集まる。だが、俺達は変わった。少しだけ強くなった。
何がどうとはあえて言う必要はないだろう。
俺は昨日と同じく、講義室の後ろの窓際まで、ゆっくりと歩いていった。
そこには……。
「あっ! ユウ、おっはよ〜!」
マナは昨日と変わって、元気に挨拶をしてくる。こうであってほしいなんて、決めつけは良くないが、マナには最初に出会った時のように、笑顔を周りに振り撒いてほしいと思っていたから、よかった。
「あぁ、おはようマナ」
そんなマナに、俺も俺の精一杯で、元気よく挨拶を返した。
まぁ、俺の精一杯なんて、だいたい常人の4分の1ぐらいだ。つまり普通より、元気はない程度のもの。
そして、もうひとり……。
「………お、おはよう。ユウ」
少し照れたように挨拶をして、決して顔合わせてくれない人物がいた。
なんだろう。あまりに器用じゃなくて、ぎこちない。もはや照れる動作を任せるなら、大根役者の演技の方がましなレベルかもしれない。
「ふっ……」
「ちょっと、いま! バカにしたでしょ! 」
「そんなことないって 」
「だったら、なんで笑ってるの!」
「ごめんって。おはよう、エリカ」




