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第61話 握られた拳

 マナはわかると言ったが、数カ所回っても、エリカの姿はなかった。


 そして、もうここしかないと言った場所。学院の敷地の端っこ、普段は誰も通りかからない様な、薄暗くよどんだ雰囲気の場所でようやく見つけることができた。


「ユウ! あれっ!!!」


 マナが指差した先に、エリカが力なく倒れているのと、それを取り囲むように数名の生徒が嘲笑っている様子が見えた。


 エリカが目に入り、打ちつけられた様な衝撃が……痛みが……脳を駆けずり回った。


 この光景を中等学院の頃、俺は何度も見てきた。


 そして、何度も眼中から反らした。知らないと、別にどうでもいいと。


 人間に対してのみ正義であったユウは、この光景を見ても一切の感情の起伏がなかった。


 でも俺は……俺は!! 理性の糸はぷつりと切れ、足は前に! 前に! 走り出していた。


「何してんだぁ!!! テメエ等ァは!!!」


 手に鈍い感覚が伝わる。

 気がつけば、俺はエリカを踏みつけていた一人に、全力で殴りかかっていた。


 俺の拳は、知らない女生徒の顔にめり込み吹き飛ばした。


 その場に登場した俺の目と、倒れたエリカの目が合う。 


 エリカはどう思っているのだろうか……俺の今の行動に対して……。


 アリシアを助けたあの日、エリカに言われた言葉が頭を過ぎる。


『ふざけんなよぉっ!!! まだ、その善人振った行為自体が苛つくことがわかんないのか』


 あの日、何も言い返せなかった俺は今度こそは、エリカに少しは示すことができただろうか。今の俺が出した答えを。


「ユウ……なんで……」


「エリカ、ごめんな。俺は……また偽善者になりに来た」


 さっきから頭の中がうるせぇなぁ……。

『もう、後悔したくない』そう、ただ心が叫んだのは、よくわかった。

    

「いてて、なんなんだコイツは……」


 俺が殴った女生徒は、特に大したことはない様子で立ち上がった。


 なん……だと? 俺は顔にしばらく消えない痣を作ってやるつもりで、殴りつけたのに。


 コイツの顔には、擦れた傷ぐらいしかついてない。

 不思議と痛みはなかったから気づかなかったが、むしろ殴りつけた俺の拳から血が出ている。


 まさか……コイツ等っ!! 身体強化術を使った状態で、エリカに暴力を振るっていたのか!!


「ゆるせねぇ……」


 頭に血が湧き上り……俺は無意識に魔術を求めた。

 自分でも何をしているのか、わからなかった。俺は式構造を理解していないのに、ただ直感的に使いたいと思った魔術を発動させようとしていた。頭は冴え渡り、欲しい魔術式を構築していく。


 圧倒的な力を……。


 そして展開された魔術は、ラヴィス弟キールの身体強化の術とよく似ていた。 普通の身体強化術よりも、力に比重を置いたもの……。


「お前は何なんだよ!! 私達になにかしたら、ただじゃすまされない!! お父様が黙ってないからな!!」


 少女達は、自分達に歯向かう人物の登場を予想していなかったのだろう。錯乱して、自己防衛に走っていった。


「うるせぇ……。とにかくもう一発殴らせろ」


 コイツ等の懲りない態度を見た俺には、すでに理性は残っていない。だから、自分の行いを客観的に見る余裕などない。


 ただ溢れた感情を拳に乗せ、発散しようとしている俺の行いは、大きな間違えでスマートでなかった。


 俺は再び拳を振りかぶる。踏ん張る足は地面にめり込んだ。そして、今放つことができる最高の一撃を打つ。


「ひぃっ!!」


 少女達の怯えた顔は見えていたが、もう拳を握った時には、手が止まることはない。



 ……そう思っていた。

 


 しかし、間に一人の少女が割り込んだため、当たる寸前で拳を止めることとなった。俺は慌てて、身体強化の術をとき、拳を地面に向けた。


「何しているだ? マナ……」


「ふぅ〜……間に合った。

 ユウに、こんなにも熱い一面があるなんて意外だった。でもね、暴力に暴力を奮ってもなんの解決にもならないだよ」


 俺はマナに諭されて、自分を取り戻す。


「そんなことは、わかってる……」


 コイツ等を痛めつけても、やってる事は同じ暴力だ。こんな事をしても、エリカが受けた傷も心の痛みを消えない。俺程度の人間が消してやる事はできない。でも……。


「でも、この怒りはどこに晴らせばいい?」


「え? そうだね〜……。壁を殴るとか?」


 マナは特に考えもせずに、雑なことをいってきた。何だか気が抜ける。


「なにいって……」


 ……でも、そんなマナがエリカを見る目は真剣で温かいものだった。

 

「まぁ見ててよ。スパッと終わらせるよ。

 ユウも誰かに聞いたでしょ……。私は呪いの魔女なんだ。任せて……」


 そういうとマナは一歩前に出た。


「なんで、貴方まで……」


 エリカはマナがいる事が不思議なのだろう。

マナを訝しく思ってそうな目で見ている。


「私……人間観察が得意だから、わかるんだ。

 エリカは希望を思い描いているのに、現実では絶望をありのまま受け入れている。

 

 私と同じ……。私も逃げてた、知らない目に怯えて、私としての想いを殺してた。

 でも、そんなの間違えてるって思い出した。

 だから、みてて。私はもう逃げないから、エリカも諦めないで!」


 この時、先程教室で何かに怯えた弱気な少女はもう其処にはいなかった。マナの背中からは、確かな自信を感じ取れた。

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