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第59話 信じる

 ずっと前、私が子供だった頃。


 一番のどん底にいた時……ある子に言われた。


『お前がツライのは理解できるから、信じてやるよ。それで、もしお前が立ち直れるなら、信じ続けてやる……』


 それは私がその時、一番欲しかった応えだった。彼は大勢から得られなかった物を与えてくれるといった。


『でも……かんたんに得た信頼は、きっとお前を最後まで助けてくんないし、大した役にも立たないと思うんだ』


 そう言われて、私また俯き……背けるように膝を抱えた。すると彼は困ったように言葉を付け加えた。


『まぁ……心配すんなよ。また辛くなったら、オレを頼ってくれ必ず助けてやる。オレはお前の想いを信じてるからさ』


 その時の私は、彼の言葉の意味をあまり理解できてなかったけど、彼と話した事をキッカケに暗かった空間から抜けて、前に進めたのは確かだった。



         ・

         ・

         ・


 俺が講義室に着くと、昨日と同じ場所。講義室の一番後ろ、窓際の席。


 そこにマナが座っているのが見えた。彼女は窓際の特権である太陽の光をぬくぬくと浴びながら、古びた本を読んでいる。


 俺はクラスの数少ない友達に挨拶をすることにした。


「マナ、おはよう。今日は起きてるんだな」


「あっ……。うん……。おはよう」


 マナはボソッと空気に潜むように挨拶を返してくれた。


「なんだよ、不安になるぐらい元気ないな。

 何かあったのか?」


 その質問と同時に、異変に気づいた。


 俺がマナに話しかけたことにより、講義室の空気が変わっていたのだ。


 流石に驚いたし、理解できなかった。


 エリカの時とは違って全員ではないが、エリカに話しかけた時と同じように、数人の生徒がコチラに振り向き、凝視してきたのである。


 その複数の目は畏怖の念を持って、マナを見ていた。そして、マナに話しかけた俺をも恐怖の対象として……。


 これはもしかしなくても、昨日廊下で話しかけてきた奴が言っていた呪いの魔女の話と関係あるのか?


 俺はマナの横に座り、周りに聴こえない程度の小声でマナに話しかける。


「なんで、お前に話しかけて、こんな空気になってだよ」


「あ〜、それはね……。ユウにやった事を皆にもやったからかな」


 俺がマナにやられたこと? 

 思考を巡らせた。そんなもん、まだ数回しか合ってない中、印象に残ってるのは……。


「それって、もしかしなくても占いのことか?」


「うん……。占い……みたいな物。

 本当は、誰にも二度と言うつもりはなかった。でも、ユウから見えたものがあまりに衝撃的だったから、ユウなら信じてくれると思ったから……」



「あの俺に遠くない未来、最悪が訪れると言ってたやつか……」


「うん……。まだ時間はあるけど、早く信じて貰えるように頑張るよ」


「そうだな、早く納得させてくれ」


「はは……。なんで、ユウが上からなの」


 ほんとうに元気がない、調子が狂って困る。


 昨日、教室で話した時は、最初にあったときと同じで、普通に元気だったんだけどな。まるで、なにか怯えているようだ。


 まぁだけど、こんな目で見られたら、そうなるか。


 俺は周りをみて寒気を覚える。この皆の目は、一体何を見ている目なんだ?

 エリカ達、魔人を見る憎しみの目でもない。本当にただ理解できない存在に怯えているように、睨んでいる。


 ……あぁ〜もう! どうでもいい! 周りの奴等の事なんて知るか!! 気を使うのも考えるのも狭苦しくて面倒だ。無視だ無視!

  

 そう心に決めた。


 そんなとき、予鈴の鐘がなる。講義の始まり5分前を告げる音。その音を聴くと、長年の学生としての習慣からか、皆が自分の席につき、講義の開始を静かに待つのだ。皆、キッチリとしているのは、さすがは国立。ここに来るのだから、真面目な奴が多いのは当然か。

 

 しかし、俺はある事に気づく。講義室を見渡して、足りない人物がいる事に。


 そして、いない事に誰も何も思ってなさそうなことに不快感を覚えた。


 エリカが居ない……。


 俺は元気のないマナに問いかける。

 同じ女子寮住みのマナなら、なにかわかるかもしれない。


「なぁ……。エリカは何処にいるんだ? 

 まだ来てないなんて、2日目から遅刻になるぞ」


「そういえば見当たらないね」


 すると、突然マナは顔色を悪くし。


「あっ……」


「どうした?  体調でも悪いのか?」


「ううん、いいや 」


「なんだ? もしかして……何か視えたのか? 」


「……うん。でも、きっと間違え。

 けど気になるから、確認してくるね 」


「おい、まてって。

 俺も着いていくから、何が視えたか教えくれ」


「いいよ着いてこなくて……ユウ、信じてくれないし」


「さっきは信じてもらえるように、頑張るっていったろ?」


「いっただけ……もう信じてもらえるとは思ってないよ」


「たった一回でー」


「『一回』じゃない……。私は何度も経験してきた、裏切られた」


「……確かに昨日は約束を破って悪かったよ。でも、裏切ったつもりはない。

 俺は……自分で言うのも何だが、疑り深いんだ。本気で心から信じたいから疑うし。根拠もなく、信じるなんて言いたくないから、探すんだ」


「今は根拠がないから、無理ってこと? 」


「あぁ、まだ信じれない……。

 けど、いま行動を起こそうとしているマナは、間違えてないと思う。

 だって、エリカを心配してのことだろ?」


「私……エリカのことなんて言ってないよ」


「なんとなくだったんだが違ったか? 」


「ううん、エリカが危険かもしれないんだ 」


「なら、俺も協力させてくれ。今はマナの想いを信じるから…… 」


「私の想いを……。

 うん、そうだったね 」


「どうしたんだ? 」


「ううん、少し昔のことを思い出しただけ……。それよりも視えたの……エリカも同部屋の人達とトラブルになってるかも 」


「なに? エリカも? 」


「そうだ……そうだ……そうだよ! エリカが大変な目にあってるかも! 今すぐ行くよユウ!!」


「おい、なに勝手に一人で納得してー 」


 急に思い出したかのように、活気を取り戻したマナは俺を無視して講義室を出て走り出した。


 しかし、トラブルって……まさかっ!!

 この時、俺は自分の考えの甘さを呪った。

 

 俺はこの状況にどこか、既視感を感じながら、マナのあとを追いかけるため講義室のドアに手をかけた。

 

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