第47話 生徒会長
俺らの試験が終了してから二日。
試験の予備日とされていた最終日の四日目であったが、つつがなく全試験工程は完了し、あとは結果を待つだけとなった。
そして何も無ければ今日の夕刻、式車に乗り、村に帰る予定だ。
当初の約束通り、帰るギリギリまで、皆で王都の周辺を見て周ろうと言っていたのだが、俺は昨日の晩、唐突にオリビア先生を通して学院に来るように召喚命令を受けていた。
ただ命令といっても、強制力はないらしい。
最初は昨日の応用魔術試験ついて、学院の試験実行委員からの呼び出しだと思っていたのだが、どうやら俺を呼び出したのは学院の生徒の代表である生徒会長様なんだと。
学院の生徒会長が、生徒でもない俺に用があるのだろうと疑問を抱えつつ。
俺は出向くため、皆んなに試験実行委員会から呼び出しだと嘘の事情を説明した。なぜかオリビア先生が嘘をつけと言ってきたからだ。
そして、もう来ることはないだろうと、思っていた学院のシンボルである城まで赴いた。
城のどえらい城門の前にはオリビア先生が待っていた。
「きたか……。もう一人は少し時間がかかっているようだ、先に入るぞ」
「はい、わかりました」
もう一人? 呼び出しの内容が試験についてなら、そう言われて浮かぶ人物はひとりしかいないが……。
先生に連れられ、大扉を抜けて城に入る。
学院の城内部は、白を基調としたクラシックな造型であり、さながら聖堂を彷彿とさせた。
案内された生徒会長室の前には会長の補佐と思われる真面目そうな男性が立っていた。
「おはようございます、オリビア先生。
連絡から招待まで、有難うございます。私が直接、迎えに行くべきだったのですが、残念ながらユウさんの顔を存じ上げなくて」
「いや、構わないよ。コイツは卒業生とはいえ、私の教え子には変わりない。これぐらいの世話は焼くさ」
「何から何まで本当に有難うございます。では、あとは引き継がさせて頂きます」
「あぁ。それと……もう一人は少し遅れる。時間は大丈夫か?」
「はい。今日は余裕を持たせております」
「なら、あとは任せたぞ」
彼はオリビア先生を見送ると、俺のほうに向きなおり。
「ユウさん。自己紹介が遅れました。私はジークと申します。どうかお見知りおきください」
「ご丁寧に有難うございます。私はユウと申します。よろしくおねがいします」
「はい。今日は朝早くからご足労いただきありがとうございます。会長は部屋でお待ちしております。ユウさん、どうぞお入りください」
誘導され、金の装飾が施された、いかにも高そうな扉をノックする。
「はい、入って」
部屋の中からは包み込まれる様な温かみがある女性の声が聞こえた。姿が見えないが、声だけで優しい人だと解った気がした。
「失礼します」
ドアを開け、生徒会長の部屋に入ると、そこはジャスミン茶の濃厚な香りが充満しており、会長の趣味が伺えた。
そして、特徴的な黄金に煌めく髪と青い目、高貴ながら優しい雰囲気がある顔立ちの女性が目に入った。
会長と思われるその人物は、部屋の奥の机で事務仕事を片付けているようだ。
「突然の呼び出し。ごめんなさい」
「いえ、問題ございません。
自分のことはもう存じ上げていると思いますが、ユウ オルティスと申します。本日は召喚に応じ、参上いたしました」
「はじめまして、私はここ国立魔術学院の生徒会長を務めさせてもらっているララ ノーマン……だよ。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします。
……えっと、本日はどういったご用件でのお呼び出しでしょうか」
「私に対して、そんなに固くならなくて、大丈夫だよ」
いや、畏まらない訳にはいかない。ララ ノーマン アクス、貴方様はこの国でも、有名なアクス伯爵のご令嬢でしょうが。それにアクス伯爵が治める領地に、俺たちが暮らすクーツ村も入っている。
失礼でもあれば、一体どんな処罰が待っていることやら。
「それにしても、急いでいるようだけど、もしかして、この後に予定でもあるのかい?」
俺の悪い癖というか性格だ。昔からせっかちで、結論を先に知りたいと思ってしまう。
「いいえ、大丈夫です」
「そうか、よかった。
なら、もう一人同じ要件で呼び出しているから、本題は彼女が来てからにしようか。
とりあえず立ち話は辛いだろう、そこの椅子にかけて話そう」
結局、その彼女って、やっぱり……。
俺は言われるがまま、応接ソファに座った。
「ユウはジャスミン茶を飲めるかい?」
「はい。いただきます」
会長はこちらに来て、茶葉とジャスミンの花が入ったポットからお茶を入れてくれた。
少しだけ飲むと、沈み込むような爽やかな花の香りが鼻を包み、緊張していた心がリラックスした。
「今までで、飲んだお茶の中で一番に美味しいです」
「ありがとう。私はお茶には少し拘っていてね。この花は友達に育っててもらっているんだ。彼女もその言葉を聞いたら喜ぶよ」
茶話も程々に、会長から切り出してきた。
「さて、本題に入る前に少しだけ、質問というか。君の認識の確認をしておきたくてね。いいかな?」
「はい」
「ユウ、君はこの国と魔人の関係をどう捉えている?」
「それはまた……」
「難しい質問かもしれない。今の魔族との関係を考慮すると……。だから発言しずらいなら、無理にとは言わない。
でも、今回呼び出した件と関連もある。ぜひ君の考えを聞いておきたい」
何故、そんな事を俺に聞いてくる?
この唐突な質問の目的が全く読めない。でも、もし会長が求めている答えを言えなかったら……。
それにまた魔族のことか。
「……」
「悩んでいるようだが、話してくれるなら嘘はなしだ。今の君の考えを聞かせてほしい」
「……解りました。正直に簡潔に述べさせてもらいます。
自分は元々、魔人に対していい印象は持っていませんでした。それは……私がユーフテスの民だったこともあると思います。だから、ロワード王国の魔人を受け入れる姿勢に疑問を抱く事が多かったです」
これはユウの本音だ。
「しかし、ここ一週間の出来事で考えが変わりました。
魔人は何も悪くありません。受け入れは正しいと、考え改めました。
ただ……今の国の対応は中途半端で、それが原因で国民と王の間に大きな認識のズレを生じさせていると思います。
様々な事情を考慮すれば仕方がないことだと理解できますが、この国が魔族との関係修復を真に望むのであれば、まずは魔人への対応を早急に見直すべきかと……」
これは俺の意見だ。
「なるほど。貴重な意見を有り難う。大変、参考になったよ」
「いえ、自分のような見識の浅い者の意見を聞いてくださいまして、ありがとう御座います」
話し途中、後ろからドアをノックする音が聞こえた。
「おっと、いいタイミングだ。どうやら来てくれたようだね。入ってくれ」
そしてドアが開かられるとそこには、やはりエリカがいた。




