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第46話 蒼い水晶

 その時、俺の中で想像していた少女の人間像が崩れ落ちる音が聞こえた。


 はい? なんだって? いきなり、未来が視えるとか意味がわからんこと言い出したぞ。まさか電波ちゃんだったのか。まさか、まさかな……。


 しかし、今の精神的に面倒事はゴメンだ。これは関わらないほうが身のためかもしれない。


「すみません。そういった話に興味はないので、他をあたってください。では、素敵な本をありがとうございました」


 そうして、振り返り帰ろうとした俺の袖を少女はいつの間にかガッチリと掴んでいた。


「まぁ待ちなさい。いきなり信じられないのはよ〜くわかってる。いつものこと。

 でも、これは冗談でも狂言でもないの。おそらく、そう遠くない未来。貴方は大きな災に遭遇することになる。これは変えることができない辛い未来よ。でもまだ……」


 どうしよう……とてつもなく胡散臭い。このまま壺を売りつけてきそうなほどの怪しさだ。


 適当に話を合わせて、信じているふりして、逃げるか。


「いやぁ〜なるほど。これから、俺は不幸になるんですね。助かりましたよ。忠告痛み入りますぅ〜」


「ムッ………」 


 俺の無感情な返事を不快に思ったのか。蒼髪の少女は頬を膨らませ、むっとした顔になった。 まるでリスだ。


「ぜん!ぜん! 私の言葉、信じてないでしょ」


 実際その通りだし、いきなりその手の話を振られたら、常人なら信じないだろう。


 ここは素直に言って、きっぱりと断わろう。


「確かに今の返しは良くなかったな……駄目だった。けど、これっぽっちも信じていないことは事実だ」


「そうも、ハッキリと言われると、傷つくなぁ……。

 まぁいいよ。私の力を体験したら、信じざるを得ないでしょうし。

 実は、ここは占いの館としても営業しているの」


 店の表には、一切そういった有無は書いてなかったし。むしろ、しっかりと古書店と書いてあった筈だが…………。


「はぁ、そうですか……」

 

「今日は特別に無料で、貴方のことを占ってあげる」


 なんだか押し売りされている気分だ。コイツからは絶対に逃さないという執念深さを感じとれる。


「何故、そこまでしようとする?」


「さっきも言ったけど、貴方の最悪が見えたの。だから……私は絶対に貴方をほっとけない」


 少女にふざけた雰囲気はない。至って真面目に俺を心配してくれているように見える。嘘ではないのか……。


「わかった。まずは占い結果を聞くよ。話はそれからだ」


「そんな態度を取れるのも、今のうちだけだから!」


 そして、徐に机の上に出したのは、蒼い少女とマッチした綺麗な海を思わせる蒼く濁りのない水晶玉だった。


 なるほど、占い師の定番アイテムで、雰囲気を演出してくるか。普段は料金が発生するみたいだし、もしかして結構本格的なのかもしれない。


「じゃあ、始めるよ」


 少女は水晶に手をかざし、目を瞑って念を込め始めた。すると、海色の水晶玉は淡く光だし、部屋一帯を明るく照らした。これはどういった仕組みなのだろうか。


「……視えた!」


 少女は目をカッ!と見開き、人が変わったように喋り出した。


「貴方は……そう、堅実で真面目な人。自分が正しいと思ったことを、愚直なまでに貫き通おすほどに。

 また正義感が強く、曲がったことが大嫌い。法律やルールはもとより、自分で作った倫理観にそって行動をする。

 そして、他人の痛みを感じることができるので、 困っている人がいたら手を差し伸べずにはいられない。


 しかし、あなたにはクールでニヒルな一面もあり、困っている人を突き放したり、毒舌を吐いたりしてしまうこともある。そのため、周りからは性格が悪いと思われたりもする。けれど、相手を陥れようとしているのではないため、親しい人はあなたの味方になってくれているはず……」


 よく噛まずに言えたな……。

 最後まで言い終えると少女は元のどこか抜けている様子に戻った。


「ふう〜ごめんなさい。少し長くなってしまったけど、当たっていたでしょ?」


 俺は占い結果を聞き、驚き表情を見せていた。

 少女は俺のその顔を見て、それ見たことかと、満足気な顔をしてニヤニヤしている。


 しかし、俺が驚いたのは見事に的中しているからではない。前世界でも有名なその占いの技法を知っていたからだ。俺は思わずツッコミをいれかけたが、押し留めた。


 最初は、コイツのこの自信なら或いは、神秘がある世界なら、いち占い師の実力も桁違いなのかと期待していたのに、非常に残念だ。そして、悔しいのがまぁまぁ当てはまっていると思ってしまったことだ。 


 占いを生業とする中で、ある程度は研究してきたのだろう。どういえば客が納得させることができるかを……。


「どう? どう? 黙り込んでないで、なにか言ったらどうかな」


 ていうか、だんだんコイツのしたり顔が憎たらしく見えてきた。

 なんだ? コイツのこの顔は、一発はたいてやりたい。いやいや待て、こんな事で感情的になっては駄目だ。


 一息吸うと冷静さを取り戻すことができた。


「すぅ〜……そうだな。まぁまぁ思い当たる気もする」 


「そうでしょ。そうでしょ。思い当たるじゃなくて、当たってるでしょ。コレで私の力を信じる気になったよね?」


 少女は満面の笑顔で成功を喜んでいた。


 しかし、そっちがそう来るなら、俺にも考えがある。


「いや〜それがさ。隠していたけど、実は俺も占いが得意なんだ。だから、今度は俺がお前を占ってやるよ」


「うん?? 占いがとくい? どういうこと?

 ……えぇっ! なんで、この流れで、私が占われることになるの?」


「同じ占い師として、仲良くやろうって話だ。え〜と、つまりな。俺は自分の未来を既に知っているから、心配無用だと言っているんだ」


 少女は流れを掴めていないようで、顔は鳩が豆鉄砲を食ったようになっている。そんなことお構いなしにいくがな。


「じゃあ、始めるけど。道具を忘れたから簡易的なものになるぞ、すまないな」


 俺は昔、テレビで見たインチキ臭い占い師の妖しい動きを思い出し真似する。手に気を込めたかのように動かし、少女に念を送る。そして、占い結果を伝えた。


「そうだな……。お前は周囲への共感能力が高く、人の役に立つことに喜びを見出すタイプだ。そして、面倒見が良く、周りの誰からも頼りにされている。

 また、めったにへこたれない強さをもっているが、だからこそ周囲からの期待を受けすぎて、急につぶれてしまうことがある。


 ……どうだ、当たっていたか?」


 少女は首を傾げ、考える。


「……あ、当たってるかな?」


 少女の醸し出す雰囲気から、即興で考えた占いだったが、当たって良かったよ。もしかして、才能があったのかも。


 まぁ、今はそんなことはどうでもいいがな……。


「これでわかったろ。俺も同業者だから、自分の身にコレから起こることは既に承知してる。  

 だから、ご心配はいらない。わざわざ引き止めさせて、すまなかったな」


「ちょっと! まっ……て」


 今度こそ帰ろうとすると、少女は俯いて身を震わせていた。そして、小声で何かをブツブツと言い出した。


「こ、こんなのってないよ。どうして、いつも皆……。私だって……別に……視たくて視てるわけじゃないのに。

 こんな仕打ち、おかしい……おかしいよ」


「お、おい、だいじょうぶか?」


 脱力したように俯いたかと思うと、次は驚かされるように、突拍子もなく少女は泣き始めたのである。


 何が起こったのか、俺には分からなかった。どうして目の前の少女は大粒の涙を浮べ、泣きじゃくってしまったのか。いや、俺の嘘があからさまな拒絶的な態度だったのが原因か?


「せっ、せっかぐぅ〜。私が貴方のことを思って言ってあげているのにぃ〜!

 どうして、そんな態度を取るのぉ〜!!

 私はただ、皆を助けたいだけなのに、なんでいつもみんなぁぁ〜!!! うわぁ〜ん!!」


 それからは大変だった。少女が何故泣いたのか、明確な理由を知らない中であやすのは。


 とにかく思いつく限りの励ましの言葉をかけまくること10分後、徐々に落ち着きを取り戻し、泣き止んだ少女は平然を装い言った。


「ご、ごめんなさい。取り乱して。

 ……今日は貴方の言い分、分かったことにしといて上げる。

 けれど、貴方はまだ私の力を信じていないだろうけど。さっき! 新たな未来が視えたから、それが当たっていたら、次こそは話を聴いてもらうから!」


 俺はまた泣かれたら、困ると思ったのでその約束を了承することにした。


「わかった。その予言が的中したら、絶対にお前の話を聞く」


「ふふん、約束だからね。

 それとお前はやめてよ。私の名前はマナ マクシーム。貴方は?」


「俺か? ……ユウ オルティスだ」


「へぇ、ユウっていうんだ。これから、長い付き合いになるかもだから、よろしくね」


 そう言って、マナは握手を求めてきた。


「これから長い付き合い? なんでだ?」


「だって、視えたから。ユウと私が一緒にいる光景が」


「はい?」


「だ〜か〜ら、貴方と私はまた会うの。たぶん近いうちにね」


「それが……予言なんだな」


「うん!」


「わかった。今度お前とまた会ったら、約束は守る」


 そういって、俺は出されていた手を握り返した。何が嬉しかったかわからないが、マナはニッと笑った。その無垢な笑顔につられ、俺も何故かわからないが嬉しくなり、吊られかけた笑顔を恥ずかしさから必死に抑えた。


         ・

         ・

         ・


 古書店の玄関扉前。


 あれから、また本をさらに買い足したりして、随分と書店に長居していた。気づけば、宿に戻るべき時間になっていた。


 マナは店番として、客であるオレを見送ってくれるらしい。


「本、また機会があれば買いに来るよ」


「ありがとう。正直、売上悪いからそうしてもらえると助かるなぁ〜」


 確かにここにいた数時間の間に俺以外の客は入ってこなかった。本が必要となれば、この都市にある馬鹿でかい国立図書館塔に立ち寄る人が多いのが理由かもしれない。


「あっ! ちなみに私の予言は、貴方がまたこの店に来るって意味じゃないからね。

 だから、私との劇的な再会をせいぜい楽しみにしておいて!」


「わかった。気長に待ってるよ」


 また妙な自信を取り戻したな。だが、これがマナの良いところの1つなのだろう。


「じゃあ、またね」と、別れと再会の挨拶をすますと、エマは店内に戻っていた。


 ……さて、そろそろ。アミー達との約束の時間だ。集合場所に行くとすー。


「初めての街でさっそく、ナンパとは……やるわね」


 俺の後ろには、身体が隠れる程に、沢山の荷物を抱えたアイナが、良いからかいネタを見つけたと不敵な笑みをしていた。


「うおっ!! びっくりした!

 ……アイナは、用事済んだのか?」


「まぁね。それより、さっきのかわいい子誰よ」


「た、ただの本屋の娘だよ」


「そうなの? おかしいわね……前来たときは、ここの店主はお婆さんだったけどお孫さんかしら?」


「さぁ? そこまでは聴いてない」


「ふ〜ん。でも、あやしい〜」


「そんなんじゃねぇよ、勘弁しろって」


「あれ? でもユウ。さっき鼻の下伸びてたけど」 


 あの屈託ない笑顔は魅力的ではあるが、インチキ占い娘に照れるなどあり得ない……よな。


「……まじで勘弁してください。できれば皆には内緒で」


「えぇ〜、どうしようかな。この荷物を持ってくれたら、考えようかな〜」


「はい、はい。仰せのままに」


 まさか見られているとは、数日はこの話題をいじられそうだ。

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