第41話 二度目の負け
天井が見えた。また寝ている。
こうやって起きるのは、この世界にきて何回目だ。いい加減、このパターンは嫌になってきた。
「あっ! 起きたのね、ユウ」
そう声をかけてきたのは、アリシアであった。
どうやら闘技場の治療室で、倒れた俺の看病をしてくれていたみたいだ。
「気分はどう?」
「少しクラクラするが、なんともない」
横たわりながら辺りを見ると、横にあるもう一つのベッドには、エリカが眠っている。
「……エリカの足は大丈夫なのか? かなり無理をさせてしまったからな」
「大丈夫。先生はすぐに治るといってたわ。基本の身体強化は体の外装に擬似骨格をつくる式、一瞬だけならダメージもそこまでないって」
「よかった。あとで謝らないとな……。
それと、やっぱり俺達……負けたのか」
「ええ……わかると思うけど、貴方が気絶したあと、完璧に決まってた水牢はルークの複合魔術で破られた。そして姉さんは身体強化の反動で動けなくなった。だから、二人の戦闘不能による負けが最終結果」
複合魔術? 嘘だろ……まさか複合魔術を試験で使ってくるとはな。
二つ以上の式を統合した非常に複雑な魔術だ。習得難易度が非常に高く、上級魔術師の資格を得るに当たって取得が必須とされていたりもする。それを高等学院入学前の学生が使ったって、そんなの反則だろ、ふざけんなよ。
俺達にとって、ほんとうに規格外な相手だったわけだ。もしかしたら、ルークは俺達の手の内を全て出させてから、圧倒的な実力差で負かすつもりでいたのか。
「そうか。負けか………」
「ねぇ、改めて聞いていい? なんで、こんなことしたの?
さっきは自己満足って言ってたけど、ほんとにそれだけ?」
「あぁ、自分のためだ。
そうだな。強いていうなら、あの兄弟や観客の魔人差別が鼻についたから見返してやろうと思っただけ。
まぁ、感情にまかせただけで考えなんてなかったから、変な真似しただけで終わっちまったけどな……」
本当にそれだけ。頑張っているヤツが報われない世界が嫌だった自分を守るためだ。
「そう……私達のために怒ってくれたのね。やっぱり貴方は変わってる」
「だから、お前達のためじゃないって」
「別にそれでいいわ。救ってやったなんて思われるよりも、こっちは気が楽だし。
それにね、大事なのは私達がどう捉えるか。
だから……ありがとうございました」
アリシアは椅子から立ち上がり、改まって丁寧に感謝を述べた。
そんなにかしこまらないでほしい。結果がこのざまでは、ありがた迷惑だろう。
……だが、受けとらない訳にはいかない感謝だ。大事なのは、相手がどう捉えるからしいからな。『ありがとう』と言われたら、こちらがどう思っていようと成立してしまう。
「……こちらこそ、ありがとうな。我儘に付き合ってくれて」
「それはエリカ姉さんに直接いってほしいかな……」
アリシアは姉の方を見る。そこには未だ寝息を立てながら眠る姉がいた。
「……いえ、やっぱり私から言っておく。貴方は会場の外で待ってる、お友達のところへ戻ったほうがいいわ」
そりゃそうだ。いま、エリカと話したらどうなるかわかったもんじゃない。また口論になる可能性大だ。
そして、ノア達が心配しているのも当然だ。
はぁ……約束したのに負けたから、アイナなんて怒っているだろうし。会いたくねぇなぁ。
「わかったよ。今日はもういく。それでさ……今度またお前達に会いにいってもいいか? 改めてお礼がしたいんだ」
アリシアは少し困った顔をした。そして、良いとも悪いとも言わずに。
「…………そうね。また今度、オリビア先生を通して、私達に連絡してくれたらいいよ」
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ユウが治療室を出ていったあと。
「もう行ったわ。姉さん。その下手くそな寝たフリやめていいわよ」
「下手くそ言うな。
……アイツのこと、一発どつき損ねた」
「そんなことより、姉さんはありがとうを言わなくてもいいの?」
「必要ないでしょ。別に感謝してないし、私達は何も変わってない」
「確かに救われてない。けど、気付かされた部分はある。ちがうかしら?」
「そんな覚えない……」
「ほんと素直じゃない、私見てたんだから。姉さん、最後……自分の魔術を見て泣いてた」
「あ、あれは、身体強化した足が痛かっただけ」
「ほんと? 私は自分が創った魔術が間違えてなかったと証明されて、嬉しかったんだと思ってた。だって誰から見ても最後の魔術は素晴らしい物だと、わかるほど完成されていたわ。
………ねぇ、いいの。もう会えないかもよ」
「いい加減、しつこい!
…………ちょっと、喉乾いたから、飲み物買ってくる!」
エリカはベットから立ち上がり、まだ完治していない足を引っ張りあげ、部屋の外に出る。
そして、たどたどしい足取りで廊下を歩いていった。
「まったく。ようやく行った……。ほんとうに頑固で不器用なんだから」




