第38話 エリカの心情
エリカの試合が終わってから、約4時間後。本日の試験、最終組が始まろうとしている。
「1日に2度もこの光景を見るとは思わなかった。本当にもう一度、試合するなんて……」
エリカは埋め尽くされた客席を仰ぎ見ながら、呟いた。
最後の試合と言うこともあって、会場から一般の観戦者は減っていた。しかし、他の会場の試験が早く終わっている影響で、自身の試合を終えた受験生や学院関係者が第三闘技場に流れてきていた。そのため、午前中よりも観客席は埋まっていた。
試合が始まる3時間前、ユウとエリカは入念に打ち合わせをしていた。
「俺が使う術式は、遠隔展開術式だ。術式が籠められ連動している魔鉱石あれば、使用者が近くにいなくても、発動させることができる。
まぁ……便利に聞こえて、デメリットの方が多いんだがな」
ユウがいうデメリットとは、発動時間、発動距離の制限、消費魔力の多さ等である。
「なるほど……この対になってるグローブに魔鉱石が埋められいるのは、魔力の送信用と、受信用というわけね。
そして、本来の使い方として想定していたのは、上級魔術師が行っている同時演算による2つ以上の式の発動を、疑似的に再現すること。もしくは複合(乗式)魔術の簡易化」
「さすがに理解が早くて助かる。だが複合魔術はこの道具じゃできないし、今からやる使い方は想定とは全く違う。
お前の術式の発動を、補助し負担軽減するのに使う」
「……どういうこと?」
「本来は構築から展開まで俺が遠隔ですべて行うけど、今回俺は構築までしかやらない」
「つまり、展開は私にやれっていうの?」
「そういうことだ。それに魔鉱石には、お前の応用魔術を保存してもらうから、俺には解けない」
「なんで? 私の魔術を?」
「俺の気分だ」
「……アンタの応用魔術ついては、おおむね理解した。けど、本当に上手くいくんでしょうね?
失敗する策に力を貸したくないし、私は無駄な事はしたくないの」
「あぁ、発動確認は今まで何度もやってきた、絶対に上手くいく……」
発言に反して、ユウの顔には不安と自信が交錯している。
エリカは目をつむり考えた。本当に成功するのか。ユウの事を信頼していいのかを……。
ユウには迷いは見受けられないが、不安は見え隠れしている。成功を信じて、失敗に怯えていた。
だが、重ねて見えた時点で折れてしまった。
今日の自分を見ている気がして、不満はあったが、助けずには協力しないとは言えなくなってしまった。
「…………わかった。やる選択肢しかないし、信じる。参加するからには絶対にアンタに勝ってもらうから」
「ありがとう……よし次に確認だが、試合中は、お前自身の魔力を使った魔術を禁止する。
そして、お前は魔術を使いたいタイミングで、合図を送れ、式の構築は俺がやるから、後は演算だけして展開すればいい」
「わかった……」
「じゃあ、さっそくグローブの魔鉱石にお前の魔術式を圧縮して付加しろ。式の導入はやったことあるか?」
「舐めないで、そのぐらい知ってるわ」
「だよな……すまない。
あぁ、それと言い忘れるところだった。2点注意点がある。まず、使用できる武器だが、事前の申請通り、その手袋と学院指定の短剣だけなんだ。
そしてもう一つ、魔術の使用の際、俺との距離に注意してくれ。離れれば離れるほど構築速度は遅くなるし、離れ過ぎれば術が発動しなくなることも忘れるな」
エリカは先程の作戦会議のやり取りを思い出し、使い慣れていない短剣を見ながら、溜息を漏らす。
アイツとの距離を守るって、戦闘において、やりづらいったらありゃしない。
この試合のことを考えると、アイツの言葉がイチイチよぎってくる。
あぁ〜! もぉ〜! むしゃくしゃする!!
アイツが何のために、こんな事やってるのか、私をどうしたいのかもわかんないし、この試合が終わったら、絶対に一発ぶん殴ってやる。
………それに、どうせ最後。やってやるわ。




