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第35話 エリカの戦い

 選手両者がフィールドの指定の位置に着いた。 


 観客の熱は、フィールドに立つ選手にまで、届くほど上がっていた。


「煩い外野だ。さっさと終わらせるか……」 


「あら、もう勝ったつもりなのかしら。確かに貴方は私に負けるから、早く終わるわね」 


 エリカは会話するや、否や相手を煽った。


「なんだ? てめぇは……。

 つかよ。さっきから思ってたが、その赤いチョーカー、お前……魔人だよな?  

 運が悪いやつだ。オレは相手が女なら、手加減してやるつもりだったんだがな。『魔族』なら話は別だ」


「へぇ。随分と紳士なのね。女に手加減できるほどの実力なんて、ないくせに」


「……お前はわざわざ俺を煽って、何を考えてる。殺されたいのか」


「何も、ただ思ったことを言っているだけよ」


「その物言い……後悔するなよ」


 キールは大剣を抜き、構える。それと同時に身体強化術を発動させる。


 エリカも装備していた巨大な斧を、地面に沿わせるように片手で持つ。


 もう二人の視線は、討つべき相手を見据え、離れることはない。


 観客の歓声がピークに達すると同時に、審判による試合開始の合図がなされた……。


 まず動いたのはエリカであった。前方からの縦の大振りを撃つ。


 斧による強撃をキールは容易に受け止めた。地面には衝撃が伝わり、それはフィールド全体を揺らすほどであった。


 そして、そこからお互いに大物の武器による激しい、ぶつかり合いが繰り広げられていった。


 純粋な刃物と刃物の衝突は、ただ迫力があるだけではなく。二人の豊富な戦闘経験による物か、無駄がなく洗練されていて、模範的な手合わせをしているように美しい。


 エリカは魔人としての怪力を活かし、片手で意図もたやすく、巨斧をまるで片手剣のように振り回す。その純粋な魔族に近いの腕力にキールは押されていく。


「なるほど。身体強化をせずにこの力。おもしろい……。ならば」


 キールは超接近での戦闘をやめ、獲物のリーチと身体強化によるスピードを活かした戦闘に切り替えた。


 そのフィールド全体を活用した縦横無尽の攻撃は、エリカの虚をつき、遠距離からの急激な接近攻撃により、翻弄していく。


「ちっ! やっかいなことを……。貴方の望み通り、すぐに終わらせてあげる」

 

 エリカはこの試合中で、初めて魔術を使おうとした。


 術式を構築……展開し、両手を地面に当てた。

 

 すると、キールの真下から土柱が追うように這い出る。それは四元素の内の土魔術であった。


 土柱の魔術はキールの行動を先読みして、素早い動きを制限するように、展開させていった。


 キールは、自分に目掛けて飛び出てくる土柱を破壊し避けるが、その膨大な土柱に動線が誘導されていると気づいていなかった。

 そして、魔術の展開を阻止するため、土柱による攻撃を避けながら、術者であるエリカに急接近する。


「これで終わりよ……」


 エリカは最後の決め手に、人を軽く覆うほどの水牢の術式を展開させた。水牢はキールを的確に捉え、分厚い水層の激流に閉じ込めた。


 魔術の使い過ぎたためか、エリカは肩で息をするほど疲弊している。


「こ……この牢は貴方が降参するか、気を失うまで、決して解かないわ」


 エリカは作戦が上手くいき、安堵した様子を見せていた。


「………なんだこれ?」


 しかし、エリカの渾身の水牢の術式をキールはひと息で薙ぎ払った。


「えっ……?」


 最初、エリカは何が起こったか、理解できなかった。


 身体強化の類の術式だろうか。キールの体は、魔力の膨大なエネルギーの余波を纏っている。


「何を驚く? この程度の魔術で俺を拘束できると思ってたのか? 冗談きついぜ……」

 

 キールはニヤリと笑い……。


「こんどは……こっちの番だ」


 唖然と立ち尽くすエリカの腹部に強烈なボディブローを入れた。


 さらに、よろめき前のめりになったエリカを、少しの手加減もなしに足蹴にした。


 転がるエリカの身体を地面が激しく剃る。エリカの身体はボロボロになり、土と向き合い、少しも動かなくなってしまった。


「『魔族』が魔術師の真似事なんて、笑わせてくれる。知らないと思っていたのか?

 魔人が魔術が苦手なことを……って、もう聞いちゃいないか」


 キールは勝負が決まったことを確信し、審判の方に判定を迫る。


「審判!! もう勝負はついた。相手は気絶している。俺の勝ちだろ?」


 しかし、彼は勝ったという慢心から気づけてなかった。エリカがわざと倒れているフリをしていることに……。


 観客の悲痛な、どよめきが会場を埋め尽くす。


 エリカは驚くことに、ボロボロの身体にムチを打ち、立ち上がっていたのだ。しかし、足元がおぼつかず、さらに目の焦点も定まっていない様子である。


 誰がどう見ても、エリカは既に戦える状態ではなかった。


 エリカは最後の力を振り絞り、斧を両手で構え、キールに目掛けて殴りつける。


 しかし、そんなエリカの起死回生の一撃も、キールはいとも容易く、剣で弾き返す。


 エリカの手から離された斧は地面に堕ちた。


「後ろから殴ろうとするとは、中々肝がすわってやがる。だが……力が籠もってねぇ」


 それでも尚、エリカの目には闘志が燃えていた。斧という唯一の攻撃手段を手放しても尚、キールに牙をむこうと拳を振りかざす。


「まだ……終わってない!!」


「はは、いいぜ。そんなに死にたきゃ殺してやるよ!!」


 キールは、素手で殴りかかってくるエリカに、両手で殺意を込めた一撃を振りかざした。


 次に響くは……剣が肉を打つ音ではなく、試合終了を告げるホイッスルの音であった。

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