第25話 赤い少女達
少女は紫が混ざったような赤色の髪、先の少女と同様に色白肌、そして赤い切れ目が特徴的である。
その少女を見て気づいた。オレは……ユウはこの赤紫色の少女をよく知っていた。この少女と自分の関係性と今の状況から、この先の展開を少しだけ読めてしまって、額から嫌な汗が流れる。
「アリシアごめんね。遅れた」
「大丈夫よ。姉さん。いい暇つぶし相手がいたし、そんなに退屈じゃなかったわ」
それはオレのことを指しているのだろうか。別に構わないが、暇つぶしって……。また棘がある言い方だな。
「えっと……彼? のこと?」
「そうよ。いつもの人達に絡まれている所を、え〜……助けてくれたの」
アリシアと呼ばれた少女は、姉であるエリカに対して言葉を選びながら、発言した。
「そうですか、妹を助けてもらって、ありがとうございます」
エリカは、好都合なことにオレの姿、顔がよく見えていなかったのであろう。教室に入る夕日の光によって、影になっていたオレの顔が……。
しかし都合が良いことは、長く続く筈もなく。教室の中の方まで入ってきたエリカの瞳には、ばつが悪そうな顔をしたオレの顔が写り、しっかりと視認されてしまった。
「……へぇ、すぐに気づけなかったわ。アンタだったのね。妹を助けてくれたのは」
オレの事に気がづいたエリカは、態度が嫌味のあるものに急変した。
「姉さん、この人のこと知っているの?」
「えぇ……。よく知っているわ。だって私達、同級生だったものね」
この時点で悟ってしまった。どうやら、アリシアから情報を貰うのことは、もう叶わなくなったようだ。いや、それどころか、次の機会すら与えられないかもしれない。
「貴方が、絡まれている妹を助けたって、それは随分と不思議な話よね。
わたしのときは、お友達と一緒に無視を決め込んでいたのに……。
それとも何かしら、自分より年下の子供には、でかい態度がとれるような下衆野郎だったのかしら?」
そうだ、間違えてない、ユウは無視してきた。だから、このまま黙って蔑まれ続けるのも、エリカが満足するのなら、構わない思っていた。
……が、何故かは自分でもわからない。つい、言い訳がましく反論してしまった。
「エリカ。そのことはさっき、アリシアにも言ったが。オレは自分のために動いただけでー」
話し切る前に、エリカは一層、言葉に熱を込めて切り返してきた。
「気安く、妹と私の名前を呼ぶんじゃない!!
あと、そんなことは言われなくても分かっているわ。私が言いたいのは、アンタの自己満足のために、妹を利用しないでって言っているのよ!」
……あぁ、もうダメだ。今の会話だけで、話し合いは叶わないことは分かる。何をどんな風に伝えても、絶対に逆効果になる。それに、エリカは間違えたことを言っていない。
悪いのは、見捨て見えないふりをしたユウと、今更自分勝手に中途半端な行動を起こしたオレだ。
オレの直感的で感情的な救いとも喚べない行いは、エリカにとって見れば不満の対象となるだけで、何もかもが遅く、無に等しい。
では、さらに言い訳をするか? 今のオレは昔のユウでないと。実はユウに乗り移った別人かもしれないと。
あぁ、これは最低で幼稚な発想だ、我ながらよくこんなことが思いつく。今更、人(人格)が変わったと言っても、口だけで突拍子もなく、何より根拠もないし不確定だ。
もし事実だとしても、言葉だけの真実になんの価値があるんだ?
…………ふう。いや落ち着け、最初から、話し合いが破綻することなど、解っていたはずだ、うろたえるな。
オレとエリカの鬼気迫った言い合いの喧嘩を見て、アリシアは今にも泣きそうになっているし。これ以上の刺激は不味いだろう。
またエリカの地雷を踏む前に、早急に謝って退散するのが、悪化を止めるギリギリの手段だ。
「わかった。今度からは、気安い考えで助けないし、お前たちに話しかけない。
そして、今回のことと今までのことは本当に……申し訳なかった」
「なによそれ……。ふざけないでよ!!
まだ、その善人振った行為自体が苛つくことがわかんないの!?
お前が謝って、また自己満足するだけでしょ!!
あぁ、もう顔も見たくない。ニ度と私達の前に顔を見せないで!!」
「………」
オレはその浴びせられた言葉に何も言い返すことができず、そして何も感じなかった。
いや正確にいえば、何を思い何を感じればいいのか、無知な自分にはわからなかったのだ。
悲しみや怒り、悔しさ、何も湧き上がらない。本当に何もわからないだけだ。
まぁ、考える事を放棄しただけか……。
でも、今は逃げれても、これからさき。この世界で生きていく上で、魔族と人間について考える場面には再び出くわすことになるかもしれない。いや、今日だけで2回目だ、確実に遭遇するだろう。
しかし、答えは今のオレの中には無いし、これから見つけられる保証も一切ない。
けれど……だからこそ、この出来事を脳裏に焼き付けなければならない。次には、自分なりの結論を導き出せるように。
そして、その自分の答えを堂々と引き下げ、生きて示さなければならない。それが、自分勝手なオレの、魔人達へのせめてもの、謝罪になると思いたい……。
オレは何も言うことなく、エリカたちの方に深々と頭を下げ謝り、教室から出ていった。
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ユウが出ていったあと。アリシアは、目に涙を含み、姉の手を握りながら、問いかけた。
「姉さん。あれで良かったの?」
「……そうよ。アレが正解だったのよ。半端な気持ちでアタシ達と一緒にいると後に、双方ともに後悔することになるわ。だから、コレでいいの……。
アリシア、怖い思いをさせて、ごめんなさい。でも何も心配いらないわ。私が必ず守るから」
アリシアは、このエリカの行動に疑問を持った。
何故、姉は自分の発言に苦しまなければならないのか。
何故、こんな悔しそうな顔を影に隠しながらワタシに笑いかけるのかを。
エリカの偽の笑顔を見て、アリシアは哀しみで涙を流した。




