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第24話 人間と魔族

 時刻は17時を回っており、校舎の窓から外を覗くと、空は橙色に染まっていた。


 部屋を出たオレは、ユウにとって懐かしの校舎をゆっくりと歩きながら、魔族との戦闘について、思考を巡らせた。


 あの魔族の実力が全魔族たちの中で、どのくらいなのかはわからない。

 いや、主がいる様子から、上位の魔族ではない、下位の魔族だろう。

 だとしたら、ただの下位魔族1人に、中級魔術師率いる小隊を壊滅させられるたということだ。

 同程度の魔族が魔王軍に山ほどいる可能性を考えると、9年前の戦争において、軍事力が低かったユーフテスが負けたのは自然だったんだ。 


 ……ユーフテスでの一件のあと、ロワードが勇者の力を見せつけ、クロムと魔族連邦の対立を無理に抑え込んでいるだけで、未だに魔族と人間の関係は緊張状態にあると言っていい。


 だからロワードにも、いつユーフテスのように攻め込まれてもおかしくない。この休戦は所詮は一時的なものと、唱える者もいる。


 今回の魔族侵入はその前兆で、以前のように、魔族と人間の全面戦争が現実となる日も近いのかもしれない。


 そうなれば、私は魔術師として、魔族達と戦うことになるだろう……。ユウの意思を引き継ぐとはそういう事だ。


 ただ、意味があるとは思えない。

 人類のためと言われながら、無駄死にするだけではないのか? 


 それに戦いは何を生む? 


 ただ悪戯に生物としての、価値を下げてきただけではないのか……?

 


 夢羽の疑問は尽きることがなく。これから高等学院を出て、王国軍に入ろうとしている人間が絶対に考えていけないことを、夢羽は頭に浮かべてしまった。上級魔術師になることに、疑問を持ってしまったのだ。

 

 私は魔族と戦い、ただ再び死ぬために転生したのか? 

 それがユウの運命だとしても、そんな運命は勿論だが望んでいない。ユウには申し訳ないが、願い下げだ。

 


 憂鬱な思考がユウの頭を回り、頭に毒が満たされるかのように思考は麻痺し、重くなっていった。


 そんなとき、鈍いユウの思考を妨げるように、子供達の攻撃的で、刺々しい声が廊下から響いてきた。


 ユウは、フラフラと声が鳴る方に釣られるように足を進めると、一つの教室に辿り着く。


 この階に主にあるのは、一回生の教室だった。


 扉は開いており、中を覗くと複数の子供が、強く印象に残る白く美しい髪の少女を取り囲んでいたのだ。


 ネクタイの白色を見るに、囲まれている少女を含めて、全員が1回生のようだ。


「昨日の件、アンタの仕業なんでしょ!

 お父さんが言っていたわ。あの音は魔王軍の先制攻撃じゃないかって」


 昨日の音については、市長が問題ないとした筈だが、そう噂する人がいても違和感はない。

 実際に魔族はいた訳だし。


「そうよ。アンタが手引きしたに決まっているわ」


「さっさと、認めて警備部隊に自首でもしたら」


「…………」


「なに……スカして黙ってんの……はやく白状したらどう!!!」


 白い少女は沈黙を守り続けている。


 私は、他人を構っている精神的な余裕なんてなかったし、子供の問題に手出しするつもりはなかったのだが……。


 あまりに理屈が通らない理由で責められていた少女を不憫に思い、思わず口を出していた。


「すまない、失礼するぞ。話の腰を折るが、もうそのぐらいで辞めておいたらどうだ。その子が困っているだろ」


「……あんた誰? なんで、私たちのクラスに入ってくるなよ。

 もしかして、ロリコン不審者さん? 不審者なら、今すぐ通報するわよ」


 確かに、今のオレは制服を着てないし、いきなり、知らない男が教室に踏み込んでいった状況だ。不審者に間違えられるのも、分からなくもない。なら、ここはもっともらしい言い訳で乗り切るとしよう。


「違う。オレは此処の卒業生だ。たまたま、都市による機会があったから、先生に挨拶しに来ただけだ」


「……あっそ。それで卒業生さん。つまり、もう部外者の貴方が私たちのやっていることに何か文句があるわけ? 

 何? もしかして、私が言っていることが、間違っているっていうの?」


 この集まりのリーダーと思われる少女がガンを飛ばしながら、強気な口調で反論してきた。 

 

 ちょっと、カチンと頭にきたが、ここは年上として、大人の対応を見せなければな。


「間違えているのかどうかは、オレにもわからない。でも、正解とも言い切れないだろう。何を根拠に、そこまでの確信が持てるんだ?」


 少女は呆れた顔をして、さぞ当然のように口にした。


「はっ、そんなの簡単よ。コイツが『魔人』だからよ。きっと外の魔族と結託して、攻撃を仕掛けてきたんだわ」


 少女たちの理由を聞いて、落胆し言葉を失ってしまった。


 確かに魔族の襲撃となれば、人間と魔族の混血である魔人を連想するのも分からなくもない。


 しかし、やはりその程度の理由を根拠とは呼べない。こんなのはただの言いがかりだ。


 オレ達が在学していた、当時も魔人の生徒はいた。そして、同じ様な扱いを受けていた。

 ユウはここの学生だった時に、そういった場面に出くわしても、彼らしくもなく、手出しも口出しもしていなかった。


 でも、今は……。


「お前たち、今更なにを言ってる。勉強しなかったのか?

 よく見ろ、彼女の無実をその赤いチョーカーが証明しているだろう」


 白い少女が首に着けている赤いチョーカーは、ユーフテスでの戦争が始まったあとに、在留魔人を監視するために、作られた特別な物なのだ。


 ロワード王国は、戦争開始直後。自国の魔族と人間の混乱を避けるため、国内にいる全魔族に強制退去を命令、さらに魔族の入国禁止を実施した。


 同時に、中立国であるの事を魔族側に主張するために、ユーフテスとクロムへの一切の支援をしない事を表明した。

 

 ただ……在国している魔人が留まることは許可したのである。理由として、魔人を一方的に追い出すという行為は、彼らを人間として認めないということに繋がる。それは王の本意ではないからであり。

 何より魔族連邦側が魔人の受け入れに難色を示したからだと聞いている。それは魔族連邦の現統治者の意向であり、連邦内で純血主義の力が強まった影響らしい。


 だが、もちろんロワードに留まることも簡単ではない、国が示した条件を達成しなければならない。殆どの魔人は出国することを選んだことから、その難しさが分かる。


 条件とは、国が出す多くの細かな審査を通ること、そして通過後も継続的な調査と監視を受ける事、これらを例外なく全て満たして、ようやく定住が許されているのだ。


 そして、この「赤いチョーカー」は、その監視の補助道具として利用されている。


 これは、人間である証明。魔力を全く所持していない生物がつけると、赤い色が変色し、赤黒くなる作りなのだ。どういった原理なのか詳しくは知らないが……。


「そんな常識は知っているわよ。でも、解らないでしょ。遠隔通信で手伝ったかも知れない」


「いや、それもないだろう。魔族としての能力の詳細は、義務として国に証明書を提出しているはずだ。仮に通信伝達能力がある人ならー」


「うっ……正論ばかり、うっさいんだよ。この偽善者がぁ!!! 

 そんな事はどうでもいいんだよ。ただ私はコイツらが憎くてしょうがないだけ!! どうせ、お前には魔族に親を殺された私達の気持ちなんて解かんないだろうな!!!」


 彼女もユーフテス出身なのか……1回生なら、戦争当時は1歳か2歳。この年まで生きていく上で、とても辛い想いを沢山してきたのは、想像に難しくない。だけど、オレというかユウもそうだ。


「……そんなことねぇよ。オレもこの国まで行き着く間に、両親を二人とも魔族に……。だけど、それと魔人は関係ないだろ!」


「煩い!! もういい!!」


 オレの話を最後まで聞かずに、自分より年上の人間に正論を言われて、つまらなくなったか、気分を害したのか、白い少女を残して、彼女たちは教室から出ていってしまった。


 煩かった彼女たちが退出し、オレと白い少女がいる教室には、放課後の静けさが戻っていた。


「……お礼は言わないわ。別に平気だったから」


 沈黙を守っていた少女から、始めて声が発せられた。


 妙に大人びた雰囲気の少女は、暗く突き放すような赤目を向けてきた。


「お礼なんて最初から求めてない。

 アイツらが言っていた通り、オレは偽善者だから……。勝手な同情からお前を助けて、勝手に満足するような惨めなやつなんだよ」


 少女は少し考えてから、小馬鹿にするように言った。


「つまり、お人好しバカってことかしら?」


「ふっ……馬鹿って所はあってるよ」


「……ホント。あなた、変わった人なのね。そんな考え方じゃ、この先の人生楽しめないわよ」


 あれ? 何故、オレは年下から説教されているだろう。


「え〜と。困ってないやつに、助言はいらないだろうが……もし、これからアイツらの行為がエスカレートしたら、オリビア先生なら必ず力になってくれるから、相談しろよ」 


 オリビア先生は、魔人に対して差別もしないし、特別扱いもしてなかった記憶がある。だから、頼れば真摯になってくれる筈だ。


 問題はこの子が相談するだけ無駄だと思ってそうなところだけど……。


「そう……肝心な所は他人だよりなのね」


 先程から、この子の何気ない棘がある発言により、精神的なダメージが蓄積されていって、地味に辛い。


「ごめんなさい。少し意地悪だったわ。  

 でも、本当に大丈夫よ。普段は無視するだけで、何もしてこないし、どうせ明日には忘れてる」


 この少女にとっては先程のような出来事は、日常の一部であり、取るに足らない事なのかもしれない。


「そうか。いらぬ気遣いだった」


「それに……アイツらはわかっていない、頭が悪いやつらよ。私にはあんな芸当できっこないのに」


 頭が悪いやつらって。冷静に振る舞っていたが、やっぱり少しは頭にきてたんだな。


 しかし、気になるのは、あんな芸当ってなんの事だろうか。


「その芸当って、昨日の爆音のことか?」


「少し……違う。空に大きな亀裂が入っていた話よ」


 大きな亀裂? 少なくとも、俺の周りでは、そんな現象を見たという人はいなかったがな。やはりオレ達の村の方が、遠くて良く見えていなかっただけで、実際は起こっていたのかだろうか……。


「そんな現象、起こっていたか?」


「貴方もママみたいに信じないでしょうけど、私は見たわ。一瞬の出来事だったけど、空にとても大きな亀裂が現れ、割れ目から光が漏れ出たのを」


 オレは今の発言に聞き覚えがあった。昨日聞いたルイの発言と一致している部分があるからだ。

 ……恐らく、この少女が見た物は見間違いではない。だとしたら大袈裟な言い方だが、この子が見た物が重大な鍵であるのは明らか。

 少しでも多く有用な情報は掴んでおかないといけない。


「その話をもう少し、詳しく教えてくれないか?」


「……そうね。教えて上げてもいいわ。けど残念、今日はもう時間がない」


 少女は時計の時刻から、予想していたようだ。迎えがくることを。


 廊下をバタバタと走ってくる音がした。


 そして教室に勢いよく入ってきたのは、オレと同じぐらいの年だとの思われる赤いチョーカーをつけた少女だった。

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