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第23話 魔族

 目が覚めると見慣れた天井がすぐに目に入った。体の傷は手当をされおり、治療のためにベッドで眠らされていた。


 不思議だ……。

 魔族に拳に打たれて青紫に変色していた筈の腕や体から殆どの痛みが引いており、戦闘などなかったかのように、傷も消えていた。


 この回復速度は、回復術式を使ってくれたのだろう。

 

 回復術式は、術者と対象者の魔力を使い、生きている人間の自己修復能力を少しだけ上げる魔術式である。


 仄かに薬品や消毒薬の匂いがする。どうやら、ここは保健室だ。


 ユウが何回か喧嘩したり、無茶して怪我した時に運ばれたからわかる。


 ここはユウ達が少し前まで通っていた学び舎、ポトル都市の中等魔術学院。


 ベッドから起き上がると、其処には同じ様にベッドに寝ているノアと、先生が机に向き合って仕事をしているのが見えた。 


 先生はオレが起きたことに気がつき、作業の手を止めた。


「あぁ、起きたの……。傷は大したことは無かったけど、まだ安静にしておきなさい」


「はい……」


 オレは言われた通りに再び横になり、事の顛末を知りたいがため、質問を投げかける。


「先生、あの場では何が起きていたのですか?」


 そのあまりに曖昧な質問に、先生は困った顔をしていた。


「それは……昨日の現象についてなのか、魔族についてなのか、どっちのこと?」


 今日、あの場所を訪れた本来の目的を考えれば、昨日の現象について聞いておきたいが、今はあの魔族について知っておきたい。


 それに恐らく少なからず、あの場所の現象と魔族は関連していると思う。魔族が目的もなしに、あそこに出没する訳がないからな。


「すみません。いまは魔族の襲撃についてです」


「そうか……。でも、その事については私も先程、得た情報しか知らないよ」


「それでも構いません、教えて下さい」


「わかった、簡易調査による事実を述べると、前日に派遣されていた魔術兵小隊、うち中級魔術師、隊長1名ならび中級魔術師4名、魔術兵30名は全員死んでいたよ。それは確認、確定している。

 そして、あの魔族には人間に寄生する力があったと推察されてる。

 あとは、そう……。目的に関しては、私達と同じく謎の音の調査にきたのか、そもそもその音も魔族が原因であり、ユリをおびき寄せるためのものだったとかが考えられるでしょうね」


 先生は簡潔に、そして懇切丁寧に、オレに教えられることだけを答えくれた。


 あの化物が魔族だということは確定事項。

 つまり魔族が、安全が保証された国内部にいた。これは、国の外周を覆っている守護結界が破られたということなのだろうか……それともあの魔族の能力と関係しているのか。


「先生……魔族が居たということは、守護結界が破られたということでしょうか?

 それにあの魔族が言っていました。姉さんが結界の守護者だって……」


「いまのお前にとって、そこが一番気になるところだろう。

 しかし、すまない。私の口からは、多くを語れないんだ。それはユリも同様だ」


 守護結界の話は、守秘義務に反するということかだろうな。

 

「……いえ大丈夫です。理解してますから」


「ただ、これだけは言える、安心しろ結界は今も正常に働いているのは間違えない」


「そうですか……」


 守護結界が破られたということはないのか……。

 まぁ、もし破られていれば、今頃王国に他の魔族が攻め込んで来ていてもおかしくない。


 だとすれば、魔族側も侵入手段が完璧に確立されていないのか。それかただ攻撃する事が目的じゃないかだろう。まだまだわからない事は多いな。


「ありがとうございます。事件で知りたいことは、大体はわかりました」


「そうか……」


 先生の話を聞いて、オレはまた頭の中で様々な要らぬことを考え、混乱し気分を悪くしてしまった。

 たまらず、精神のリフレッシュのため、外に出ることにした。


「あの……先生、外の空気を吸いたいので、少しだけ保健室から出てもいいですか?」


「別に構わないが、体は何ともないのか?」


「大丈夫です。もう痛みもありませんし、すぐに戻りますから」


「わかった、気をつけてろよ」


 そうして、オレが保健室の扉をあけようとしたとき、先生に呼び止められた。


「まて、ユウ。一つだけ言い忘れていた……後で詳しく説明するが、魔族の事は誰にも話すなよ」


 恐らく、まだ魔族の侵入は国民が知るところではないのだろう。


「わかりました……先生」

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