第22話 火炎の女王
「さすが、火焔の女王の名は伊達じゃないわね」
「はぁ……いい加減、恥ずかしいから、そのダサい呼び方はよしてよ。
それに私の実力では女王の名に相応しくないって言ってるでしょ」
「そうだったわね、ごめんなさい」
オリビア先生は謙遜しているが、火炎魔術式についてなら、この国の五本の指に入る使い手であることは間違いない。
そんな先生の戦う様子はクールな性格や雰囲気からは乖離して、豪快で荒々しい。しかし、力技だけなのではなく。火炎は繊細なコントロールから繰り出されており、一度捕捉されれば、逃げ切れる者はそうはいないだろう。
「それで……一応、逃げないようにはしたけど、私の手助けはいらなかったんじゃない?」
「いえ、あの魔族の回復能力は、私では埒があかなかった」
「……え? こんな時に冗談?」
「ほんとよ……。何より、追い詰められた者の最後の足掻きは一番危険なの。変な行動をとられる前に火炎魔術で一瞬で灰にしてちょうだい」
「まぁ……いいけど。
生け捕りじゃなくていいの? 今回の件について多くの情報を持っているかもしれないわよ?」
ユリは怯える魔族と、周辺に散らばる人間の死体をもう一度見て考えた。
「そうね……本当はそうするべきなのかもしれない。でも、この魔族は下っ端とはいえ、人間を操る能力を持っている危険な存在。
いま、優先すべきは国内部の安全。悠長に構えて逃がすよりは、いま確実に仕留められる方がいい。
それに一番重要な、この国に入った手段は、大方検討はついた。
だから……あの腕輪はその予想の裏付けに必要になるから残しておいてちょうだい」
魔族は先程叩きつけた腕輪をいつの間にか拾っていた。まるで最後の命綱のように大事に握っている。
「わかった……。あれが残っていればいいんだね」
渋々、その注文を受けると、オリビア先生は黙り込んだ。術式の展開に集中しているようだ。
魔族は実力差を理解したのか、逃げられないことに絶望したのか、それとも、これから訪れる自分の最後が視えてしまったのか。
未だ、精神と身体が硬直して動けない。ただ口だけは動くことが許され、命乞いを始めた。
「やめろ、やめてくれ。命だけは!! 何でもする。お前たちが望む情報なら何でも話す!」
オリビア先生は一切表情を変えずに、突き放すような態度でその願いに答えを出す。
「嘘ね。どうせ逃げるつもりなんでしょ?
それに……もう遅い」
次に見た光景は自分の無力さと、これから、目指す壁の高さを同時に示してくれていた。
けたたましく空気が燃える荒々しい音ともに、地から伸びる巨大な火柱は、大気を焼ききり、近くにいる生物に呼吸を許さない。
そして、魔族は逃げる暇すら与えられず、超再生能力など関係なしに、瞬く間に空気中を舞う灰と化した。
「ふう……。これでいいの? お望み通りにしたけど」
魔族を焼き、ユウ達を囲っていた巨炎達はオリビアの合図一つで殆どが消えさった。
「えぇ、上出来……」
ユリは燃え残りを容易く払い、燃え跡に近づく。そして、魔族の残骸と思われる塵から、腕輪の破片を拾い上げた。
「ちょっと……腕輪も粉々で原型がないんだけど?」
「無理よ。同時に2つの要望を完璧に実現するのは。諦めなさい」
「はぁ。まぁ……いいか。欠片から鑑定できるでしょう」
「やったのか。途中から頭がついていけてなかったぜ」
「あぁ、よかった、ほんと、死ぬかと思っー」
二人の会話を傍に、魔族の消滅を確認したユウとノアは、緊張の糸が切れたのか、その場に寝込むように倒れ込んだ。
「おいっ! だいじょう……」
最後に耳に残った先生の身を案じる声は、全てが脳に届くことなく、意識が切れた。




