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第20話 上級魔術師

 認識阻害の術式を解除して、鮮やかな装飾が施されている白いローブに身を包んだ人物が現れた。


「嫌な予感てのは大抵当たるものなんだね。

ほんと……最悪の気分だよ」


 空から降りてきたのはユウの姉であり、上級魔術師のユリ オルティスであった。


 ユリは周りの様子・状況を見て、酷く苦悶の表情を浮かべる。


 そして、この惨劇への過程を即座に読み解き、ほとんどすべてを理解した。


「ユウ、ノア……無事でよかった。この状況下でも、冷静に術式の展開ができたみたいね、よくやったわ」


「姉さん! そいつ魔族だ。気をつけろ!」


「わかってる……」


 魔族は突如として現れたユリに警戒の眼差しを向けている。


「女……いつの間に、近づいてきた?」 


「貴方、認識阻害の術式も知らないの……? 

 だったら、大したことなさそうね。安心した」


 認識阻害術式はその言葉の通り、対象とするものから認識されなくなる魔術、上級魔術レベルだ。ただ認識されにくくなるだけで、完全ではない。


「魔術に頼ることしかできない弱者がよく上から物を言う!!

 でも……お前の事はよ〜く知ってる。

 まさか、結界の守護者のひとりが、ノコノコと単独で来るとはね。

 フッ、間抜けとしか言いようがない」


 魔族は何の話をしている? 

 姉さんは去年、国立高等魔術学院を卒業後、王国軍に入り、この領地に配属になったとは言っていた。その姉さんが結界の守護者だって? 

 確かに守護者の正体は明かされていないけど……そんな馬鹿な。


「……だからなに?」


「いや、本当に嬉しいんだよ。

 わたしさぁ……ユーフテスと違って、ここの魔術師はレベルが高いってきいてたんだよ?

 なのに最初の奴らといい、この二人といい。ほんっと弱すぎて。

 あの方の命令が理解できないと思ってたところだったの。

 でもやっと骨がある奴と戦えると思うと……嬉しくてゾクゾクしちゃうよ」


 魔族の高まった殺意を感じたのか、ユリは戦闘の準備に入る。ローブ内部に装備していた、刀身が約50センチの剣がユリを護るかの様に六本、空中に渦巻く位置で展開された。


「私は戦闘が専門じゃないんだけど、貴方の望みに叶うかしら」


「そんな物騒な武器、たくさん出しておいて、なに言ってる? それに……弱ければお前らが終わりってだけだ」


 お互いの会話による牽制の時間は終わり、戦闘は静かに開始される。


 魔族は大地を蹴り、目に捉えれない速度で前方に出る。

 魔族の白く美しい細い足から想像できない脚力で、蹴りだされた地面は大きな亀裂が入り、割れた。


 そして、先程のユウへの攻撃と同じ様に、ユリの視界の死角である頭上まで一瞬で移動して、短剣で斬りかかった。


 そんな一撃を、ユリの展開している内の一本の剣が高速で頭上に移動し、当然の如く、受け止める。


 その間、ユリが顔の向きをかえる様子もなかった。


「貴方……早いのね。それに力もある」


 受けられた魔族は相手の技量を測るためか、一度距離をとり。

 そして、相手にひと呼吸もつかせぬ間に、異次元な身体の能力から成される斬撃を、四方八方いや、縦横無尽に仕掛けた。


 その猛攻をユリを護る六本の剣は、まるでその一本一本が生きているかのごとく、煌びやかに舞い、受け流す。

 六本全ての剣が動き出す頃には、形勢がユリに好転し、魔族の女は僅かな乱れをつかれ、攻撃をするどころか、見動きが取れなくなっていた。


 ユリが操る、複数の剣によって網の目の様に繰り出される斬撃は、魔族の腕を確実に捉える。

 気づけば、魔族の腕は宙に飛ばされ、辺りに血が舞い散った。


「ちっ……厄介な剣だね。一つ一つに目でもついてるのか」


 斬れた切断面、二の腕辺りからは、心臓がドクドクと脈打つたびに血が漏れ出る。


 しかし魔族の女は驚くことに、腕が切られたというのに痛がるようすはない。むしろ、冷静に相手を分析する余裕まである。


 それもその筈、この魔族にとってこの程度の傷は、無いに等しいからだ。


 魔族の女は、切られた腕を拾うと切断面同士を擦り付け、数秒で腕を接着してみせたのだ。


「えらく、驚異的な再生能力を持っているのね。それも能力の一つ?」


「えぇ……そう。つまり、私の再生能力を上回らない限り、お前は私には勝てない!」


「そうね、私の剣では無理かもしれない。 

 でもお互い様でしょ。貴方程度の攻撃、私には一生届かないわ」


「言ってくれる。なら、これはどうかしら……」


 魔族はそういうと、魔術兵の死体がある丘に手で指示を出した。

 すると先程まで、果ててピクリとも動いていなかった魔術兵があろうことか起き上がり出したのだ。

 魔術兵の中には身体が破損、欠損している者、四肢、頭部が歪に変形している者もいる。 

 しかし、人間の元の造形など関係なく、彼等は人の限界を超える速度で地面を這いずり、走り、ユリがいる方に向かおうとしている。


 その動きは最早、生きた者の動きではない、身体に痛覚など無いのだろう。


 そんな体の骨格の限界を無視した、奇怪な動きは見た者に痛々しいさを感じさせる。


 でも、この魔族の判断は合理的なのかもしれない。一見して、ユリのこの魔術は、最大捕捉人数や術の有効範囲からして対大軍戦や、遠距離戦に弱いのが特徴に思えるからだ。


 ここで複数のアンデットから、ユウたちを守りながら、戦うのは明らかに不利であろう。

 

 それに……。


「人間、お前には仲間の死体を切り刻むことが、できるかな?」


「………」


「さっきの女はよかったなぁ……。遊び甲斐があったよ。

 『攻撃できない』とか言ってな、仲間が洗脳でもされてると思ってたかしらないけどさぁ。

 でも……フッフヒヒ、それ見て閃いたんだ。

 そいつの中に入って、残ってる奴全員殺してやろってね。

 ヒャハッヒヒヒ……本当に惨めで、『やめてやめて』って心の中で泣いてやがるんだ。最高に楽しかったよ。

 ……なぁ、傑作だろ?」


 魔族は上機嫌に長々と喋り、人間を見下し、あざ笑った。



 村での姉さんしか知らないオレに、不安が過る。

 姉が本気で戦う姿だって、いま初めて見ている。それに普段の姉からは……。この国の民の未来を信じて、守っている姉からは想像できなかった。

 死体とは故、元人間だった物を斬る姉の姿を……。


「つまらない話ね……」


 オレの不甲斐ない心配とは裏腹に、姉の鋭い眼光は目的を見据えて、ブレなかった。


「……国を守ろうとする者が、その程度の覚悟も持ってないと思ってるの?」


 姉は魔族の醜い挑発に動じなかった。そして、剣達は襲いかかってくる何十人もの凶暴で俊敏なアンデットをいとも容易く、一息に捌いていった。


 その攻撃には、一切の躊躇を感じられない。


「くっぐぅ……」


 ユリがアンデットの攻撃で見せた隙きを狙うつもりだったのか、明らかに魔族の顔には焦りの色が見え始めた。

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