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第19話 笑う女

 オレはほんの一瞬考えた。この女は何者なのかを……。

 でも、一瞬の躊躇が命を手放すことになると知っていた。だから、考えても迷いはしなかった。オレはより大切な方を選択する。

 

 そして、ユウはとある魔術を発動させた。


 女の攻撃を、敵だと思っていなかったノアが反応できるはずもなく、体を切り裂かれた痛みで、苦痛の表情を浮かべるばずであった。


 しかし女の攻撃が、ノアに届くことはなかった。攻撃が届く前にポケットからひとりでに中級程度の火炎魔術式が女に向けて展開され、巨大な炎が女を覆い、襲ったからである。


「あづいぃぃあづぃいい!!

 なにがおごった! あり得ない。このわたしがぁ!!」


 瞬く間に女の体は火に包まれ、身を焦がし苦悶の表情で絶叫した。女は完全に不意をつかれたためか、何が起こったのか、未だに理解できていない。


「いましかない。ノア、逃げるぞ!!!」


 一瞬の隙きをつくり、ユウたちは再び帆車に足を進めた。しかし、後ろから感じる。首がはねられる錯覚を起こすほどの殺気に体が強張り、上手く足が動かない。


「ギャッャャァァ!!」


 逃げ惑っていると、肉の塊が破裂したかのようか音が後ろから聞こえ、同時に女の肉片が飛び散り、ユウ達の体に血の雨が降り注ぐ。


 額の汗ともに流れる血液を見て、ユウたちは悟ってしまった。逃げきれないと……。


「無理だ!! アイツはこの程度では長く足止めできない。車に着いたとしても、追いつかれる!」


「なら、どうするんだよ!!」


「立ち向かうしかない!」


「本気で言っているのか! 俺は既に魔力のほとんどを使ってるんだぞ」


「それでも、後ろから殺されるのを持つより、ましだ」


「なんでこんな…………あぁぁ!! クソッタレェェ!! やってやるよ!」


 逃げるのを諦め、ノアは双剣を、ユウは弓を構え戦闘体制に入った。


 後ろを振り向くと、そこには先の魔術兵の姿ではなく、真っ白に美しく透き通った肌。


 そして、肌に対照的な黒を基調としたドレスを纏った若い女性が立っており、ユウたちを睨みつけていた。


 女性の腕には赤い宝石が埋め込まれた金の腕輪が見え、存在感を放っていた。


 血濡れた女は狂ったように喋りだした。


「つまらない! つまらない!! つまらない!!!!!

 はぁ……少しは骨がある人間かと思ったのに、只の子供のようね。

 最初の不意打ち以外は何もできないのは、その佇まいでわかる」


 女は落ち着き払っており、品を定め始める。


「あぁ……でもそっちの赤髪の方は、もしかしたら、お嬢様が気にいるかもしれないな〜。 

 えぇ勿論、玩具オモチャとしてね」


 ふたりは、この謎の女からの滲み出る狂気さに圧倒されてのか、話を聞き続けることしか、できない。まさに蛇に睨まれた蛙のさまである。


「きめた……じゃあ、赤髪は生け捕りにして隠しておいて。黒髪の方は半殺しにして、その皮いただいて、次の獲物を待とうかなぁ〜。

 あぁ……でも、そろそろ潮時でもあるかな。お嬢様に怒られたくないし」


 その恐ろしい発言に、女が人間ではないことをユウ達は理解した。

 しかし、二人はありえない事だとも思った。

 現状、守護結界内には魔族が居る筈がない。

 それに、女からは魔族が持つはずがない魔力が微量ながら感じ取れたからだ。


「…………はぁ、本当につまらない子供ね。せっかく、こんなにも時間を与えたのに……。何もしかけてこない、脳なしには用はないから、もう殺しちゃうかな」


 何がそんなに面白いのか、女の魔族は気味が悪い笑みをニヤリと浮かべながら、瞬時にユウの間合いに入り、素手による攻撃を仕掛けた。

 

「ユウ!! かわせぇぇ!!」

 

 ユウはこの女の動きに身体強化術式のおかげで何とか食らい付くことができていた。



 コイツの拳の重さは、何なんだ?

 一つ一つの威力が尋常じゃない。こんな攻撃を一撃でも食らったら、速攻に体を抉られかねない。

 でも無理だ、このままじゃ……。 

 何を考えてる。気をはれ!! こんなところで死んでたまるか!! 



 ユウは防御に徹する事で、魔族の攻撃を確実に反らし、かわしていた。

 ただ人間は魔術を使って漸く、魔族と対等に渡り合うことができる。しかし、魔族は元々、強力な身体機能を生まれ持っている。

 この差は明確でユウ自身、ジリジリと魔力を削られながら、追い詰められているのを感じ取っていた。


「アッハッハ!! どうしたの? 避けるだけじゃ、何にもならないわよ」


 そんなことはわかってる……。このまま、防戦一方では絶対に勝てない。



 追い込まれるユウを助けるように、タイミングを見計らいノアが動く。


「くらいやがれ!!! 化け物がぁ!!」


 ノアは巨大な火炎を纏った斬撃をぶつけた。しかし……。


「あっはぁ〜! 暑いねぇ〜。

 でも、全然だめ。足りてない。

 さっきのは、あの体で不意打ちだったから、この程度の攻撃じゃ効かないよ。

 そら、あっちいってっな!」


 魔族は剣を片手で受けとめ、隙まみれのノアを足で蹴り飛ばした。 


「ぐがぁっ!!」


 ノアは腹部が凹むほどの蹴りを入れられ、身体内部で出血したのか……口からは血が垂れている。


「ノア!!」


「おっとやり過ぎた? 赤髪くんはあまり傷つけたくないんだよ。そこで大人しくしててくれよ……。

 ごめんね、待たせて。再開しようか」



 コイツ……ニタニタ笑いやがって、嫌な奴だ。人をいたぶるのが、大好きでたまらないとと顔に書いてある。


 せっかく、ユウの体を使わせてもらっているのに、オレはこんな奴に殺されて、もう死ぬのか? 


 やはり、オレ達ではどうすることもできない事件だったのか……。思い上がったか……。

 

 あの時、逃げるべきだったんだ。



 二人の心に絶望がしみ渡る。


 諦めかけていた。その時、頭上から美しい一本の剣が女魔族を狙い、二人の戦いの間に割り込んできた。


「何者だ! 小賢しい!」


 魔族の女は、上空からの急な攻撃をギリギリで避け、この剣の持ち主の気配を探った。

 

 ユウはその地面に刺さった七色に色めく剣を見た安心感から、一気に肩の力が抜けて、その場にひざまずいてしまった。


 この剣はよく知っている物だ。来てくれのか……姉さん。


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