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第18話 強い想い

 オレ達は戻るのではなく、車で別の道に逸れるように隠れ、そこから丘との一定の距離を保ちつつ、身を隠すように移動した。 


 そして……改めて丘の上を天眼術で、覗き込む。


「オレの場所からは、何も見えない。

 どうだ、そっちは何か見えるか?」


 オレより高い位置でみていた ノアは、何かを目の当たりにして、固まって言葉を失っている。


「…………おいおい。酷すぎるだろうが!

 今すぐ、救援を呼ばないと!!」


「何が見えるだ!!?」


 ノアは恐怖に青ざめ、体を震わせながらゆっくり力強くと言った。


「さっきと同じようの状態で、皆血を流して死んでいるんだ!!」


 ノアは等々腰を抜かしてしまい。その場に崩れる。


「ノアしっかりしろ、今そっちに行く」


 ノアの元に駆け寄り、その光景を自分の目で確かめると、瞬時に脳裏にこびりついて離れなくなってしまった。


 先程と同じように生気がなく、倒れている者もいれば、中には頭部や腕、足が撥ねられたり、身体がぐちゃぐちゃに潰されている人もいる。


 彼らから出た血液は、草原に赤黒いインクを撒き散らかしたかように見えた。その地獄のような光景が眼中に拡がり、気を害した……。


「なるほど……。これは最悪だ。誰がいったい、こんな残酷な事を……。

 さ、幸い敵は見当たらない。ノア、すぐに距離をとるぞ。ここは危険だ!」


 ユウ達は、この事態が自分達の手に負えないこと。すぐに逃げなければ、同じ目に合う可能性があることを、思考回路が働かなったためか……遅れて理解した。


「あぁ! 今すぐここを離れて、警備隊に伝えないと!」


 そう決めて戻ろうとした刹那。謀ったようなタイミングで、女性の物と思われる細く弱々しい声が、聞こえてきたのである。

 

「たすけ……て」


 この遠くから響いてくるような聞こえ方は、連絡術式の一種である音拡張術だ。

  短〜中距離の通信に用いられ、式は初級レベルで、目的がシンプルであるが故に魔力消費も比較的少ない……だが欠点もある。


「誰か……痛くて、とても……さむいの。

 おねが……げ…て」


 声を聞いた瞬間。

 先程まで、震えて身動きすら取れなかったノアが、声の方に行こうと足の向きを変えた。


 それに気づき、反射的にノアの手を掴む。


「待てって、冷静になれ!! 

 おかしいだろ。あんなに沢山死んでいて、一人だけ、生きているなんて。罠かもしれない」


 なんでだよ。さっきまで震えてた癖にいきなり。なんで、オレの周りの奴はこうも……。


「……確かにな。だけど、もし俺たちが罠だと決めつけて、今逃げ出したら、あの声の主はどうなるだ?


 独り……孤独のなか、誰にも助けてもらえず。お前は死んで行けって言うのか?」

 

「そういう意味じゃ……」


「俺にはそんなこと、もう出来ない。うんざりなんだよ!!」


 ユウ達はこれまでの人生で、沢山の助けることが叶わなかった者を見てきた。その過去がノアから恐怖を払い除けたと同時に、高まった感情は冷静な判断能力を消してしまった。


 ノアの発言を聞いて、ユウはどの様に行動するべきかを考える。


 今、ノアの感情が高ぶりすぎだ。このまま行かせたら駄目だ。嫌な予感がするんだ。 


 ……いやもしかしたら、ノアの言う通り、罠じゃない可能性だってある。襲撃犯はもういなくなっていて、本当に助けを求めているだけかもしれない。


 ただ、その可能性にかけられるほど、オレは勇敢でない。 大体、実力も経験もない学生という身分であるオレ達が、すべき行動は一番リスクが少ないモノだろう。



 でも……このまま引き下がれば、何の為にオレたちは努力してきたんだ? 


 最初の約束はなんだっんだ?  


 本当のユウなら助けるんじゃないのか?


 それに、オレ達がこうしている間に後ろから、敵に狙われているのではないか。


 魔術兵は弱くないんだ。その隊を壊滅させることができる程の敵なら、逃げてもどの道、死ぬ。ならば……。



 ユウは迷った挙げ句、答えを導いた。

 その答えが正しいかったかは、誰にも解らない。しかし、その時ノアと同様に冷静さを欠いていたのは確かだ。


 ユウは強く掴んでいたノアの手を離した。


「……わかった、ノア。彼女をオレたちで助けよう」


「ユウお前なら、そう言うと思っていたよ」


 ノアはどこか、救われたような顔をしている。


「ただ時間がない。手短に決行するぞ!

 丘までの距離は、目測約1kmだ。身体強化術を使えば、数十秒で着く。女性を助けて、そのままの勢いで車の元まで走る、これでいいか?」


「あぁ、それしかない」


 もはやユウに術式が使えるか、どうかなど考える余裕はなく。展開できる前提での作戦を立てていた。


 その立てたモノも、凡そ作戦と呼べるものではなかった。


 ただ、相手との力量差を念頭に置くと、今は逃げることが、一番の最善手だったのだろう。


「あと、これを持っておいてくれ」


 ユウは、青色の魔鉱石をノアに手渡した。


「……これって、魔鉱石じゃないか。

 何に使うんだ?」


「それは、御守りのような物だ。特別な術式を仕込んである。いざという時に役に立つかもしれない」


「……なるほど、けど俺が持ってていいのか?」


「心配無用だ。オレも同じのをもってるからな」


「そうか、わかった。ポケットに入れておくぜ」

 

 焦り、乱れた呼吸を整え、二人はお互いに息を合わせから、意を決して走り出した。


 ユウたちの術式は、問題なく発動し、風を抜くほどの速度で駆ける。


「見つけた! 僅かだが、魔力の反応が残っている。あの女性だ」


「予定どおり、すぐに離れるぞ」


 女性の元にたどり着き、息を確認する。


 倒れていた女性は既に意識を失っており、死体のように冷たい状態であった。


「まずいな……逃げ切れたとしても、この状態は……」


「迷ってる暇はない! とにかく行くぜ!」


 ノアが速やかに女性を背中に抱えると、帆車の方に全速力で逃げた。


 後ろから跡を追う影はなく、順調に車との距離を縮めていった。あと、僅かな距離となったタイミングで、ふとユウは考えてしまった。


 おかしくないか? うまくいきすぎている。なぜ敵は追ってこない。負傷兵を抱えたオレたちを……。

 

 ただ単に目的を達成して、撤退した後だからか? 


 でも、目的とはなんだ?


 金銭目的にしては殺害方法が悪趣味だし、荷物も荒らされた形跡がなかった。


 何かが、引っかかる。


 世界の動きはスローモーションかのように、ゆっくりと進み、そして思考だけが加速していった。


 何がおかしい……? そうだ、女とオレ達は1km以上離れていた。


 そして天眼術を使った、だから視認できた。


 しかし、オレたちは、最初に目で女性に気づいたわけではない。声が聞こえたのだ、か弱い女性の声がハッキリと。

 可能性として、女性が残りの魔力を使って、声を拡張させたと考えた。だが、拡張術式は対象の場所を正確に把握していないと正確な音は伝えられない筈だ。


 でも……聞こえた声は、ノイズが入っていない綺麗な音だった。


 それにオレは一度考えたはずだ。魔術兵は決して弱くない。彼らは、兵学校での訓練により研ぎ澄まされた技術と豊富な戦闘経験を持ち合わせている。そんな中、外傷がない死体がいくつかあった。


 彼らが何の抵抗もできずに、やられたのは何故か考える必要があったのではないか?

 

 もう無駄だ……。どれだけ思考を巡られせても、もうその答えにしか行き着かなくなっている。本能が心が叫んでいる。


 その女は危ないと!


「ノアッ!! その女から、離れろ!」


 ユウは声を上げて、女性の危険性を訴えた。


 しかし今のノアは逃げることに精一杯であったためか、ユウが言っていること、伝えたいことをすぐに理解することができなかった。


「何言ってんだ。もう直ぐ車に着くんだぞ。今……」


 ノアが振り返り、スピードを緩めた瞬間。女は突然豹変する。


 ニヤリと不気味な笑みを浮かべていた。


 そして、女はノアを逃さないように、肩を爪が食い込むほど力強く掴み、腰に装備していた短剣をとり、振りかぶった。


 

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