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第14話 調査タッグ

 1720年8月9日。


 窓から入る陽が部屋の中を照らし、朝になったことを悟った。起きると昨日の目覚めよりは心地よく、肉体の疲れは綺麗に取れたようだ。


 ……何か夢を見ていた気がするが、いつもの如く、思い出せはしない。


 夢とはそういうものだ。


 下の階に行くと、リビングには誰もおらず、静かであった。姉はまだ寝ているようだ。机の上には昨日約束していた、音の場所の情報が書かれた地図が置いてあった。

 

 起こしても悪いし、さっさと行くか……。


 オレは物音を立てず、支度を済ませ、少し早いが、騒動現場に向かうことにした。


 さて、どう行こうか……。


 地図によると目的の地は、この村から国の西に向かった所にあり、ポトル都市の近く。


 地図の隅には殴り書きで、調査部隊が簡易結界をはっているから、それを目印にしろと書いていた。


 アミーが言っていたよりは、近くの場所であり、それにポトル都市はよく知っている場所だ。


 最悪、この結界とやらを頼りにしたら、ひと目でわかるだろうと楽観的に決めつけた。


 問題は移動手段をどうするかである。今から、魔術式自動車を借りて行くなど金銭的にも、時間的にも無理がある。


 だとしたら、あれを使うことになるか……。


 あれとは、魔術の心得がある人なら誰でも、子供でも乗れる魔術式スケートボードだ。


 ユウのボードは家の倉庫に保管してあり、少しだけ、埃をかぶった状態で、立てかけてあった。


「久々に使うな……」


 果たして乗れるだろうか? オレはコレにすら、乗れなかったらどうしたらいいんだろう。 

 

 ボードに植え込まれた小さな青い魔功石には簡単な初級式が込められている。発動する魔術も単純かつ微弱なもの……。速度は大体最高時速60キロ、独りで移動するために、最もシンプルに造れたもの。ただ燃費が少し悪く、普段使いには向かないのが残念な点だ。


 巷には上級魔術式が込められた改造ボードがあると噂を聴いたことがあるが、実物は見た事がない。



 オレは不安を抱えながらボードに乗り、魔術式を展開することにした。


 すると、ボードは静かに浮き上がった。


『やった。さすがに発動するな』

 

 心の静かな喜んびも束の間。


「っ!? バランスむずっ!」


 ボードは高度を急に上げ勢い良く反転し、オレは頼りない声とともに、体を地面に打ち付けた。


「いってぇ……。調子に乗っては駄目だな。気おつけないとって、あぁっ!!」


 其処には見るも無惨な姿に変貌した。つまり、真ん中から真っ二つに割れた、オレのボードがあった。


「嘘だろ……。そんなに簡単に壊れるか普通」


 いや、いくらなんでも脆すぎるぞ。そんな派手な転け方もしてないだろ。トンボの如く、空中一回転しただけだ。

 しかし、よく見るとボードが真っ二つというよりは、内部から爆発したかのような壊れ方をしていた。


「あぁ……これは、魔力の供給量を多くし過ぎたのが原因か……」


 オレは自分の手で粉々にしたボードを眺め、呆気に取られていると、まるでタイミングでも見計らったかのように。


「ユウゥー! そこで何してだよ。早く勉強会に行こ〜ぜ」


 ノアが少し遠くからこちらに向かって歩いて来るのが、見えた。


 まずい!? なぜ、ノアがここに?


 この距離では隠す時間もない。


 オレは隠すのを諦め、オレ自身にも理解できない事が起きたという、驚きの表情をつくった。


「おいおい、どうした。なにかあったのか……。

 って、なんだよこれ!! まっぷたつじゃんかよ。何したらこんなことになるんだ?」


 それは、オレが知りたいよ。


「いや……実はな、取り出したら、すでにこの状態だったんだ」


 魔術が使えない事を隠す為とはいえ、また滅茶苦茶な嘘をついてしまった。


「何処にしまったら、こうなるだよ!」

 

「家の倉庫だ」 


「おいおい、なんだよそれ」


 納得したのか興味がないのかわからんが、ノアは笑ってツッコミをいれただけだった。壊れていること以外、何も思わないのか?


「まぁ、そんなことはいいんだよ。

 俺は今日もお前が寝坊する気がしてなぁ。

 だから、迎えにきてやったんだぜ、感謝しろよ」


「そんな気を遣わなくても、流石にだいじょうぶだって」


「そうか? なら、早く行こうぜ。ユウ昨日、全然魔術の練習してなかったろ。

 だから、今日は朝から俺が相手になってやるよ」


 ノアは気遣いができる『イイヤツ』だから、こうなる事も予想できた。やはり昨日、解散する前に休むことを伝えておくべきだったな。


「すまんノア。オレは……勉強会休むんだ。わざわざ迎えに来て貰ったのに申し訳ない」


「やすむ?」


 ノアは理解したという顔でニヤリと笑った。


「はは〜ん。なんだよユウ、連れねぇなぁ〜。

 お前、今から例の現場行くんつもりなんだろ?

 面白そうだし、俺も一緒に行くよ」


 ノアは少し抜けているようにも見えるが、馬鹿ではない。そして、変に感も鋭い。

 もう確信しているようだし、行くこと自体は、無理して隠す事でもないか。


「……隠しても意味ないし、正直に言うとそうだよ。今から現場に行くつもりだった」


「やっぱりな。でも、どうせ行くなら、皆を誘えばよかったのによ」


「それは……試験前の皆を、オレ個人の好奇心で振りまわす訳にはいかないだろ」


「何言ってんだよ。むしろ皆、気になってたけど、我慢してたんだぜ。

 だから、誰かが行くって言ってたら、全員付いて行くって言ってただろ」


 それは、それでどうなんだ。オレら一応、全員受験生なんだが……。まぁ、でも確かに。


「そうだったかもな。

 でも姉さんも言ってたけど、魔族の攻撃があったかもしれない場所に行くのは危険だ。わざわざ今行く必要はない」


「……ユウお前は、それが分かっていても、行く理由があるだろ。なら尚更、ひとりでは行かせられない。

 それに足がいるはずだ。本来はボードで向かう予定が、物が壊れていて不可能になった。

 

 だが、式車をレンタルする金なんか持ち合わせてない。『さぁ、どうしたもんか?』が今の状況だろ?」


 まったく本当は、ここに来た時点で分かっていて、ついてくるつもりだったんだろうに。


 ……オレは観念することにした。


「わかった、わかったよ。ノア、一緒に行こう。でっ、足はどうするつもりなんだ」


「そうこなくっちゃな。まぁ、任せろ。俺の家に面白いもんがある」


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