第12話 最初の一日の終わり
午後9時頃……。ユウの家に着き、用意した食事をすまし、自分の部屋に戻っていた。
「今日は、いつもの日常だった筈なのに、色々疲れたな……」
夢羽は椅子に深く腰掛けて、これからこの世界でどう生きていくべきかを考えた。
今日一日で、この世界を肌で感じ、友達や家族と触れて今更だが確信した。もう認めるしかない、この世界は夢なんかじゃない。
幻覚にしては、まとも過ぎる。
大体、そんなことは最初からわかっていた。認めたくなかっただけ……。
だとしたら、オレはどういった存在なのだろうか?
ユウなのか? 夢羽なのか?
まぁ……その二択なら、嫌だけどユウであると考えるのが、普通なのかもしれない。
だって常識として、記憶とは身体に蓄積されていくものなんだ。なら、このユウの身体にある夢羽の人格や記憶の方が偽物であるのが自然……。
つまり肉体がある方が現実で、肉体がない私(夢羽)は存在を証明できない。
この世界に、私を知っている人間は誰もいないのだから……。
私は、私自身の記憶でしか自分を保てない。
それに、そんな頼りない記憶も、朝起きてから徐々にだが、薄れている気がする。
私は確実に自分が夢羽だと言い切れるほど、前の世界の記憶を鮮明に思い出せなくなってきているのだ。
駄目だ、止めよう……頭がおかしくなる。こんな恐ろしいこと、難しいことは考えなくていい。
もっとシンプルでいいんだ、一番簡単な認識は、この世界に転生したということなんだからな。
だが、そう仮定すると今度は『正常な転生なのか?』にという疑問に至ってしまう。
輪廻転生なんて、言葉があるぐらいだし、死んだ生命が新しい別の生命に生まれ変わることがないとは思わない。
しかし、私の場合は前世の記憶を持ち、15歳という中途半端なタイミングで、突然バトンパスされたかの様に入れ替わっている。
前のユウに何があったかは、ひとまず無視して、私の身に起こっている現象が転生なのだとしたら、何の意味がある?
何か? 生物は皆、死ぬと他の世界で中途半端に生き返るもんなのか? バカバカしい、記憶を保たせた意味もあるのかよ?
私は、理不尽な状況に突然投げ出された事に怒りを覚え、頭を熱くする。
落ち着け…………この事ばかりを考えても仕方ない。現状は変わらず、進行していっているのだ。
それに怒るべきは、オレではない。ユウだろう、だって懸命に生きてきた人生を他人に奪われたのだ。
そうだ……。どういった経緯なのか、託されたのか、はたまた奪ってしまったのかも解らないが、ユウの人生を無下にしないためにも、まずはやり遂げなければならない。
だから目先の目標は、国立魔術学院に合格して、皆んなとの『約束』を果たす。
そして、謎の現象の解明だ……。もしかしたら、ユウに身体を返すことだってできるかもしれない。
目標が決まれば、あと単純だ。ただ進めばいいだけ……のはず。
明日は初級魔術の練習と、そうだな。朝の騒動の場所を実際に確認しに行くのも有りだな。忙しくなりそうだ。
しかし行くとなると、正確な場所情報と足がいる。
どうするか……。
予定を考えていると、玄関のドアが開くのが聞こえた。
姉が帰ってきたのだろう。今のオレにとって最高のタイミングだ。
姉に今、必要な情報を聞くため、オレは下の階に降りた。
「姉さん、ちょっと質問があるんだけどいい?」
「どうしたの? 急に……。
別に構わないけど、疲れてるから手短にね」
「わかってるって。たしか姉さんの仕事って、この領地の調査部隊の指揮官だったよな?」
「……なんで、そんな当たり前のこと聞くの?」
「確認しただけだよ……。
聞きたいのここから、指揮官だったら、今朝の事件の情報が入ってるだろ。
詳しい情報は、家族にも話せないだろうけど、場所だけ教えてくれないか?」
そう言うと、ユリさんの顔つきが真剣なものに変わったのが目にみて分かった。
「ユウ、それを知ってどうするつもり?」
「現場で気になることがあるから。明日、見に行こうと思って」
「そう……何故、行きたいと考えるに至ったかは知らないけど。
まぁ確かに場所ぐらい。近くに住んでいる人なら、誰でも周知しているし、その程度教えてやってもいい。
ただね……安全が確立されていない場所に行くための協力を、わざわざすると思ったの?」
顔をより一層険しくさせて、ユリさんはオレを試すかのように言ってきた。
ユリさんは真剣だ。本気でユウを心配している。尚かつ、オレの意志の強さを測っているのかもしれない。
本当の目的は言えないし、言っても混乱を招くだけだ。でも、別に野次馬気分で行く訳ではない。オレには早急に向かうべき理由がある。
だから、意志の強さだけは確かに示さねばならない。
「いや、姉さんならそう言うと思ってた。
ただ、オレももう子供じゃない。止められても絶対に行く理由がある。
それに、許可が貰えないってわかってても、報告だけはしておかないと駄目だろ、家族なんだから」
「卑怯な言葉つかうようになったね。
何が子供じゃないだ。
はぁ……ユウはいつもいつも……」
ユリさんは溜息を吐き、諦めた様子を見せた。
「……わかった。場所は教える」
「ほんと!? 助かるよ!」
「でもね、何が目的か知らないけど、行っても苦労するだけ。受験前の貴重な時間は無駄になり、何も得るものはない」
「なんで、そんなことが言えるんだよ?」
「実際に、私がこの目で見てきたからよ。魔族や魔物の形跡も、魔術による魔力の跡も、何も残されていなかったわ」
「何もないか……」
だが何もない。つまり、この世界で考えられることは何も起こっていない。
それはより一層に、その現象とオレが関係している疑惑を強めた。
でも、てっきりこの転生モドキは魔術と関係があると思ってたんだがな……魔術の痕跡もないとなると、まじで原因不明だな。
「まぁ、明日の朝に座標が書かれた地図を渡すから。あとは勝手にしなさい」
「ありがとう……」
「質問はこれで終わり?」
「終わりかな……。
あっ! 話変わるけど、ご飯つくっておいたから、日持たないし今日中にたべてよ」
「わかった……。いつも助かってる」
話を終え、階段に足をかけたところで……。
「あぁ、ちょっと待って」
不意に呼び止められ、身を強張らせる。
「……どうかした?」
「ユウ、どうにも朝から変じゃない。何かあったの……?」
これは不味いな。とても、とてもだ。
アイナ達には特に指摘されなかった。
しかし関係がより深い家族には、僅かな時間、問答でも、違和感を覚えるほど、オレはユウとして不完全だったらしい。
どう言えばいいんだ。会話で矛盾が生まれたのに、これ以上なんて言えばいい。
…………だが待て、見た目がユウである限り、中身の入れ代わりなど、誰も疑わないよな。
なら、様子が変な程度、幾らでも誤魔化せる筈だ。思春期なんて、多感な時期なんだ。ちょっとした経験や悩みで、1日で大きく成長するだろ。
よし…………。
「姉さん、オレは大丈夫だよ。その……今はそういう事にしといてくれないかな」
取り敢えず、何かあった風に振る舞ってみたが、こう言われて踏み込んでくる様な人ではない。どちらかというとユリさんは、自主性を尊重してくれる人だ。
「……わかった。何かあったら、すぐに言いなさいよ。……おやすみ、ユウ」
すまない、ユリさん。騙すようなことをして、今は知られたくし、知られるべきではないんだ。
「あぁ、おやすみ。姉さん」
オレはユリさんとの会話を終えると部屋に戻った。
今日はもう寝よう……。
ベッドに力なく、寝転がる。
心が限界なんだ。神経を使って、胃に穴が空きそうだ。
これ以上は考えても進呈はない。
それに寝て起きたら夢でした、なんてことがあるかもしれない。
…………まぁ、絶対にないんだろうけど。
ベッドに仰向けになりながら、ふと、ルイの光の話を思い出していた。
『俺は確かに見た。見間違いじゃないはず……。いや、まさかな……』
ルイが嘘を言っているようには見えなかったし、何か隠した気もした。それに音が鳴った時刻は8時だ、もう太陽が出ている。
夜ならまだしも、明るい空に見えるほどの光とは……一体何だ?
そんな疑問を、ぼーッと考えているといつの間にか、オレは眠りに落ちていた。
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