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第98話 血濡れた道

都市部の活気ある表通りと反して、人気がない路地裏に2つの影が伸びる。


1つは白いローブを纏った短髪の女性のものだった。


そしてもう1つの影は、逃げ惑う情けない男のものであった。


及び腰の男は抵抗することをやめ、膝をおり降参を示した。

  

それが生き延びる唯一の方法と信じて……。


「やっぱり……それが貴方達にとっての入国許可証って所なのね」

 

頭の上に掲げられた男の指には赤黒い宝石が装飾された指輪が光る。


それは数月前、オリビアが退治した魔族が身につけていたアクセサリーとよく酷似していた。


「やめてくれ……殺さないでくれ!

 俺はただの下っ端だ! 

 何も知らないし! 何もやってないっ!

 これつけて潜伏しろって言われただけなんだ。

 そ、それに俺は魔人だ。人間だ!! お前らと同じ人間だぁっ!!!」


 男は喉が裂けるほど声を荒げ自身の正当性を主張した。しかし……。


「貴方達の事情は分かってるつもり。

 でも間違えないで……この国にその魔導具を着けて、入った意味を」


振り上げられた剣は七色に輝き、路地裏の暗闇を照らした。 


「私にとって、今の貴方は……ただの魔族よ」


突き立てられた剣は男を一瞬で滅して、死を感じる時間も与えない。


勢いよく剣に割かれた男の体からは、血が噴水のように溢れ上がり、女性の純白のローブを赤く染めた。


同じ様に剣によりバラされた魔人の遺体が周りには複数並んでおり、路地裏は濃い鉄の匂いに満たされていた。


そんな血濡れた女性に近づく人物がいた。


「だれ……?」


「ねぇ、ユリ……これはやり過ぎじゃない?」

 

 渋い顔をして現れたのはユリの友人であるオリビアであった。


「オリビアまた来たの……。人払かけてなかった?」


「えっ……? ごめんなさい。気づかなかった」


 気づかなかった体を装っているが、教師であり、上級魔術師のオリビアが気づかなかった訳がない。白々しく、すっとぼけているのだ。


「……今度からは、もっと強固にしないとね」


「にしても、ここまでする必要あったの?

王からは極力捕縛って言われてるんじゃなかった?」


「……確かにそう命じられた。 

 でも、最優先事項は国民に魔族の侵入が悟られないこととも言われてる。こんな街の中心部で逃げられるぐらいなら、迷わず始末するのが正解……」


「そう……。だとしても、貴方にしては美しさの欠片も感じさせないやり方よね」


「いいでしょ、別に……。私はクロード先生に習った基本を守ってるだけよ、魔族との戦いにおいて重要なのは相手に能力を使わせないこと、それは魔人相手でも同じでしょ?」


「そうね、それは正しいわ……」


「で? こんな所まできた、要件はなに?」


「国のために頑張ってるユリに。弟の土産話でもしてあげようと思ってね」


「別にアンタ経由じゃなくても、直接聞くわよ」


「嘘が下手ね……今はそれどころじゃ、ないんでしょ」


「そう見える……?」


「残念だけど、それ以外に見えないわよ」


 自身の状態を見透かされたユリは観念し、友人の温情を受け入れることにした。


「わかった……それで? どんな話なの?

今はちょうど暇だから聞かせてちょうだい」


「貴方の自慢の弟、ユウが……魔術闘技会に出ることになったわ」


「何の冗談……。普通科のユウは出れないはずよ」


「本戦とは言ってないでしょ。前座試合のペア戦よ」


「まさか……後押しでもしたの?」


「少しだけね。だけど、私だけじゃない」


「そんな目立つことして、立場が悪くなるんじゃない?」


「いいのよ、出世なんかに興味ないし」


「ふっ……らしいわね」


「それで、頑張ってるユリのために一番いい席をとってあげたのよ。とうぜん観に来るでしょ?」


「……ありがたいけど。生憎その日は大事な会議があるから無理。時間があれば、写映機から見るわ」


「本当に忙しいのね……」


「えぇ。でも、今が踏ん張りどきだから、休んでる暇なんてない」


「そう……わかったわ」


 余裕がないユリの表情をみたオリビアはそれ以上、誘おうとはしなかった。


「……そういえば、さっきペア戦って言ったけど、もしかしてペアの相手は、また『あの魔人』?」


「そうだけど、やっぱり姉の立場としては反対なの?」


「いいえ……。ユウが付き合う友達に口出しはしないわ。人を見る目がない子じゃないから」


「えぇ、エリカは悪い子じゃない」


「それを聞けて良かった。

 でも……正直な話、今の状況を考えると。手放しで賛成とは言いたくはなかった」

 

 ユリは路地裏で朽ちた魔人達の死体を眺めて、ため息をついた。


「でしょうね。私もまさか……こんなにも魔人が不法入国してるなんて、思いもしなかったわ」


「本当にね……まだまだ居るかもしれないと思うと気が滅入っちゃう」


「何人ぐらいか、正確なデータは出てるの?」

 

「現時点ですでに1000人は越えてると、カレンさんが言ってたわ」


「1000人も……? それだけの人数がどうやって?」


「この赤い魔鉱石の話は前にしたでしょ?」


ユリは死に体となった男の指から赤い宝石がついた指輪を取り外し、オリビアに示した。


「あれよね? それを身に着けていれば魔族や魔人でも魔術結界を通過することができるんでしょ?」


「えぇ……。彼らはこの魔鉱石とそして、偽造パスポートを用いて、ロワードに入国してるの……」


「偽造パスポートなんて、随分と手の込んだ事をしてるのね……。大体、魔族にそんな事が可能なの?」


「どうかしら、でも大半はクロムで発行された物みたいよ」


「だとしたら、今回の一連の騒動は、やっぱりクロムが裏で糸を……」


「そう決めつけるのはまだ早いんじゃない?

私達がそう思うように魔族が仕向けている可能性もある」


「まぁ……そうかもしれないけど、胡散臭いことには変わりないわ」


「そうね、魔族達とクロムに何らかの関わりがあるは間違えないでしょうね。

 でも、本当にいま注意すべきなのは彼らなのかしら……」


「どういうこと?」


「アンタが倒したあの魔族は、私が守護者である事を知っていた、その事実を知る者は限られている。

 それに魔人が1000人もいたのに、優力な情報はいまだ掴めてないし、不思議なことに肝心の魔族は、あの個体以外確認できてない。まるで……隠されているようにね」


「それって、つまり……」


 オリビアが結論を口にしようとしたところで、ユリが素早く口を割り込ませた。


「いえ……ごめんなさい。やっぱり、今のはなかった事にして、不用意な発言だったから」

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