第96話 消えた壁
その言葉が聞こえた瞬間。耳がその音を拒否した。
耳だけじゃない、急に酸素が身体からなくなったように、視野が狭く……暗く曇っていく。
ショックで呼吸を忘れて、脳に酸素をいかない。しかし、その捻りのない解答を理解するのは難しくない。嫌でも頭に浸透した。
「そうか……」
話そうとする口は震えて、上手く喋れない。
……エリカには届かなかった? 届かなかったというより、根本的に求めていた者が違ったのか?
やはり、エリカのただの友達として、背中を押すべきだったのか? 俺の心の芯が、折れかけたとき。
エリカの新たな一言が聞こえ、今日は雲ひとつない快晴であることを思い出した。
「弱くないでしょ!」
「……えっ?」
「でも、ユウは弱くないでしょ。
私は!! ユウと……友達になってから、弱いなんて一度も思ったことはないわ。
だから……私からもお願いする。
私と一緒に戦ってユウ」
エリカは顔をあげ、俺に手を差し出してきた。
俺には見えていた。その手を差し出した彼女の目が赤く腫れていたことも、対照的に喜色を示し笑う、今の顔も……。
俺はその挙げられた手を迷うことなく、震える手でとっていた。
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俺は立ち上がり、エリカの手をとり、引っ張り起こした。
気づけば、エリカと俺の間に見えていた壁は、視界から消えていた。
「フフッ……それにしても酷い謝罪だったわ」
「いや独り言だって言ったろ。その独り言を勝手に聴いて、反応したのはお前だ」
「それは……あんな言い方、ズルよ」
エリカは少し顔を赤らめ、俺から目を背ける。
そんな反応をされると、俺も照れくさくなってしまうから止めてほしい。
「さ、さて、これからどうする?」
「……ちょっと待って」
「なんだよ?」
「その前に私も謝らせて……。
さっきの事、そして今日の実技のこと。酷い態度をとってた。ユウの気持ちを考えたら、最低よね。
負けた事の言い訳に、ある筈もないことを、押しつけようとしてた。ごめんなさい……」
エリカは深々と頭を下げてくれた。
「そのことは……俺も心の中の何処かに引っかかってた。だから謝ってくれて、ありがとうな。スッキリした」
また、うざったい返答をした所で、エリカが何故だか知らんが少し笑った。
「なんだよ、笑うことないだろ」
「いえ、とてもユウらしく、嘘がない素直な返しだと思って……でも、心はわかりやすいから、受け取りやすい」
「そうか? そんな事、言われたの初めてだ。
……で? どうするよ?」
「決まってる。大会にエントリーして、それからーー」
会話に割り込むように、屋上のドアが勢いよく開く。
「私達のことも忘れないでよ!!」
「ちょっとマナ、今はっ!」
マナとエヴァだ。俺のあとを追いかけてきたのか。
「なんだ……。エヴァ達も来たのか」
「えへへ、二人が心配で観に来ちゃった、盗み聞きしてゴメンね」
「えっ……? まて、因みにどこから聞いてた?」
「え〜と…………『これは俺の独り言だぁッ!!』とか言ってた辺りからだっけ? エヴァ?」
「そのあたりね。凄い出だしで『何しに来たの?』って感じで、こっちがドキドキだったわ」
「いやそれ……全部じゃんか……」
「そうだね~アハハ」
「乾いた笑いをするなっ!!」
俺は心中で抑えられない羞恥心から、絶叫しかけた。ちょ〜恥ずかしい。ちょ〜聞こえてるじゃん……。穴があったら埋まりたい。
たまらず顔を隠すようにしゃがみ込んだ。
「まぁ、安心して言いたいことは私達にも伝わってきた。でも、アレは……フフッ!」
「笑うわないでくれ……」
「ごめんごめん。だって、凄いキメ顔で言ってたから」
「もう許して……」
「大丈夫だよ、ユウ! カッコよかったよ! わたし的には最高にキマってたね! うん!」
ぐっ……あまりにも辛い……。エヴァのわざとイジられるよりも、マナの天然に褒めいじられる方が逆にきついかもしれない。
「マナ、それ以上は弄らないで、私も同じくらい恥ずかしいから」
「えぇ〜、本当に思ってるのに……」
「あぁ〜やめだやめっ!! とりあえず、やる事は決まったんだ! 目指すは勝利だろ!!」
俺は無理やり、その場を締めることで、恥ずかしさを消し飛ばした。




