第94話 縺れた糸
人間関係は縺れた糸の様に、複雑で入り組んでいて、たまに面倒くさい。
でも、諦めれば……断ち切るのが簡単なことに驚かされる。
ただ一度切ってしまえば、それを作り直すのには、その倍以上に苦労する。
それはこの間のノア達とのことで、痛いほど実感した。
あの時も今日と同じような事をして友達を簡単に失った。
相手の意見も聞かずに、自分を尊重するために、数年間も友達やってた奴らをたった一日で、切り捨てた。
いや、ノア達の時の方が酷いな。あの時は、ただ逃げたんだ。アイツラの心を、夢羽として受け止めきれないと悟って……試みもせずに諦めた。 だから身を引いた。
しかし、それもこれも俺に度量がないのが原因なのかもしれない。
俺が大人として、器が大きい対応をしていれば、あの時だって、今回だって喧嘩にすら発展していなかった筈だ。
情けない……。
……この世界にきてから、自分を見つめ直してばかりだ。これ以上、自分を見損ないたくない。頑張れよな俺……。
俺はいま、学院東棟の階段を一段ずつ昇っていた。亀のようにゆっくりゆっくりとだ。
今ほど、この棟が7階建てであることに、感謝したことはない。この長い階段を昇りながら、俺は一歩足を上に運ぶたびに思考していた。
エリカにどのように何を伝えるかを……。
はじめてエリカと喋った時の出来事を、ふと思い出した。
あの時はまだ知り合い以下の関係で、言葉での殴り合いは会話にすらなってなくて、お互いの言いたいことをただ言い合っていた……。
そんな状態から入学試験を通して、徐々に友達になっていったと思っていた。
でも、友達だった今日も大して、前と変わらないのかもしれない。お互いの譲れない気持ちをぶつけていた。自分の気持ちを持ち出し、相手に共有して、理解してほしがっていた。
思考を遮るように、エリカの言葉がよぎる。
『私の事を……本気で考えてるなら、背中を押してくれればいいじゃない。何も言わずに。だって、友達なんでしょ……?』
友達って、何なんだろうか……。
いや、今まで特別意識したことはないが友達って、そんな考えてやるモンじゃない。
それこそ、いつの間にか一緒にいて、同じことを共有して、お互いにある程度の距離を許せれば、笑い合えれば、一緒にいて楽しければいいだよ……。友達なんて極論それだけでいいんだよ。
エリカが求めているのも、そういう友達なのかもしれない。
さっきの言葉の通り。ただ自分を絶対肯定してくれる存在なのかもしれない。
でも、俺はただ一緒に居て、笑い合うだけの友達になるつもりはない。
本気でエリカがそれだけを望んでいるなら、俺は友達をやめてでも…………。
俺は考えが完全に纏まらないまま階段を登りきってしまった。それでも俺は足を止めない。立ち止まる暇なんてない。
屋上の扉に手をかけた。
扉が開かれ、見えた屋上はさみしかった。きっと何もないからだ。ただ風だけが元気に吹いて、俺を建物内に押し戻してくる。
そんな中、エリカは両膝をそろえて、膝頭を手で抱え込み、頭を埋め込むようにして座っていた。要は体育座りをしていた。
予想通りというか。屋上にいることは、何となくわかっていた。此処は考え事をしたり、独りになるにはうってつけだ。
だから、ここに来るまでに思考を巡らせていたのだ。
俺は意を決して、エリカの方に近づく。
歩む途中、エリカに『来ないで!』と言われた気がして、その時……俺との間を隔てる壁があるように錯覚した。
俺はこの人間の心の壁が、分厚くて邪魔で嫌いだ。俺の臆病さが作り出したのか、エリカの強い拒絶が見せるのか、それともその両方によるモノなのかは知らない。
だが、この見ない壁にいつも阻まれる。そして、阻まれることに怯えて、ラクな方に行こうとしてしまう。
でも今回は……。
足を止めず、エリカの元に歩み寄る。
既に俺に気づいているだろう。なんせエリカは感覚が冴えてるからな……。しかし動かないし、ずっと同じ体勢を崩さない。
前にもこんな事があった。前は試験後、意気消沈していた俺が座っていて、エリカが後から来たから構図は逆だがな。
短い歩みが終えて、隣につく。
「隣に座ってもいいか……?」
「…………」
エリカは沈黙を守り、反応を示さないが、今は関係ない。
「じゃあ、失礼するぞ……」
少し離れた位置に座った。
俺は暫く、エリカの横に座ってから、余韻を楽しむように、空に流れる雲を眺めていた。
少し不安だったんだ。もし俺が座って、エリカが拒絶のために、立ち上がり去って行ったらと思うと……。
俺はひと呼吸ついて、青い空を見上げながら話を始めた。
「……これはー」




