第1話 始まり
2020年8月7日。今夜、私は……一ノ木 夢羽は、人生で最高の瞬間を迎える。
最高の瞬間とは、別に大げさではなく。本当に人生のピークを迎えるのだ。
人生には波があると言われるが、今夜……確実に幸せの波形の一番上にたどり着く。
思えば『彼女』と出会う前、三年前の私には何も無かった。
私の夢羽という名前に込められた意味は『夢に向かって自由に羽ばたいてほしい』というものにも関わらず、名前に反して私は夢や欲といったモノを持っていなかった。
まず、羽ばたく以前に目標がなかったのだ。
いや名前は悪くないんだ、とても素晴らしい名前なんだよ。私はこの名前が嫌いではない。
けど、名前に想いを込めてくれた両親には、本当に申し訳ないと思っているが、残念ながら最初から枯れていたのだ。
でも、多くの人がそんなもんだろう?
夢なんかに出会っても、大多数の人が実現もせずに、何となく大人になって現実に生きていくんだ。
まぁ……そんなひねくれた考えを子供の頃から持っていた私は、平凡に友達作って、平凡な学歴で、平凡な会社に惰性で働く、しがないサラリーマンになっていったワケだ。
しかし、そんな空虚な私にも人生の転機がやってきた。
友人に誘われ、何気なく参加した婚活パーティーで『運命』と出会った。
そう……私は彼女、六波羅 陽月さんと出会うことができた。
カッコつけて、運命なんて例えてしまったが、出会いの場でのカップリングなど、運命の出会いから、ほど遠いと言われそうだけど、私はそう言いたいくらいに、本当に感謝しているのだ。
出会うまでの人生で、何も得ることがなかった空っぽの私に、付き合っていく中で彼女は多くのものを与えてくれたんだ。
そんな彼女に今夜!
三年の交際を経て、等々プロポーズをする計画を立てていたのである。
ただしプロポーズと言っても、サプライズでもなければ、そんな大袈裟な計画ではない。
お互い仕事をしている忙しい身であるため、それは無理だ。
だから私は3連休を利用した、今回の国内小旅行の中に、作戦決行の予定を立てたのだ。
そして今現在、作戦は最終段階まで差し迫っていた。高級……とまではいかないが、そこそこお高いホテルの夕食を終え、旅の疲れを癒やすため、部屋でくつろいでいた。
時刻は11時過ぎ、陽月は夜風に当たりたいとバルコニーに出た。
そして、窓から見える夜の街の光に、陽月は見惚れている。
私も部屋の中から、陽月と夜景をみる。
街灯やらビルの照明やらは、ふつう綺麗でも何でもないのだが、今も多くの人が生きているんだと実感させてくれるこの光景が嫌いにはなれなかった。
……バルコニーになかなか足が出なかったのは、決して高い所が嫌いだからとかではない。
タイミングを伺っていたのだ。
私はポケットにしまっていたリングケースを手で確認する。今どきはプロポーズの定番演出である、これを行う人は少ないらしいが、憧れから準備してしまった。
よし、やるぞ……。
私は緊張を押し退けるように、気合をいれた。
「ヒツキこっちにきてくれないか」
「どうしたの?」
「とても大切な話があるんだ……」
「えぇ〜なになに?」
陽月はバルコニーから離れ、こちらに来る。
とうとう、その瞬間が! 心臓の高鳴りがわかる。恥ずかしさから、陽月の顔を見れない。
「夢羽、顔真っ赤だよ。もしかして酔っちゃった? もう……あんなに飲むから」
「いや、これは違うんだ。本当に大事な話がある。聞いてくれ!」
プロポーズをしようと意を決した時にそれは起きた。
「えっ?」
突然、床がまるで大波のように揺れ動き、私達はバランスを崩す。
部屋の中で固定されていないものは次々と地面に落ちた。
そう……大地震が起きたのだ。
地震に巻き込まれた場合、どういった行動が正解なのだろうか……。
もし博識で冷静な者がこの場にいれば、これから先の結末は、また変わっていたのだろう。
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