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激突

「ななな、何のつもりだお前!? ここはギルドだぞ!? 抜剣状態での入場だなんて言語道断……んぬ!!?」


 ゆっくりと近づくライデルにギルドマスターは狼狽しながら声を荒げるが、返事の代わりにライデルは指を振ると、背後の壁が音を立てて切り刻まれる。


「言語道断はどっちよギルドマスター。尋問するどころか、怪物の魔法でまんまと操られて情けない。今助けてあげるから、そこで大人しくしてなさい?」


「操られただと? ふざけやがって! 俺がそんなヘマする訳なぁ──んぐ!?」


 反論をするギルドマスターの口をライデルは風の鎖で塞ぐ。


「操られてないんだったら余計に大問題よ。独断で森の貴婦人を排除なんて、越権行為にも程があるわ。徹夜明けで油断してたってことにしてあげるから、そこで黙って見ていなさい」


 呆れたようにそう告げるライデルに俺は思わず感心してしまう。


「ほぅ、意外と優しいところがあるんだな?」


「そうよ、私は慈悲深いの。敵じゃなければね」


 そういうとライデルは剣の切先をこちらに向け、軽く振るう。


 刹那。


「────!!」


 ギルド内に風が舞い、並んでいたテーブルや椅子が部屋の隅に吹き飛ばされて空間ができる。


「ふむ、形がない故に扱いづらい風の魔法を、剣士がこれほど堪能に扱うとはな」


 ライデルの魔力に俺は感心をしながら頷くと、風の鎖を解呪したギルドマスターがこちらに向かって叫ぶ。


「き、気をつけろ!? ライデルは銀等級冒険者だが特殊な魔法を使う! 実力だけならこの村一番の魔法剣士だ!!?」


「ちっ、黙ってろって言ってるのに、余計なことをべらべらと」


「へっ! お前みたいな若造に指図なんてされてたまるかよ!!」


 煽るようなギルドマスターの言葉にライデルは苛立たしげに青筋を浮かべるが、「まぁいいわ」と呟いてこちらに剣を向ける。


「どうせ分かってたって、どうしようもないんだから」


 それは、自らの魔法に対しての絶対の自信。


 先の森での動きを見るに、確かに銀等級以上の実力の持ち主であることは疑いようはないだろう。


 だが。


「成程、確かに自信に見合った実力の持ち主ではあるようだ……だがまだ、世界を知らない」


 そう呟いて、俺は胸からナイフを引き抜く。


「ナイフですって? ふざけているのかしら?」


「あいにく、俺の剣は今手元を離れていてな。これ以上の刃物の持ち合わせはない……だが問題はない。お前の攻撃は俺には届かないよ、お嬢さん」


「っ!! そう、なら死んでも後悔しないことね!! 今度は拘束程度じゃ済まさないんだから!」


 軽い挑発のつもりだったが、若さゆえか、それともライデル自身の性格か?


 激昂をしてギルド内に暴風を巻き起こす。


「……いや、風だけじゃないな」


 目を凝らすと風の中に刃の様なものが形成されている。


 その数は5……いや6つか。


 風の刃は魔法の中でも中等級の難易度を誇る魔法だ。


 激昂状態でそれを6つ、しかも無詠唱での発動とは…中々の実力者である事は間違いないようだ。


「今更後悔をしても遅いわよ!! 何を企んでるかは知らないけど、村のみんなも、リリアも、これ以上あんたの好きにはさせないわよ、化け物!!!」


 殺してないけどな……と心の中で呟くも、言っても仕方がないので俺は代わりにため息を漏らす。


「お、おいアンタ! 何呑気に構えてるんだ!? あいつの風刃(クリーオゥ・ギィ)は、見えない刃による全方位(オールレンジ)攻撃だ!? そんな丸腰でいたらバラバラにされるぞ!?」


 忠告をするようにカウンターからギルドマスターは声を上げるが、俺はその言葉を無視してナイフを逆手に構える。


「その程度なら躱す必要はない。先に忠告しておくが、その攻撃は俺には無意味だぞ」


「ほざけ!! 全方位からの攻撃、避けられるものなら避けてみろ!!」


 俺の忠告を更なる挑発と受け取ったのか、ライデルはそう吠えると、風の刃と同時に俺へと切り掛かる。


「……!」


 なるほど、速度、剣筋、踏み込み、そのどれを取っても乱れがない。


  加えて先ほどまで激昂をしていたのが嘘のように刃を振るうその一瞬の表情は冷たく、瞳は鋭く研ぎ澄まされている。


 魔法の使用にはそれこそ集中力を極限まで要求される。


 だというのに、剣をここまで冷徹に振るえるとは。


 この一閃だけを見るなら、恐らくは金等級……いずれは間違いなく英雄と呼ばれる実力を得ることだろう。


「終わりだ!!」


 もっとも、あくまでそれは将来の話ではあるが。


「いいや、終わらない……」


 迫る風の刃は無視して間合いを詰め、俺は振り下ろされる直前のライデルの腕と手首を掴み、一閃を止める。


「っ、私の剣を素手で……だけど、背中がガラ空きよ!」


 勝利を確信して風の刃を操るライデル。


 風切音と共に不可視の刃が背中に迫る音が聞こえる。


 しかし。


 その刃は全て届く寸前でピタリと静止する。


「な!? なんで!!?」


「忠告したはずだ。飛び道具の類は俺には効かない、お前だけが魔法を使えると思ったら大間違いだ」


「っくそ!! だったら!」


 咄嗟に密着状態からライデルは拘束の魔法を放とうとするが。


「遅い」


 その瞬間にナイフの柄でガラ空きになった顎を掠めるように叩く。


「しまっ───!!?」


 小さな悲鳴と同時に、わずかな脳震盪を起こすライデル。



 彼女にとってみれば僅か0.5秒ほどの意識混濁であろうが────それだけあれば型をつけるには十分だ。


「悪いが痛むぞ」


 腕と襟首を掴み、そのままライデルの体を床へと吸い込ませる。





 ────ゴンッ




 と言う鈍い音を最後に暴風は止み、代わりに静寂がギルドを支配した。


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