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今回予告:森の貴婦人

「森の貴婦人ってのは、この森に昔からいる正体不明の精霊だ」


「正体不明?」


「あぁ。長いことこの仕事をしてるが、森の貴婦人みたいな精霊は文献でも見たことがねぇ。本人に聞いても、詳しいことは教えてくれねえしな」


「ふむ、確かに異質だな。精霊は基本プライドが高く存在を誇示したがる。それこそ登場のたびに声高に名乗りを上げるやつも多い」


「森の貴婦人は真逆だな。一応今はリリアって名乗ってはいるが、それは仮の名前だ。本当の名前はわからん。ただ、疫病や戦争、災害の時に姿を現しては、少しの対価と引き換えに俺たちを救って来てくれた。この村じゃ神様みたいな存在だよ」


「森の上位精霊が村と共生関係を築いたか、随分と人の良い精霊の様だな」


「あぁ、俺も村を飛び出して冒険者をしてた頃はいろんな精霊を見たが、森の貴婦人は特に気のいい精霊だ。祭りの時には子供達と遊び、豊穣祭では祝福の言葉をかけてくださる。だから俺たちも敬意を込めて彼女を森の貴婦人と呼んで敬ってたんだ」


「……だが最近になって、その精霊が乱心したと?」


「ああ。さっきも言ったが村人全員が信じられないと驚いてる。俺も含めてな」


「そうだな。その精霊の人となりを知らない俺でも、今の話だけ聞けば他所から来た誰かの犯行だと疑うだろう……だからこそ、森の貴婦人が犯人であるという決定的な証拠があると言う事だな?」


 俺の問いに、ギルドマスターは表情を曇らせる。


 沈んだ様な絶望の目は、その通りであることを告げていた。


「さっき話した少しの対価って奴だが、森の貴婦人は俺たちを助ける代わりに、少量の銀と人の生き血を要求する」


「生贄か?」


「そんな物騒なもんじゃない。ほんの一雫、蚊に刺された程度の血を銀に垂らして森に収める。今までそれが俺たちと森の貴婦人との約束だった。そう、本当に一雫さ。だけど、たった一雫だとしても森の貴婦人が血を吸う精霊だってことには変わりない……彼女の庭で血を抜かれて死んだ遺体が上がれば、それは貴婦人の仕業……そう考えるしかないだろ?」


 深いため息をつくギルドマスターの表情には疲労の色が濃く現れた。


「なるほど。村人たちが真犯人()を探すのも無理はないな。村を守る森の貴婦人ですら対処できない怪物がこの森に現れたなら、守り神への疑いが晴れるわけだからな」


 その場合状況はさらに絶望的なのだが、村人にとってはその方が幾分かマシなようだ。


 それだけこの村にとって森の貴婦人というのは大切な存在なのだろう。


「あぁ、だがそんな発想になるのはライデルみたいな若い奴らや戦えない奴らだけさ。森の貴婦人の強さを知らないからな。魔物や精霊と関わってきた人間ならすぐにわかるさ。森の貴婦人の目を盗んで悪さをするなんて、それこそ水面に映った月を掬い上げる様なものだってな……」


 森の貴婦人への信頼が強ければ強いほど、森の貴婦人が犯人として色濃く浮かび上がってくるとは、皮肉な話だ。


「確かにあんたの言うとおりだろう……ヴィラが住む森にはドラゴンすら近寄らないと言われるほどだ。血を吸う魔物は総じて賢い。まず近寄ろうとすらしないだろう」


「び、なんだって?」


「ヴィラ。お前たちが森の貴婦人と呼んでる精霊の正体だ」


 精霊の正体について言及すると、ギルドマスターは訝しむ様に眉を寄せて首を捻る。


「長くギルドマスターをやってるが、そんな精霊聞いた事ねぇぞ?」


「珍しい種族だから知らないのも無理はない。だが本来精霊や魔物が嫌う銀を好む性質と、人の血を吸うとなれば種類は限られる。そんな中で人間と契約を結べるほど知性が高いともなれば、ヴィラで間違いない」


「……適当言ってるってわけじゃないんだよな?」


 俺の推理にギルドマスターは訝しげに眉を顰める。


 まぁ、そんな他所から来た人間が、500年も正体不明だった守り神の素性をペラペラと語り始めればそう言う反応にもなるだろう。


「……森の貴婦人がヴィラなら、容姿は村で最後に死んだ少女の姿をしているはずだ」


「!?」


 特に正解かどうかは尋ねなかったが、ギルドマスターの目が正解であることを告げていた。


「……ここまで条件が揃えば、この村を襲っている脅威はヴィラで間違いないだろう……しかしヴィラが村を滅ぼすか……」


 厄介な相手である事は間違いなく、それだけで頭が痛いのだが、それ以上に悩ましいのがヴィラが村を滅ぼすと言う不可解な予言についてだ。


「何かおかしいのか?」


「ヴィラは温厚で賢い妖精だ、怒らせた者が殺される事はあるが……連帯責任で村全体をまとめて滅ぼすなんて話は聞いたことない」


「じゃあ、森の貴婦人の仕業じゃねえと?」


「なんとも言えんな。この村がヴィラからよほどの怒りを買った可能性もあれば、あるいは良くない物が入り込んだ可能性も無いわけではない。可能性はいくらでもある。調査が必要だろう」



「確かに、それはそうだな……しかしどうやって調べる? 森に入るのは危険だぞ?」


「百も承知だ……まずは村でできることを優先する。被害にあった人間たちの死体を見てみたいんだが、すでに埋葬した後か?」


「死体? あぁ、それならまだ防腐処理だけして教会にそのままだ。皮肉なことに、被害者の遺族が全員ヴィラの擁護派でな……」


「信仰は血よりも尊きか、それとも他の理由か……いずれにせよただの偶然ではなさそうだ。遺族には悪いが勝手に調べさせてもらおう……すぐに出る。あのライデルという少女の説得は頼んだぞ」


「あ、あぁ…………な、なぁジョン。お前は森の貴婦人を殺すのか?」


「……場合による」


 不安げに問いかけるギルドマスターに静かにそう答える。


 助けられないのか……という質問だということは分かっていたが、無責任なことは言えなかった。


「させる訳ないでしょ……ふざけてんじゃないわよ」


 静かな、しかし明確な怒りを孕んだ声がギルドに響き。


 ギルドの扉が爆ぜた。


「なっななななな!!? なんだああぁ!!?」


 突然の襲撃にギルドマスターは呆けた声で叫ぶと、土埃の中から殺気を十二分に纏った鎧姿の少女が現れた。


 ライデルだ。


「リリアを傷つけようとする奴を私は絶対に許さない、その首叩っ切るわ!!」


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