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余所者

 森鳴らしの予言を伝えると、一瞬の間の後ギルドマスターは声を漏らして身を乗り出す。


 勢い余って倒れた椅子の転がる音が、ギルド内に響く。


「あ……ぅ、あ じょ、冗談……だよな?」


「冗談を言っている様に見えるか?」 


 静かに諭すと、ギルドマスターはグシャリと顔を歪める。


「見えねえな……あぁそうか。そりゃぁ……まいったな……どうしよう」


 そうギルドマスターは静かに深いため息をつくと、フラフラとした足取りでカウンターの椅子に腰掛け、頭を抱える。


 ギルドマスターも、流石にここまでの大惨事は予見していなかったようだ。


「大丈夫か?」


「いや、すまん。いきなりなもんでついパニックになっちまった。まさかそんな大事だとは……何かの間違いって事は……ねーよな」


「ああ。俺の話を信じるならばだが」


「いや。信じるしかねぇよ。確かにあれがその気になればそれぐらいは平気で出来る……しかし、まさか森の貴婦人がそこまで荒ぶるとは……一体何があったんだよ」


「森の貴婦人?」


 森の貴婦人、というのは聞き馴染みのない言葉だ。


 確かトンドリと言う男もその名前を口にしていたか。


「森の貴婦人はこの村の守り神みてえなもんなんだ。村に恩寵と平和をもたらしてくれる上位の精霊で、黒髪の女の姿をしてる……」


「クエストボードの?」


 俺は先ほどライデルが指差していた依頼書を示すと、ギルドマスターは首を縦に振る。


「ああ、あんな見た目だ。美人で優しい俺たちの女神様、だが今じゃ、そいつは村で起こってる連続殺人事件の第一容疑者さ」


「守り神が容疑者とは穏やかじゃないな」


「ああ、だからライデルみたいに真犯人を探す奴らも多くてな。村はバラバラの状態だ」


 なるほど……彼女が俺のことを怪物と言っていたのはそう言うことか。


「つまり俺があの時見たのが森の貴婦人だったって訳か」


 そう言うと、ギルドマスターは少し意外そうな表情を見せる。


「見たのか?」


「おたくの冒険者に捕まる前にちょっとだけな」


「そうか……森の貴婦人は顕在か。だってのに人死にが止まらねえってなると、真犯人の可能性は余計に低くなったってわけだ」


 容疑者と言いながらショックを受けるような表情を見せるギルドマスター。


 森の貴婦人と村人たちの関係の深さはその様子だけでも十分みてとれた。


 成程これはギルドも扱いに困る訳だ。


「よほど慕われていたようだな……」


「ああ。この村は森の貴婦人に生かされている。だから恥ずかしい話ギルド内もまとまらなくてな。ああやって注意喚起の張り紙だけは作ったが、それだけだ」


「なるほど。依頼書なのに金額が記されてないのはそう言うわけか」


「守り神に賞金なんてかけたら、それこそ暴動が起こりかねねえからな」


「ふむ、だが賞金は掛けられなくても原因の究明のために冒険者を動かす事はできるんじゃないか?」


「それも考えたさ、だが相手は神に近い大精霊だ。下手をすりゃ状況が悪化する。うちは万年人手不足でな、唯一頼めそうなのはライデルぐらいだが」


「成程、説得は難しそうだな」


「そう言う事だ。あいつは森の貴婦人に疑いの目が向けられている事自体が許せないらしくてな、調査にも非協力的なんだよ」


「つまり、村にはもはや自力で事態を解決する手段がないと言うことか。予言の回避は絶望的だな」


「容赦ない分析ありがとよ、ひとでなし」


 ちくりと嫌味を漏らすギルドマスターに肩をすくめる。


「そう噛みつくな。確かに事態は悪いが、俺がここに誘われたということは、まだ手遅れではないと言う事だ」


「どう言う事だよ?」


 訝しげに首を傾げるギルドマスターに、俺は依頼書を剥がしてカウンターに置く。


「村の人間を動かせないなら余所者(おれ)を動かせばいいだけだ。どうせ森の異変を解決しなければ俺も森から出られないからな……協力してやる」


「協力? お前が?」


「あぁ。余所者が勝手に解決した、と言うなら誰も文句は言えないはずだ」


「ま、まぁ、そうかもしれねぇが……しかし、そんな屁理屈で村の人間が納得するか……」


 悩む様にギルドマスターは表情を歪めるが、俺は首を振る。


「難しく考える事はない。アンタは俺に情報を与えて、ここで話したことを全て忘れる……それだけだ。少なくとも、このまま予言の時が来るのをじっと待つよりかはマシな筈だが?」


 提案に、ギルドマスターはうーんと唸る。


「まぁ、確かにその条件でアンタが良いならこちらとしても………………いや、やっぱりダメだ」


「なぜ?」


「確かにあんたは魔物に詳しいみたいだが、中途半端な実力で挑んでいい相手じゃない。さっきと言っただろ?下手に刺激して事態が余計に悪化することだってあり得る。そもそも森の貴婦人は上級精霊だぞ? クエストで言えば金等級(ゴールド)、いや灰銀(ミスリル)クラスの冒険者しか受注させられねぇぐらいの危険度だ……あぁ、お前さんは軍人だったな、わかりやすく説明するとだな」


「冒険者には、その実績と実力においてギルドより鉄、銅、銀、金、灰銀、日緋色金の六段階の位が与えられ、応じた金属の冒険者証が与えられる。その中でも金や灰銀は各国に5人いるかいないかの大英雄、今活動している日緋色金に至っては世界でも5人しか存在しない人智を超越した存在、だろ?」


「なんだ、知ってたのか……だが惜しいな、人数が間違ってるぜ?今活動中の日緋色金等級の冒険者は4人だ、あんたのところの将軍が100年前冒険者を止めたから欠員が……」


「あぁ、だから5人だ……」


 そう言って、俺は日緋色金で作られた冒険者証……金属を薄く伸ばしただけの小さな首飾りをテーブルの上に置く。


「は???」


「今日から活動を再開するからな」


「え、あ……え? そんなバカな、いや、だとしたら、あんたまさかアイア……」


「ジョン・ドゥだ。さて、話の続きだがギルドマスター、その森の貴婦人って奴は魔王よりも強いのか?」


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