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神の過ち

 聖剣を見たクトゥグアが最初に覚えた感情は、羨望であった。


 抜き放たれた聖剣は紛れもなく全ての始まりとなった原初の炎であり、意思を持つ炎であるが故に目を離すことが出来ない。


 眩く夜を照らす太陽の剣の光は宝石のような輝きに満ちており、目が眩むような幸福が全身を包む。


 だがすぐに、その原初の炎に自分が焼き尽くされるイメージがクトゥグアに警鐘を鳴らす。


 アレは紛れもなく自分を焼き尽くすための狂気。

 太陽そのものを呼び出し無理矢理剣の形に変えるという出鱈目な魔法の具現である。


 いかにクトゥグアの体が炎でできているとはいえ、たかだかその身は森を包む程度の炎。


 世界をつつむ太陽に敵うはずもなく、慌ててクトゥグアはこんなふざけた魔法を作り上げた術者に目を向ける。


 暗がりに立つ魔法使いは、どこからどう見ても小柄なエルフの少女にしか見えない。


 魔力こそ高いが閉鎖的で非力な存在。


 せいぜい自らの燃料である薪にすることぐらいにしか使い道のない矮小な存在。


 それがクトゥグアのエルフ族に対しての評価である。


 だが、そんな存在が今自分を炎で焼き尽くそうという最大の皮肉を持って存在を脅かしている。


 確かにこの魔法は自らをかき消すだけの火力がある。

 正面から受け止めれば勝ち目はない。


 エルフを侮ったことを反省しつつ、しかしそれでも冷静にクトゥグアは分析をする。


 このまま自分は滅されるのか?


 導き出される答えは否である。


 理由は単純。


 いかに強大な魔法を操ろうとも、それを操るのは所詮エルフの少女であるから。


 生まれながらにクトゥグアが持つ精神汚染の特性は、魔法ではなく、摂理である。


 蛇に睨まれたカエルが身動きできなくなるのと同じように、人間はクトゥグアの姿を見ると精神に異常をきたす。


 薬で誤魔化すことは出来るかもしれないが、魔法を使うためには極限の集中力を必要とする。


 痛みを伴う気付け薬など使えば魔法はおろか暴発により容易くしに至るだろう。


 故に、魔法使いがその目にこの姿を映せば正気を保てず魔法も霧散する。


 矮小なる人間にとって、神とは正気では直視することすら許されない上位存在……恐れることはない。


 それが、クトゥグアの導き出した答えであり。


 その答えが自らを破滅に導いた。


【──────】


 魔法は霧散することなく。自らの目の前で膨れ上がる。


 なぜ?


 その疑問はすぐに解消した。


 エルフの少女は炎の神に背を向け、後ろ向きで魔法を作り上げていたのだ。


 ……愚かな。


 その浅知恵にクトゥグアから一瞬だけ沸いた焦燥が消える。


 確かに、その目に触れさえしなければ正気を失うことはない。


 しかし、大魔法といえども所詮は剣。


 闇雲に振り回した所で、空に逃げてしまえばそれで終わりだ。


 いかなる大魔法とて、当たらなければどうということもない。


 この魔法はただの悪あがき。


 魔法が切れたその時に、ゆっくりと魔法使いを殺し、その後でこの鬱陶しい盾使いをなぶり殺しにすればいい。


 魔法の巨大さに冷静さを一瞬失ったことを自戒しながら、クトゥグアは振るわれる剣の太刀筋を見極めるべくドロシーを注視し……そこで気がつく。


【!?】


 背を向けて立つドロシーの正面に、きらりと光るものがあることを。


 よく見るとそれは、手鏡であった。


 その鏡に映る少女の口元が緩んで何かを呟いた。


 その言葉の意味は分からない。


 だが、その笑みの意味をクトゥグアは理解できてしまう。


 かつて。


 直視できない神を見るため、人は鏡を使ってそれを見た。


 見ただけで人を石に変える怪物に、鏡の盾を用いて抗った英雄がいた。


 遥か昔から伝わる、直視できない存在と対峙する方法。


 彼女はそれをただ実践しているだけに過ぎなかった。


『見えていますよ』


 聞こえるはずのない幻聴が神を襲う。


【ああああああああ!!!】


 ぞわりとクトゥグアに再び怖気が走り、慌てて少女へと火焔を放つ。


 今ここで、あの魔法を止めなければと言う焦りが計画性も冷静さもない一手を産む。


 これこそ本当の悪あがき。


 クトゥグアがそう理解したのは。


「悪いが、飛び道具は通用しない」


 白銀に輝く大楯に炎は阻まれた瞬間だった。


 ピタリと宙空で止まった炎に、神は絶望をする。


 神にしてみればわずか数歩の距離。


 だが、その数歩が遥かに遠い。 


 神はそれ以上何もできなかった。


 自分の行動を振り返り思わず項垂れてしまう。


 冷静? 反省? そんな余裕をかましている時間など最初からなかったのだ。


 そも、正面からこの大楯の男と対峙した瞬間から、自分は詰まされていた。


 そんなことにも気づかず、呑気に考え事をしながら掌の上で踊らされていた自分はどれだけ間抜けだったことか。


 この期に及んで生ける炎は思案する。


 たかが人間と侮ったのが原因か、それとも何か他に手はあったのか?


 考えるもすぐには答えは出ず、なすすべなく、日輪の如く輝く聖剣が生ける炎へと振り下ろされる。


【デュランダル!】


 炎を遥かに超える太陽の光。


 それにより炎の神は焼き尽くされた。


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