クトゥグア
炎が上がった。
村人達が松明に火をつけた瞬間、火種は巨大な藁人形へと吸い込まれるように集い大きな炎となってわ藁人形を燃やし尽くす。
「ちっ、ここで止められれば良かったが、始まってしまったようだな」
「ははははははは!!! 儀式は成功だ!! クトゥグア様は我らを導く! 今ここに全てが浄化される!! あぁそうです、現世に舞い降りられてから最初の食事! 生きた魔法使いの魂はさぞ美味なことでしょう!我らが神よ! どうか我らを浄化し救いたま……ゔぅえ?!」
「少し寝てろ」
絶叫をするように祈りを捧げる村長。
うるさいのでその顎に拳をめり込ませ、気絶させる。
「さて、うるさいのは消えましたが、どうします? あそこまで炎が燃え上がってると、私の手持ちの魔法じゃ消しきれませんよ?」
「炎の魔法使いがそう言うんじゃどうしようもないな。しょうがない。話し合った通り、出てきた怪物を正面から叩くしかないだろう。はぁ、こうも立て続けに神様と戦わされる羽目になるとはな……」
止められなかったことに俺はため息を漏らし、小瓶に入った霊薬を飲む。
「あ、自分だけ! ずるいですアイアス!?」
「っ、ぐっ……ただの気付け薬だ。全身に激痛を走らせることで気絶や精神摩耗を痛みで防ぐ。ずるいというならお前の分も用意はあるが、俺は一晩で痛みがなくなるが、お前は三日三晩続くことになるぞ?」
「どうぞどうぞアイアスだけお使いください」
ドロシーはそう言うと、炎を視界に収めないようにくるりと後ろを向く。
「素直でよろしい」
俺はそう呟き、村長を捉えていた大楯を手元に戻し、檻の扉を蹴り破る。
予想通り、儀式が開始されたあとは、立ち上る炎に正気を奪われ村人達は半狂乱状態に陥っていた。
儀式の贄が堂々と正面から逃げ出したと言うのに、俺に気づく様子もなく地面に這いつくばって祈りを捧げている。
これなら、妨害が入る事はなさそうだ。
「アイアス。それでは準備を始めますので……いいタイミングで合図をお願いします」
そう言うとドロシーは背後を向いたまま、炎陣を敷く。
「了解だ…….足止めはまかせてくれ」
「信頼してますよ。こと時間稼ぎにおいてあなたの右に出るものは歴史上一人もいないですからね。不安があるとしたら私自身ですよ。相手を見ないで魔法をぶっ放すなんて……魔法学校でやったら停学ものですよ?」
「安心しろ、外したらまた時間を稼いでやる。お前はただ、最大火力を叩きつけることだけを考えろ」
「はいはい。分かってますよ……だけどうっかり巻き込んじゃっても、ちゃんと生きててくださいね?」
「笑えない冗談だな」
俺はドロシーのジョークに肩をすくめて、燃え上がる藁人形の元へと向かう。
藁人形の背中から燃えあがる炎は、やがて人のような形へと姿を変えて行く。
「まるで寄生虫だな」
その様子は人間の背中を食い破って現れる寄生虫のようであり、村人の信仰心に寄生をして現世に姿を現すその姿が、まさにこの神霊の本質を表していると感じる。
「信仰心に応え人々を救うのではなく、信仰心を利用し自らの現界の為の糧とするか。気に食わんな」
得体の知れない、呪いを振り撒く寄生神。
見たことも聞いたこともない存在だが、これだけは言えるだろう。
こいつはこの世にいてはいけない、厄災だ。
「ならば遠慮する必要はないだろう」
藁人形は崩れ落ち、炎は人の形をした怪物として形をなす。
生ける炎クトゥグア。
そう呼ばれた魔物は、贄として用意された俺を見つめると、ゆらゆらとゆらめく双眸を細めて不敵に笑うと、右手を高々と振り上げる。
「っ!?」
ぐらりと、その姿を見ただけで視界が歪む。
気付け薬のお陰でなんとか耐えられてはいるが、あまり長引けば広場で狂乱している村人達の仲間入りとなってしまいそうだ。
見ただけで祟られ、触れれば爛れる。
そういえば昔、見ただけで相手を石に変える魔物がいたな……なんて昔のことを思い出しながら。
「来い……超えられない壁ってもんを教えてやる」
自らを奮い立たせ、振り下ろされた灼熱の一撃を正面から受け止めた。
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