尋問
「おやおや何やら随分と楽しげに話していらっしゃいますね。魔法使い様、アイアス様」
俺たちの話を遮るように、檻の中に声がかかる。
見ると檻の外で長老が不敵な笑みを浮かべていた。
「えぇ、どうやってあなたに吠え面をかかせるかの相談中でした。よくも騙してくれましたね」
嫌味を飛ばすドロシーに対し、長老はとんでもないと首を振る。
「何か誤解があるようですが、これは我々からの報酬です。あなた方は我々の神をお救いなさった。故に神の一部となる権利を得たのです。これは大変な名誉なのですよ?」
「なら、そんな名誉入りませんので代わりに金銀財宝を寄越してください。私としてはそちらの方がうれしいので」
「偉大なる魔法使い様がなんとまぁ俗物的な……嘆かわしいですな。これも時代と文明という名の毒に侵された結果でしょうか?」
「信仰という名の麻薬に染まったあなた達には言われたくないセリフですね。魔法使いを火にくべることが、どれだけの侮辱か、エルフのくせに歴史を知らないとは嘆かわしい限りです」
皮肉たっぷりにドロシーは村長へと言葉を浴びせるが、当然のことながらどこ吹く風と言った様子だ。
「もちろん、魔女狩りの歴史は私も存じておりますとも。しかし、炎は変革です。価値観も形も性質さえも変えてくれる。おぞましき過去も、悲しき記憶も、炎により浄化してくれるのです! ああ、ああ!! 炎の神よ! この英雄達の過去を洗い流し、生ける炎の一部とせん!!」
「ぐぬぬぬぬ、この精神錯乱者め」
ギリギリと歯軋りをするドロシー。
口喧嘩には絶対の自信がある故に、ここまで打っても響かない相手との戦いは苛立ちを通り越して不快感すら覚えるようだ。
「やめとけ、そもそも会話が成立してないぞ」
「ですがアイアス! ギャフンと言わせてやらないと私の魔法使いとしての矜持が!」
「そんな物、狂信者相手に通じる訳ないだろ。信仰が深すぎるゆえに思考することを止めているような連中だ。勝ち目がない上に余計に惨めになるだけだからやめておけ」
「ううううううう」
むすっとしながらドロシーは村長から離れると、村長は檻の中でコートに覆い被さるように静かに横たわるセルゲイに視線を送る。
「おや、先程まで騒がしかった彼は随分と静かになりましたね」
「立て続けに色々あったからな、体感時間だがそれ1ヶ月も森を彷徨ったんだ。寝かしといてやれ」
「ふふふ、かまいませんとも。目が覚めた時は彼も神の一部なのです。疲れも痛みも何もかも、忘れてしまうことでしょう」
「やれやれ、ここまで話が通じないのに、よくもまぁまともな人間を演じた物だな村長。その役者ぶりには驚嘆するよ」
「褒め言葉として受け取っておきましょうかな」
勝ち誇った様子で村長は鼻を鳴らす。
「だが、杖を取り上げて鉄製の檻の中に閉じ込めれば一安心と自信満々のようだが……良いのか? 檻に近づきすぎだぞ」
「何?」
「油断が過ぎるといったんだ」
「なっ?!……ぶべぇ!」
檻に迂闊に近づいた村長。
その隙をついて俺は魔法の盾を背後に召喚し、檻と盾の間に板挟みにする。
いきなり背後に現れた盾に、村長は驚愕し逃げ出そうと身を捩るが、ガッチリ大地に固定させて召喚した大楯から逃れる事はできず、潰れたカエルみたいな声を上げる。
「一丁上がりだな」
「ナイスですアイアス」
「ぐぅ、むおお!? な、何だこれは!? なんで、杖もなしにこんな魔法が使える!?」
狼狽する村長だったが俺は無視して、俺は村長の顎をつかむ。
「俺の魔法は特別でな...…さてどうする? このまま儀式を行えば、お前まで一緒に燃やされるぞ?」
「ぐっ!?」
悔しげに表情を浮かべる村長。
どうやら、狂信者でも命は惜しいらしい。
「ふん、随分と浅い信仰だな。気になってはいたが、もしかしてお前達の崇めている神様とやら、最近崇めるようになったばっかりなんじゃないか?」
「!!」
視線が僅かに泳ぎ、胸元を見る。
「そこか」
俺はすぐに村長の服の下に手をいれて確認をする。
「あっ!? 貴様!? なにをする、なにを! こんな冒涜的なこと許されるはずが!!? あぁ!?」
硬いものに手が触れ、俺はそのまま取り出す。
胸元から出てきたのは一冊の本だった。
それは、村長が時折見ていた本であり、皮の表紙に宝石により装飾をされている。
一見普通の本にしか見えないが、タイトルに目を通すとそこには。
「生ける炎の聖典……」
聞いたことすらない神の名前が記されており。
開いて読んでみると、どこの地域でも耳にしたことのない伝説や儀礼の方法が事細かに書かれていた。
どこかで見たことのある癖のある文体で。
「返せ!!それは我々が手に入れたものだ!!」
「手に入れた、ねぇ。つまりここに書かれてる神は元々お前達の信仰対象じゃなかったってわけか」
「それがどうした! 宣教師様、偉大なるオーキッドマンティス様は我々に世界の真実を与えてくださった! 古臭く嘘に塗れた世界を浄化し、無垢なる魂が救われるためには、生ける炎による浄化が必要なのだ!!」
「花蟷螂?それがこの事件を引き起こした犯人か。そいつにまんまと騙されて、信者に仕立て上げられたようだな」
「黙れ!! 宣教師様を侮辱するな!! 彼は我々に希望と炎の素晴らしさを教えてくれた!!浄化は世界を洗い流し、炎は魂に安らぎを与えてくださる!!」
怒りに目を血走らせながら村長は声を荒げると、長く伸びた爪で頭を掻きむしり始める。
「!?」
「あぁそうです、何を躊躇う必要があるのでしょう!! 神と一体になる事はこの上ない誉れ! えぇ、えぇ、躊躇うことなどありますまい。 神を拝むこと叶わないのは残念ですが! 儀式の成就こそ我らが悲願なのですから」
「アイアス!! そいつやる気です、止めてください!」
「分かってる!」
忠告をするように声を発したドロシーに、俺は即座に村長の口を塞ごうとするが。
「火を放ちなさい!! 我らが生ける炎、クトゥグア様への祈りを込めて!!」
それよりも早く、村長は儀式の開始を宣言した。
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