不定の狂気
「セルゲイ!?」
小屋からの悲鳴にマレリアは血相を変えて小屋へと飛び込む。
「っ!? 小屋の中から魔力の乱れがあります⁉︎ 行きますよアイアス、二人が危険です!」
その様子を見て、ドロシーは迷うことなくマレリアに続く。
正直、ここでマレリアとセルゲイがまとめて消えてくれれば面倒ごとがいっぺんに片付くのだが……一方的に好意を寄せられ、仲間の一人からは一方的に敵意を向けられているにもかかわらず、ドロシーの中には放っておくという選択肢はないらしい。
と言うかここで着いて行って何もなかったら、またマレリアの反感を買うことは間違い無いのだが……それも承知の上でこの魔法使いはお節介を焼きに行くのだから救い用がない。
「……本当、お人好しなやつ」
自分のことは当然棚に上げて俺はそうポツリとつぶやくと、ドロシーに続くように小屋に戻る。
小屋の中に変化はなく、階段を登って何事もなく祭壇の間までたどり着く。
だが祭壇の間に着いた時、そこには異様な光景が広がっていた。
「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」
そこにいたのは、土下座をするような姿勢で床に頭を打ち付けるセルゲイであり、あまりの惨状に俺たちは愚かマレリアですら言葉を失い、部屋にはセルゲイが頭を床に打ち付ける音のみが響いている。
──ゴンッ──ゴンッ──ゴンッ──ゴンッ
衣服は近くに脱ぎ捨てられており裸の状態。
正気は完全に失われており、床に頭を打ち付ける音が響くたび。
赤い血が、割れた額から床に飛び散っていく。
「なん、だこれ」
思わず息を呑む。
口から溢れる歪な発音は、何かを喋っているというのはわかるが全て「ぽぽぽ」という音にしか聞こえない。
わかることは、おそらくセルゲイはこの藁人形に祈りを捧げているという事。
そして何かがあった……もしくは正気を失うほどの何かを見た、と言うことだけだった。
──ゴンッ!!
一際強く打ちつけられた額から、血の滴が飛びマレリアの頬に付着する。
そこでようやくマレリアは我に帰ったのだろう。
「セルゲイ!!?」
絶叫を上げながらセルゲイに駆け寄り、床からセルゲイを引き剥がす。
「ぽぽぽぽぽぽ」
「お願い! 正気に戻って!」
必死にセルゲイの肩を叩き、鎮静の魔法を唱えて助けようとするマレリア。
そのおかげか、セルゲイの目に光が戻るとハッと我に帰った様な表情を見せてマレリアの顔を見る。
「ま、マレリア? 何でここに? というかあれ? 何で裸で……と言うか血が!? 血が出てる!!?」
「落ち着いて、すぐに止血する」
慌てるセルゲイに、マレリアはすぐに止血用の布を取り出すと、セルゲイの額を抑えながら回復の魔法を唱え始める。
「何も覚えてないんですか?」
「何のことだ?」
「あ、あぁ」
ドロシーの問いかけに、セルゲイはきょとんとした様な表情で頷く。
正気を失うほどの何かを見たのか、はたまた記憶に作用する何かをされたのか。
いずれにせよ何か原因があるはずだ、と俺は考えあたりを見回す。
すると、セルゲイの近くに小さな焦げ跡を発見する。
「……まさか、この祭壇を燃やそうとしたのか」
問いかけると、セルゲイはキョトンとした顔で首を傾げる。
まぁ覚えてる訳ないか。
「はぁ、ちょっと失礼しますよ」
呆れたようにドロシーは脱ぎ捨てられたセルゲイの衣服を漁ると、衣服からゴトンと何かが落ちる。
「……火打ち石にランタン油。間違いなくここの祭壇を小屋ごと焼却をしようとしたのは間違いないようですね」
「藁人形の一部も焦げ付いているのを見ると……まさかとは思うが」
「えぇ……おそらくこの祭壇において、火を放つと言うのが儀式の完成に必要な要素なのでしょう。部屋の中の魔力が乱れきってます……偶然にも古の魔法をセルゲイは復活させてしまったと考えるのが打倒でしょうね」
「よりにもよってピンポイントな行動を引き当てたのか……そして、偶然火が消えたおかげで中断された」
「運がいいんだか悪いんだか……ですね。しかし、こんな得体の知れないものに火を放とうなんて……迂闊にも程があります」
「お前は森ごと燃やそうとしてたけどな……」
「……こほん。とにかくです。セルゲイの犠牲からこの場所が危険な場所だと言うことが分かりました……幸い、火をつけなければ無害なようですので、とりあえずはここを離れましょう……セルゲイも、次に何かがあったら戻って来れるかはわからないですし……マレリアもいいですね?」
冷静なドロシーの言葉に、マレリアとセルゲイは静かに頷いた。
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