エルフの村
「なぁ、そう言えばエルフの村って排他的なんだろ? 俺が行っても大丈夫なのか?」
エルフの村に向かう道中、俺はふとそんなことを思いドロシーに声をかける。
「大丈夫とは?」
「いや、これから行くエルフの村が、お前のいう通り古き良きエルフ族だってなら、人間の俺は歓迎されないんじゃ無いのか?」
「あぁ、そう言うことですか。 まぁ大丈夫だと思いますよ? 何処の馬の骨とも分からない人間が足を踏み入れればそれはまぁ追い立てられるでしょうが、アイアスには私がついてますから」
「本当に?」
「本当です!」
エルフ族は他種族との結婚には懐疑的な種族である。
禁止されているというわけではないらしいのだが、エルフ族には【血の薄れたエルフは災いを呼ぶ】という迷信がある。
科学的にも、魔術的にも根拠の存在しない迷信らしいが、信心深いエルフは基本的に異種族間での付き合いを、特に異性との付き合いを極端に嫌う傾向にあるのである。
ロマリアのような大都会に暮らすエルフとなれば、そこまで本気で迷信を信用したりはしないのだろうが。
今回のような排他的な村で俺とドロシーの関係を説いても信用してくれる可能性は低いはずなのだが……。
「随分な自信だな」
「まぁ、大船に乗ったつもりで任せてくださいって。それよりもほら、そろそろつきますよ」
「泥舟じゃなきゃいいんだが……」
ドロシーはそう言って森の茂みを杖でかき分けると、隙間から光が差し込み、開けた場所が姿を現した。
エルフの村はガエリアの山岳地帯に僅かに存在する平坦な地に、ひっそりと身を寄せ合うように作られた集落だった。
てっきりウッドエルフのような原始的な生活を営む集落なのかと思っていたが、山を切り開いた平地に広がる麦畑と、その先に見える集落の藁葺き屋根が、ここが農耕と森の恵みを頼りに細々と生きるどこにでもある平凡な村であることを物語っている。
数少ない平地を有効利用するためか、集落の周りは所狭しと言わんばかりに麦畑に囲まれており、畑を守るために立てられたカカシが見慣れぬ人間を警戒するようにこちらをじいっと見つめている。
幅の広い川を挟んだ先には黒の森が鬱蒼と生い茂っているのが見え、村の入り口から外れた場所にある木製の橋を渡って木材を運び出すエルフ族の姿が遠目から見える。
黒の森を封鎖したとはいえ、完全に切り離すことはできていないようだ。
「なんか、本当にどこにでもある村って感じだな」
「そりゃ普通のエルフ族ですからね。みんな森のエルフと言うとウッドエルフを想像しますが、ウッドエルフって全体の百分の一程度しかいない希少部族ですからこんな田舎の辺境には滅多にいませんよ?」
「そうなのか……思ったより少ないんだな」
「まぁナメクジ生で食べたり、結婚式で熊の血で化粧をしたりと何かと印象に残る部族であるのでその気持ちは分からないでも無いですけどね。ご安心を、ここのエルフはどこにでもいる普通の人たちですよ」
「だといいんだが……」
ちらりとこちらをじっと見つめるカカシを俺は見る。
村の風習か、それともエルフの伝統なのか。
そのカカシの胸にはなぜかポッカリと穴が空いており、枝が格子状に組まれて檻のようになっている。
子供の悪戯だろうか、その穴の中にはカマキリの死骸が転がっていた。
意図的に脚がもがれて横たわるカマキリ。
その様子は檻と言うよりもむしろ……。
「アイアス、何してるんですか?」
「ん? あぁ、何でもない」
ドロシーの言葉に我に返った俺は、カカシたちに見送られながら村の入り口へと向かった。
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