エルフの森全焼回避
重なった言葉は大袈裟に森へと響き、抗議をするように森はざわざわとその身を揺らす。
「確かに、これじゃ流石の賢者様も手詰まりになるわけだ」
呪いや魔法を人間が使う際、人間は大気中に存在する魔力……マナを使用する。
これは元より人間の体内に存在する魔力が微量であることと、自らの内にあるマナを鍛えるより自然界にあるマナを利用した方が遥かに効率が良いからでもある。
だが魔物は異なり、ほとんどが自らの体内にある膨大な魔力を使い魔法を放つ。
なんでそんなに魔力を保有しているのか理由は分からんが、知り合いの変態が言うには、堕落をした妖精や精霊の霊核は魔力を膨大に生み出すようになるのだとか……まぁ今はどうでも良いか。
ようは、事件を魔物が起こしているならその時点で、原因究明に必要となるのは魔法の知識ではなく魔物の生態の知識。
賢者といえども専門外の領域になってしまうということだ。
「そういう事です。本当、アイアスが来てくれて助かりましたよ。 魔物退治なら探索者の王とまで呼ばれたアイアスの右に出るものは居ませんからね。これで私も、エルフの森を焼くという最後の手段を使わなくて済みそうです」
「最悪森焼き払うつもりだったのか」
「そりゃもう、病巣の切除は医療の基本です。アイアスだって仲間の腕が腐りかけてたら切り落とすでしょ?」
「まぁ、それはそうだが……」
本当に、幸運だったなエルフ村。
「まぁまぁ、別にもう焼く必要もないんですしいいじゃないですか。そんなことよりも、元凶に心当たりは浮かびませんか?」
「そう言われてもなぁ……現場を見て見ないとなんとも言えんぞ。魔物が原因だとしたら尚更だ」
「というと?」
「例えばさっきの話だが、エルフ族が木に変えられてしまうことにばっかり目がいってるが、他の森の動物たちはどうなのかエルフ族は何か言ってたか?」
「他の森の動物たちですか? いえ、分かりませんね……そもそもそんな話にはなりませんでしたし、重要なんですかそれ?」
「もちろんだ。例えば森の動物や昆虫が皆一様に植物に変えられていると言うなら、それは繁殖期のドライアドに寄生された可能性が高いし、逆にエルフの村だけを狙って呪いがかけられているなら、エルフが森に住み着いた精霊種の怒りを買った可能性が考えられる……いずれにせよ森の状態をみて、エルフたちに話を聞かないと何とも……」
「ま、ま、待ってくださいアイアス……ど、ドライアドが寄生するって言いました?」
「? 言ったが?」
「え、あいつら寄生とかするんですか? 森の中でひっそり人畜無害に佇んでるナナフシみたいな魔物じゃないんですか?」
ナナフシて……いや確かに木に擬態してるところとか、風がふくと森と同じように体を揺らすところとかは一緒だが……繁殖期の危険度は比べ物にならない。
「まぁ、繁殖期が来るまでだったら確かにそんな感じだな。 ただドライアドは繁殖期になると、近づいた生物の体毛や皮膚といった表面だけを木に変えて身動きを取れなくしてから中に幼体を産みつけるんだ。孵化した幼体は身動きの取れなくなった中身を食べてでかくなって、生態になると皮膚を破って外に出る、こう……パカっと蛹みたいに」
少し表現が難しかったので、俺はジェスチャーで蛹が羽化する様子を表すと、ドロシーは見るからに顔を青くする。
「そ、そのドライアドが黒の森に?」
「いや……あくまで可能性の話だ。村人だけが被害にあってるならそれはまた別な魔物の仕業だろうし……ちゃんと調べないと何とも言えん」
「なるほど可能性……うん、そうですよね。あくまで可能性の話ですものね…………………やっぱ燃やしちゃダメですかね? 黒の森」
「とりあえず真相が分かるまでは我慢しろ」
杖の先から炎を迸らせるドロシーを宥めながら、俺は心の中でドライアドじゃありませんようにと祈りつつ、エルフの村へと向かうのであった。
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