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今回予告 きがわり

「結局、昼を過ぎてしまったな」


「まぁ誤差の範囲でしょう。エルフの村ともきっちりと時間を決めて約束をしたわけでもないので。別に問題はありませんよ」


「そうか、ならいいんだが」


 太陽がてっぺんまで登った山道を、俺とドロシーはのんびりと歩く。


 どうやら、厄介な事件ではあるものの一刻を争う状況ではないようで、ドロシーは呑気に昼食代わりに摘んだブラックベリーを口に放りこんでいる。


 ちゃっかり朝飯も食ったと言うのに、相変わらずの大食漢だ。


「それで、昨日話した事件の件ですが……えーと、どこまで話しましたっけ?」


「エルフが管理する森で、人間が木になる事件が多発してるって話までだ……それ以降は記憶がない」


「あぁ、そうでしたそうでした」


 思い出したように手をポンと打つドロシーに、俺は昨日疑問に思ったものの聞けずじまいだったことを聞くと、ドロシーはポツポツとかいつまんで黒の森で起こっていることについて語り始めた。


 ドロシーの話を要約するとこうだ。


 事件が起きたのは一月前。


 西の森を管理していた一人のエルフの腕から、植物の芽のようなものが発芽した。


 抜いても切っても腕の芽は次から次へと生え変わり、芽が生えた腕から段々とエルフの皮膚は木の皮のようになり、髪の毛は枝のように四方へ伸びて葉を生やしていった。


 当然、村の代表であるドルイドは魔法や薬品を用いて木に変わる仲間を助けようと奔走したが、その甲斐無く一週間も経たずにそのエルフは完全な木と変わってしまったのだという。


 だが、悲劇はそれだけに留まらなかった。


 その日から、エルフの里では腕に芽が発芽するものが現れ始め、森で行方不明になるエルフも多発をするようになった。


 幾人かは森の中で変わり果てた姿で見つかったが、恐らくはまだ多くのエルフが、森の中で変わり果てた姿で打ち捨てられているのだろう。


 エルフ族はこの現象を森の所為だと認識し、ドルイドにより黒の森に立ち入ることは禁じられた。


 曰く、黒の森は……仲間を求め始めたのだという。


 □


「とまぁ、こんな感じです。 まぁ、森への立ち入りを禁じても生活の基盤を黒の森で支えてる村ですからね……危険だとわかっても完全に止めることも出来ず、被害者と行方不明者が増え続けているそうで……灰色の賢者の噂を聞いて私に声がかかったと言うわけです」


 ことの経緯を語り終えると、ドロシーは銀髪を掻き上げて大きく伸びをする。


 なるほど……外部の干渉を嫌うエルフ族にとって、同族であるドロシーの助力がギリギリの妥協点だったのだろう。


 どこでドロシーのことを知ったのかは知らないが……ドロシーが近くの村に流れ着いていたのは、エルフ族にとっては不幸中の幸いだな。


「……って、ちょっと待てドロシー。今の話を聞いていると、エルフの里で病気か呪いが蔓延してるってことになるが……そう言ったものは俺の専門外だぞ?」


 俺は魔法が使えない軍人だ……呪いとか病気の類にはほとんど精通していない。


 もちろん一般人よりかは明るいが、それでも賢者と呼ばれたドロシーの力になれるとは思えないのだが……。


「もちろん。木になる呪い自体に脅威があるならば、アイアスに協力は依頼しませんよ」


「どう言うことだ?」


「正直、人間を木に変えてしまう呪い自体は大した問題ではありません。今開発している薬を使えば元に戻せるはずです」


「え? 戻せるのか……」


「えぇ……現地で調べさせていただいた結果石化の呪いに近しい物だと分かりましたので。木に変わっている間も光合成で生命活動を続けているようですし、むしろ石化よりも良心的ではありますね。多分解呪後も後遺症なく普通の生活に戻れるはずです」


「はぁー……流石だなぁ、灰色の賢者様は」


「えへへー、それほどでもー」



 感心する俺にドロシーは嬉しそうにはにかむ……本当、今朝の大人びた表情といい、子供みたいなこの笑顔といい、いろんな表情を持つやつだ。


「ん? まてよ……そこまで呪いの対処法まで解ってるなら、じゃあ俺は何を手伝えばいいんだ?」


 話を聞く限り俺の出る幕なんてなさそうなのだが、ドロシーは俺の質問に少し真剣な表情を向けると。


「アイアスに協力してほしいのは……この呪いを振り撒いている何かの特定と対処です」


「なにか?」


 ドロシーの言葉に俺は眉を顰める。


 呪いを振り撒いている元凶を見つけて対処する……と言うのは変な話ではない。

 原因を取り除かなければいくら呪いが解けると言っても根本的な解決したとは言えないと言うのは至極当然の事だ。


 俺が疑問に思ったのは……ドロシーが元凶を「何か」つまりはよく分からないと言った点だ。


「……村人の治療と、呪いの進行を防ぐ結界を張った後、私も一度村の人に案内をしてもらって森を調査したのですが……」


「なにも見つからなかった」


 俺の言葉にドロシーは表情を強張らせて頷く。


「えぇ……術式、呪符、ルーン文字、呪いに繋がるものは疎か……魔法を行使した際に見られるマナの乱れすら見つかりませんでした。珍しいものではないとは言いましたがそれはあくまで希少性の話で、規模の話で言えば100人以上の人間を対象にとる呪文など、熟練の魔術師50人を集めてやっと維持できるレベルの大魔法……それこそ大掛かりな仕掛けや準備が必要になるはず……ましてやマナを乱さないなんて不可能です」


「成程な……」


 ドロシーの言う通り、古今東西人間の姿を変えてしまうという魔法や呪いは珍しいものではないが、初歩的な魔法というわけでもない。むしろ、高等魔術であるが故に種類が豊富であるとも言える。

 その為、当然発動にはそれなりの魔力に準備が必要となる。


 ドロシーは魔法使いの称号を5歳の若さで与えられた天才であり……世界でも10本の指に入るといっても過言ではない程の才覚と実力を持つ。


 そんな彼女相手にそれだけの大魔法の痕跡も尻尾すら掴ませないなど……崖から糸を投げて針の目に通すほうがまだ簡単だろう。


「まぁ、私よりも遥かに高位の魔法使いが隠蔽工作を測っている可能性も1%ぐらいは残っていますが……状況的に判断をしてこの呪いの発動には人間は関与していない……と考えるのが妥当でしょう」


「なるほど……つまりこれはマナを使用しない呪いの行使であり、そんなことができるのは……」



「「魔物だけ」」


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