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復縁

「なんっですかそれ!? あの王様バカ、グリフォンの首見て泡吹いて気絶したくせに!?暗君ってレベルじゃないですよそれ‼︎」


 俺がロマリアを追放された経緯を聞くとドロシーは憤慨するようにジョッキをテーブルに叩きつける。


「王だけじゃない。大臣も貴族も……誰も彼もが魔物なんていないの一点張りだ」


「っはー、喉元過ぎれば何とやらですか。終わってますね……あいつら全員バカだとは思ってましたがここまでとは」


「王だけならまだマシなんだが……ジェルマンがそのバカを助長させるのが問題だ……国境線の防衛は俺が育てた部隊だけでも対処可能だろうが、内政はボロボロだぞ」


 眉間を押さえて俺はため息を漏らすと、ドロシーは苛立たしげに口を尖らせる。


「あのゴマスリ魔術師め。アイアスがいるからと甘んじて追放を受け入れましたが、こんなことなら意地でもしがみついておけばよかったですかね」


「……追放を受け入れた?」


「あ、やば……」


 聞き流せないセリフに思わず言及をすると、ドロシーは慌てて自分の口を押さえてバツの悪そうな顔をしてこちらを見てくる。


 なるほど、いくら何でも急だと思っていたがドロシーがロマリアを去ったのにも裏があったようだ。


「その口ぶりじゃ、宮廷魔術師は魔術の修行のために退職したんじゃなかったんだな?」


「あー……私としたことが久しぶりに飲みすぎましたかね……まぁ今更隠してもしょうがないから言いますけど」


「何があった?」


「はぁ。貴方と同じですよ。自主的な退職という形ではありますが、実際は私もジェルマンに追い出されたんです」


「なんだと? どうして?」


 少なくとも、ジェルマンは俺とは違いドロシーのことをかなり高く評価してたはずだが……。


「交際を迫られました。アイアスとの婚約を破棄して私と結婚しろ、さもなくば城に居られなくしてやるってね」


「ぶっ‼︎? げほっげほっ」


 思わず酒を吹き出した。


「ちょ、大丈夫ですか?」


「あ、あぁ。すまん……あまりにも驚いて」


 正確にはその時の情景を思い浮かべて噴き出したのだが。


 まぁ大差ないだろ。


「私が一番驚きましたよ。まぁでも、今考えれば部下として一緒に過ごした期間は私が一番長かったですからね。バインバインセクシーな私に恋慕を覚えるのは仕方のないことですが」


「ドロシー、鏡って知ってるか?」


「もちろん。魔術にも物理攻撃にも使える乙女の撲殺兵器たしなみです。試してみますか?」


 すっと懐から手鏡にドロシーは強化の魔術をかけると、みしみしと音を響かせて、なんか棘みたいなのが生えてくる……怖っ。


「オーケー。ドロシーはバインバインセクシーで証明終了だ」


「わかればよろしい……まぁ冗談は置いておいて。確かに貴方との婚約は形だけではありましたが、私にも選ぶ権利はあります。つまり、ジェルマンにはミリ単位も魅力を感じなかったので選択肢の通り謹んで辞めさせていただいたたと言うわけです」


 なるほど、どうりでドロシーが辞めて以降ジェルマンの俺への当たりが強かったわけだ。

 こっぴどく振られた八つ当たりじゃねえかあの野郎。


「しかし……なんで俺に相談しなかった?」


 その頃ならば王もまだかろうじて俺の話を聞いてくれていた。


 事情を話してくれればそんな横暴も止められたかもしれないのに……。


 そう思って俺は思わずそんな言葉を漏らすが。


「そうしてたら、あなたジェルマンのこと再起不能にしてたでしょう? アイアス、敵認定した相手にはとことん容赦ないですし」


 ドロシーは少し困ったような表情をしてそんなことを呟いた。


「そんなこと……ないとは言えんな」


 今までもこれから出会う誰よりも……かけがえのないと思える最高の相棒。


 俺にとってドロシーはそんな存在である。


 だからこそこいつが王城を出ると聞かされた時も、俺は友達としてドロシーの意思を尊重した。


 ドロシーの選択を裏切りなんて思う余地はなく、彼女が魔法の研究の為にひとり旅立った時も心から応援もした。


 そりゃ確かに急だなとは思ったし、一緒に行けない寂しさはあったが……それでドロシーが幸せならばそれでいいのだと納得をしたのだ。


 だからこそ、それがジェルマンの横暴が原因だと知ってたら。


 ……考えるまでもない、俺はどんな手を使ってでも地獄を見せたことだろう。

 大切な友人を劣情のために脅迫し、彼女の名誉を汚した。


 曲がった根性が叩き直るまで投げ飛ばしてただろうな。


「ほらね、だから相談しなかったんですよ。私はロマリアに執着はありませんでしたから……もちろん、相棒の貴方に国を丸投げするのは気が咎めましたが、貴方が私のために犯罪者になる必要も、痴情のもつれ程度でジェルマンが地獄を見る必要もないと判断したので王城を去ったのです」


「相変わらず、竹を割ったような奴だ。思い切りがいいと言うかドライというか」


「こればかりは性格ですから。まぁでも、結果としてジェルマンが増長して貴方まで追放になる原因になったというのも事実です。思慮が足りませんでした、申し訳ありません」


 申し訳なさそうに頭を下げるドロシーだが、俺は苦笑を漏らして首を振る。


「ドロシーのせいじゃない。三年もあったのにジェルマンをのさばらせた俺にも責任がある……自業自得さ。俺こそ気づいてやれなくてすまなかった」


「い、良いんですよ。隠したのは私ですし……その、お互い様です」


「そうか……じゃあお互い様ということで」


「えぇ。それでは、また元通りの関係に戻りましょうか……最高のこん……相棒として」


 ドロシーはそういうと、少しバツがわるそうに顔を上げて俺の前に手を差し出してくる。


「なんだこの手?」


「これからもよろしくの握手です……その、相棒として」


「今更必要か?」


「あ、握手は繋がりを示す簡易儀礼です。疎かにはできません、魔法使いですから」


「ふむ、そうなのか」


 聞いたことはないがこいつがそう言うならそうなのだろう。


 そう小っ恥ずかしく思いながらも、俺は差し出された手をとる。


 昔と変わらない小さくひんやりした手。


 一緒にいた頃はこうして当たり前のように手を握っていたものだが、 久しぶりなせいか今は少し緊張をしてしまう。


「相変わらず逞しいですね、アイアスの手は……」


「つい最近まで戦いどおしだったからな、腕も衰えてはいないはずだ」


「なるほど、魔物が多い今では頼もしい限りですね……」


 手を繋いだままドロシーは微笑むと少し考えるような素振りを見せる。


 握手にしては随分と長い。


 ドロシーの顔を見ると、何やら考えるように真剣な表情を浮かべている。


 何か葛藤しているようにも見えなくはないが。


 なんだ、もしかして何か良くない呪いでもかけられてたか?


「お、おい、ドロ……?」


「付かぬことをお伺いしますが、アイアスは明日以降のご予定は?」


 真剣な表情のドロシーに俺は声をかけようとすると。


 それよりも先にドロシーは手を離すとそんなことを聞いてきた。


「え? あぁ、特には決まってないな……いつも通りギルドで依頼を受けようとは思っていたが」


「であれば、アイアスさえよろしければ、私の依頼を手伝ってはいただけないでしょうか?」


「ドロシーの?」


 なんだ? ドロシーにしては随分と歯切れの悪い恐る恐るといった話し方だが……。


「えぇ、実は少々厄介な依頼を受けてまして……正直手詰まり状態で困っていた所だったのですよ」


 灰色の賢者と謳われるドロシーが手詰まりというのだ……それこそよほどの面倒ごとなのだろう。


「いいだろう……どんな依頼だ?」


「相変わらず即答ですね」


「そりゃ相棒だからな。それに、お前が手を焼くほどの事件なら、俺の目的とも関係があるやもしれん」


「先ほど話していた、ヴィラを堕落させた行商人ですか。否定はできませんね、それぐらい特殊なケースですし」


「もっとも、関係なくとも手伝うがな。親友が困っているのを見過ごせるほどの冷酷さは持ち合わせていないからな」


 それがドロシーの頼みであるならば尚更だ、と言う言葉は少し気恥ずかしいので心にしまう。


 すると、ドロシーは「変わってませんね」と苦笑を漏らして依頼の内容を語りはじめた。


「アイアスはここから西にある黒の森に立ち寄ったことは?」


 黒の森……と言う言葉には聞き覚えがある。


「確か、エルフ族が管理している森林だったか? 交流も最低限で気難しい連中だから近づくなってリフィルに言われてる」


「それが賢明でしょうね……昔ながらの、余所者とドワーフが死ぬほど嫌いな血気盛んで狡賢いエルフですから。小枝の一つでも折ろうものなら血眼になって追い立てられますよ」


「それは恐ろしい。忠告をしてくれたリフィルには感謝だな……それで、そんな排他的なエルフの村で何があったんだ?」


「村ではなく、彼らの管理する森に問題があるのですよ」


「森に?」


「えぇ、詳細は一旦省きますが、実は今森で奇妙な事件が続いておりまして」


「……事件?」


 気になる言葉に俺は思わず聞き返すと、ドロシーはひとつため息を漏らし。


「えぇ、森に立ち入ったものが木に変えられてしまうという……そんな事件です」


 そう言った。


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