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ガエリア領 クラウソラス

 ガエリア地方に入った俺は、行商人の情報を得るためガエリアでもそこそこ栄えた集落、クラウソラスに滞在をした。


 ガエリア地方は険しい山岳地帯が連なる未開拓地域であり、馬も通れないような険しい山道をひと月かけて歩いてようやく辿り着く事ができる文字通り辺境地である。


 それでいて山を越えれば何かがあると言うわけでもなく、あるのは一面の深い森にいくつかの小さな集落だけ。


 名産品があるわけでもそこでしか手に入らない植物があるわけでもなく、読んだ文献でもただ冬の寒さが厳しいだけの無価値な土地と酷評されるような有様だ。


 それ故に過去数百年ガエリアでは戦争という

 戦争が行われた事はなく、西の大陸五つ国も、ロマリアも恐らく魔王軍でさえも無価値な土地として見向きもされていない。


 未開拓の理由は多々あるが、その殆どがこの地域の地形に起因するだろう。というのもこの場所は一帯が山に囲まれているため平らな土地などほとんどない。


 豊富な水源に山林にこそ恵まれているものの起伏の激しい大地は農耕には向かず、おまけに標高の高さと大陸の最北端と言うこともあり、冬には毎年必ずといっていいほど大寒波が訪れる。


 少人数の集落ならば狩猟と山の恵みで生活は可能だが、街や国単位での食料ともなると確保の難易度は格段に跳ね上がるため、人々は点々と少人数の集落をいくつも作り生活をしている。


 大昔、ロマリア王国最盛期には大枚を叩いて王自らがこの地域を統治をした歴史もあったようだが、結局食料問題と大寒波により人口を増やすどころか大量の死者を生み出し、結果移住させた住民達を残してこの地域を放棄。


 それ以降、この地域に取り残された人々が転々と集落を作り、細々と他と隔絶された生活を送っている。


 とまぁ、世間一般からしたら近寄りたくもない寂れたど田舎でしかないが、この場所ではロマリアの威光もくだらない王様の命令もなく、世界が魔王に乗っ取られたとしてもこの地域には見向きもしないだろう。


 つまりは、悪巧みをするならもってこいな場所だということだ。


 ………


「えぇと、ナナカマドの実一袋にうさぎ一匹……カモミールの花数本にアナスズメバチ20匹。クマの爪に鹿の角……これで依頼品は全部か?」


 冒険者ギルドの受付に俺は依頼品を納品すると、ギルドマスターのリフィルは手早く中身を確認すると満足げに微笑む。


「ばっちりよアイアス! 悪かったわね、無茶なお願い聞いてもらっちゃって」


「気にするな、たいしたことじゃない。まぁ朝一番の開口一番に『スズメバチ取ってきて』と泣きつかれたのは多少驚いたが」


「ごめんごめん……でもそれは、依頼を担当してた銀等級の冒険者達が連絡もよこさず音信不通になったのが悪いのよ。納期が今日までだってのに今朝になっても連絡ひとつ寄越さないんだもん。家にも帰ってないみたいだし、これだから冒険者って奴は……あ、あなたは別よ?」


「分かってる。心中お察しするよ」


 膨れて怒るリフィルに何処かシンパシーを感じて思わず苦笑を漏らす。

 俺も敗走ギリギリになっても報告してこない部下に何度頭を抱えたことか。

 業種は違うが、部下の管理とはどこも大変なようだ。


「その口ぶり、あなたも苦労して来たのね」


「まぁな。じゃなかったらこんなところに流れつかない」


「それもそっか。まぁそれじゃ、苦労人同士お互い仲良くしましょ……はいこれ報酬ね。 無茶なお願い聞いてもらった分、少し色つけておいたわ」


「いいのか? 悪いな」


「気にしないで。上乗せした分は、仕事投げ出した銀等級冒険者の報酬から引いておくから」


 当然の報いよ……なんてリフィルは言いながら、テキパキと納品された品物を袋にまとめはじめる。


 時間は夕暮れ近く。


 外を見ると、冒険者や屈強な労働者たちは酒場へと集まり始め、農夫や子供の手を引く女性たちは、パン屋から受け取った顔ほどの大きさの黒パンを持って暗くなる前にと早足で帰路に着く姿が見える。


 俺もこのまま家に戻っても良かったが……その前に、何となくふと気になったことがあったので、帰る前にリフィルに疑問を投げかける。


「そういえば今回の依頼主だが、ガイアス地方にも魔術師はいるんだな?」


「まぁね、と言っても腕が良いのは一人だけど……ってちょっと待って? なんで貴方依頼主が魔術師だって分かるのよ?」


「違ったか?」


「違わないから驚いてるの。何で分かったの?」


「スズメバチの針の用途は大半が魔術に使う毒液が目当てだ。となればスズメバチは蜜蜂と違って獲物に針を刺しても死なない蜂だから、死骸に残った毒液を集めるより飼育して何度も毒液を生産させた方が効率がいい。だからこうして生きたまま捕らえてきたんだろ?」


 俺の解説にリフィルは納得したのか、感心したように声を漏らす。


「なるほどねぇ? アイアス、物知りだなぁとは思ってたけど魔術にまで詳しいのね? 魔術師じゃないのは見ればわかるけど……もしかして元は有名な学者さんだったり?」


「……まぁ、そんなところかもな」


「あーまた!昔の話になるとすぐそうやって適当に返事するー」


「悪いが、昔の話はしたくない」


 この集落に来て早くも三ヶ月、今の生活にもやっと馴染んできた。


 現在俺は、ガエリア地方唯一のギルド「孤独な山小屋」で冒険者としてリフィルに仕事を回してもらいながら、細々と越冬の準備を進めている。


 未開拓地の隔絶されたギルドなら俺のことを知ってる奴はいないだろうなんて考えは大当たりで、おかげで本名で活動をしていても俺の存在に勘付くものはなく、俺はここでロマリアから流れてきた冒険者……と言うことで通っている。


「ちぇー。いつか絶対正体暴いてやるんだからー。覚悟してなさいよー‼︎」


「期待してるよ。それより話を戻すが、こんな辺境の魔術師ってのはどんな奴だ? ここに来てから一度もお目にかかってないが……」


 こんな小さな村でギルドに所属しているというのに、顔を合わせないというのも珍しい話だ……何か訳ありなのだろうか。


 例えば、神霊を魔物へと堕落させるために潜伏しているとか……。


「無理ないわ。半年前からこの村に住んでいるんだけど、基本的に魔法の研究だって家に引きこもってるからね。でもねー、その子ちっこくて凄い可愛いのよ?」


「ちっこい? 子供の魔術師とは珍しいな?」


 一瞬、カールフォレストを襲った行商人ではないかと身構えたおれであったが、与えられた情報にすぐに緊張を説く。


「あぁいや、小さいのは見た目の話よ。ちゃんと成人してるし腕も確かよ。何でもそこそこ有名な魔術師だって言ってたけど……確か、何とか色の賢者ーとか呼ばれてるらしくて」


 ふとそのキーワードに、俺は一人の少女を思い出す。


 王宮時代、一緒に戦場をかけた魔法使いの相棒……確かそいつは。


「色……ちっこい? おいリフィル……それってもしかして」


 思いついた奴の名前を聞こうとしてリフィルに声をかけるが、その言葉をかき消すように冒険者ギルドの扉が開く。


「あ……」


 現れた人物を見て思わずそんな声が漏れた。


「あ、噂をすればご本人登場ね……いらっしゃいトンガリちゃん」


「はぁ、その呼び方やめてくださいと何度言ったらわかるんですかリフィル」


「相変わらず細かいことにこだわるわねトンガリちゃん。身長伸びないわよ?」


「その豊満な果実を萎んだ風船にされたくなかったら口を閉じた方がいいですよホルスタイン」


「おぉ、怖い怖い。それじゃあ揶揄うのはこれくらいにしておくとしましょうか」


「まったく……まぁいいです。それより依頼した品は揃いました?」


「ちょっとトラブルがあったけど何とかね。丁度今ここの新人さんが納品してくれたところ。彼、最近入った腕利きでね、スズメバチなんてほら! 生きたまま捕獲してくれてるよ!」


「ほぉ、話には聞いていましたが……どうやら腕利きというのはリフィルの妄言ではなかったようですね……どうも初めまして、私はこの村で魔法使いをしておりますドロシーともうしま……ってうぇ?」


 リフィルの紹介でこちらに視線を移した少女は、俺の顔を見ると一瞬硬直をする。


 当然だろう、昔のと辺鄙な場所で再開もすれば、言葉を失うのは当然だ。


「よ、よぉドロシー……久しぶりだな」


 なんて声をかけていいか分からず、こちらを見てポカンと口を開ける元相棒に俺はぎこちない挨拶をする。


 灰色のローブにとんがり帽子を被ったエルフには珍しい白髪の魔法使い。


 元ロマリア王国宮廷魔術師にして、灰色の賢者ドロシー・ペリドット。


 偽装ではあったが婚約者だったこともある女性である。


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