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一方ロマリアでは

 軍総司令官。ロマリアの盾と呼ばれたアイアスが国を去ってから三ヶ月。

 ロマリア王国は未曾有のパニックに見舞われていた。


「申し上げます‼︎ 現在魔物……蛮族の軍勢は東の国境線を越え、最東端の要地スエヴィに侵入しております‼︎至急援軍を‼︎」


「申し上げます‼︎同じく、北より魔王将軍ハンニバルを名乗るま……蛮族が兵を引き連れリヒトブルグへと侵入‼︎指揮をとっていたロイド将軍はお討死に、及び重装歩兵二千、騎兵五百、弓兵七百の被害を出し、我が軍は敗走しております。こちらにも至急援軍を‼︎」


「北東と東から同時進行ですと!? えぇい、一体我が軍は何をしているのです‼︎」


 相次ぐ敗退の報告に、ジェルマンは狼狽しながら頭を抱える。

 そんな様子を、ロマリア王ホノリウスは、不安そうに見つめていた。


「ジェ、ジェルマンよ……大丈夫なのか?」


「と、当然です陛下‼︎ 蛮族などこの私にかかれば……」


 アイアスの不在を知った魔王軍はすぐさま兵をあげた。


 北と東の双方から攻撃に、ロマリア軍は国境付近での戦闘の悉くに敗走……アイアスがいなくなってから三ヶ月という短期間の間に、とうとう北東と東の要点二つを取られるという無様な結果を晒している。


 だが、それも仕方のないことだろう。


 ジェルマンはアイアスを追放した後、アイアスと共に戦ったものを前線から退けさせ閑職へと追いやった。


 アイアスを神聖視するものも多い国境線付近の兵士と将軍達を離散させることでアイアス派閥の力を削ぎ、ロマリア全土での自らの地盤を固める目的もあったのだろうが……それは魔王軍を蛮族と侮りすぎていた。


 兵士の入れ替えはまだ途中ではあるが、襲われた北のリヒトブルグと東のスエヴィは要所ながらも領主の力が弱い場所のため、他よりも早く入れ替えが進んでおり、襲撃があったのは丁度全ての入れ替えが終了した一週間後……。


 これはつまり魔王軍は国境線付近の内部情報を独自で入手し、落としやすい場所をピンポイントで狙ったと言うことになる。


「馬鹿な……たかが蛮族が何故我々の内部情報を知り得たというのだ‼︎」


 魔王軍には優秀なスパイがいるという思考に行きつけば、もしかしたらロマリアの被害は最小に抑えられたかもしれない。


 だが、猜疑心の強いジェルマンの思考はそうは働かなかった。


「そうだ、う、裏切り者だ……裏切り者がいるのです陛下‼︎ アイアスを慕うものが、彼の追放の報復に魔王軍に情報を流しているのです‼︎ いや、もしかしたらアイアス本人も魔王軍の軍門に降っているのやも‼︎ でなければ、国境線の情報など蛮族に伝わるわけがない‼︎」


 ジェルマンの言葉に、城内がざわついた。

 報告のために王の前に跪いていた兵士たちでさえ、肩を震わせ始める。


 アイアスはロマリア軍の内部事情を全て知る男であり、アイアスが魔王軍についたとなれば反旗を翻すものも大勢いる。


 そんな男が蛮族についたとなれば……如何に栄華を誇るロマリア王国とて無事ではすまない。


「即刻、アイアス派閥の人間の処刑を‼︎」


「よし、わかった‼︎ 早速……」


 悪手に次ぐ悪手……誰かこの二人を止めてくれと跪く兵士たちは胸中で祈る。


 と。


「はいはーい、アホな話はそこまでー。妄想膨らませるぐらいだったら、侵攻している魔王軍を何とかしようねー」


 不意に玉座の間に気の抜けた声が響き渡り、一人の小柄な少女が王の前へと入ってくる。


 気だるげな瞳に浅葱色のショートヘアを揺らす少女に、ホノリウスは表情が明るくなる。


「ク、クーネル︎殿‼︎ 帰っていたか‼︎」


 ロマリア王国建国記よりロマリアにて魔法使いを務める、王の懐刀にして伝説の魔法使い。不死の魔法によりその姿は十代の少女にしか見えないものの、既にその齢は九百を超えており、数ある魔法使いの中でも頂点と呼ばれる最高齢の魔法使い。


 それが彼女クーネルであり、アイアスとドロシーをロマリア王国に引き入れた人物でもある。


 そのため、ジェルマンは警戒をするように表情を強張らせてクーネルを睨むが、少女は意に介さないといった表情でホノリウスの前に立つと、友達に話しかけるように「やぁ」と手を振った。


「ただいま陛下。今回は随分とまた大騒ぎだねぇ」


 にこりと微笑む少女にホノリウスは玉座から立ち上がると、まるで親に駆け寄る子供のようにクーネルの元へと走る。


「クーネル殿‼︎ 蛮族が、蛮族が我が領土に攻め入っているのだ‼︎」


「大方話は聞いてるよ。直ぐに中央を守るレギオン部隊を集めて侵略者の迎撃に当てて」


「れ、レギオン部隊をか?」


 ホノリウスは驚愕も無理はない。


 レギオン部隊とは、ロマリア王国の中央を守護する特殊部隊である。


 その戦力は一人にして六人分の働きをすると言われるほどの屈強さと、工兵から騎兵までほぼ全ての兵種の役割を状況に応じて担うことができる万能の兵でもあり、地方の防衛や遠征等に派遣される兵士とは一線を画す国防の要である。


 つまり、レギオン部隊の投入ということは、クーネルはこの魔王軍の進撃を滅亡の危機だと言っているに等しかった。


「馬鹿な⁉︎ たかが蛮族程度の進軍でなぜ精鋭たるレギオン部隊を呼ぶのです‼︎ 気は確かですかクーネル殿‼︎」


 その発言に、ジェルマンは狼狽しながら声を荒げる。

 当然だ、取るに足らないと吐き捨てた相手を、この国建国以来の大魔法使いが国家存亡の危機とまで評価するのだ。


 唯々諾々とクーネルの意見が採択されれば、自分が無能の烙印を押されかねない。


 だが。


「君、報告を聞いてなかったのかい? それとも歴史の勉強不足かな? 魔王将軍ハンニバルが来てるんだ……まさかあの男一人にロマリア軍十万人を全滅させられたの知らないわけじゃないよね?」


 冷ややかな視線をクーネルはジェルマンに向けてそう言い放つ。

 それは、とうてい生き物を見ているようには見えない侮蔑と呆れを混ぜ合わせた表情だ。


「な、何を馬鹿なことを、魔将軍ハンニバルが我が国を攻めたのは三百年も前のことでしょうに⁉︎」


「魔族の寿命は八百年……別に生きてたって不思議じゃないさ」


「魔族など……この世に存在するわけが‼︎」


「その程度の認識ならもういいよ君、黙ってて」


 絶叫をするようにクーネルに食いかかるジェルマンであったが、クーネルは今度は殺気を込めてジェルマンを睨みつける。


「うぐっ……」


 怯えるように押し黙ったジェルマン。

 その様子にクーネルは満足げに頷くとホノリウスに向き直る。


 魔将軍ハンニバルという魔物はロマリアでは御伽噺の怪物として語られている。


 あくまでその名を語る蛮族であるという報告をジェルマンから受けていたホノリウスだったが、本物がロマリア領土内に足を踏み入れたという事実を知って、顔を真っ青にする。


「は、ハンニバル……ほ、本当に、あの御伽噺に出てくるハンニバルか? 十万のロマリア兵を、たった一人で皆殺しにした……ど、同盟を、妖精族に援軍の要請をしなければ」


「それは無理だよ、アイアスとドロシーが不在の今、妖精の国……五つ国は沈黙を決め込むだろう……元々同盟も、彼らありきで決定したようなものだからね。もし魔王軍との戦いで弱みを見せたら、むしろ領土侵攻をされるリスクがある」


「そ、そんな……だとしたら一体どうすれば」


「安心して王様、レギオン兵の指揮は僕が取る。ハンニバルとはやり合ったことがあるからね、撃退ぐらいはできると思うよ」


「おぉ‼︎」


 まるで我が子をあやすようにクーネルはそう言うと、ホノリウスは安心したようにほっと胸を撫で下ろす。


「だけど僕でも東と北両方の指揮は取れないからね。北は僕が指揮をとるから、東は他の将軍に指揮をとらせても構わないかい?」


「おぉ、もちろんだとも‼︎ して、誰を送る‼︎ ジェルマンか?」


「ううん、ここは猛将と謳われるジャンヌが適任だろうね。彼女の私兵である騎兵隊の破壊力は魔王軍にも通用するし、何よりアイアスの元で魔王軍と戦い続けた経験がある」


「なるほど……伝令よ‼︎ 至急ジャンヌをここに‼︎」


 希望の光が見えてきたと言わんばかりに王はそう控えていた伝令にそう命令をする。

 北と東の騒乱は、これにより一件落着をするかとおもわれたが。


「……申し上げます‼︎」


 その期待を裏切るかのように、玉座の間にまた一人の伝令が息も絶え絶えにやってくる。


「今度はなんだ‼︎」


 当然、これだけ緊急での報告だ。

 良い知らせなどあるはずもなく、ホノリウス王はもううんざりだと言わんばかりに伝令に報告をさせる。


 と。


「将軍ジャンヌ様が、私兵及びレギオン兵総勢五千をつれて……アイアス殿の捜索に向かうと王城を無断で出立いたしました‼︎」


「な、なんだと……」


 希望の光が見えかけていた王様は、魂が抜けたかのようにぺたりとその場に座り込み。


「アイアスうぅうぅ!!!」


 ジェルマンは憎悪を剥き出しにしたような表情で息を荒げる。


「やれやれ……人気者だね、アイアスは」


 そんな様子を見ながら、クーネルは改めて王と現総司令官の愚行にため息を漏らすのであった。

 □


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