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結末

 夜明けの近い世界を闇が飲み込んでいくようで、やがて月にも届かんほどの巨木は枝を伸ばし絡まり合い、巨大な木の塊を俺の頭上に作った。


「どうやら…...これが魔物化していない正真正銘の森の貴婦人の力のようだな。まったく、とんでもない魔法使いを生み出してしまったようだ。これだけ圧縮された質量、月が落ちてくるのと変わりないじゃないか……」


 魔力の輝きによりほのかに光る樹木の塊。事情を知らないものが見れば、きっと月が落ちてきたのかと錯覚するほどの圧倒的な巨大さ。



 降ってくるのならまだ止められるのだが、残念ながらその巨大な拳は森の木々から鉄槌として振り下ろされるのだ。


「潰れて!!」


 森の主人の命令に、木の巨人はその拳を容赦なく振り下ろす。


 単純な質量による、理不尽なまでに巨大な物理攻撃(ただのパンチ)


 単純ゆえに、俺の大楯を持ってしてもその攻撃は大楯の加護の対象外。


 正面から受け止めるしかない。


 魔法の力が発動しないなら、もはや頼れるものは己の肉体ただ一つ。


 しかも負傷により片腕でこいつを止めなければならない。


 月と片腕の人間(アイアス)、どちらが勝つのか?


 そんなのお伽話にも出てくるような子供でも分かる問題だ。


「顕現せよ」


 そう呟いて俺は大楯を出現させる。


 生物による物理攻撃が迫る今こいつはただの大楯でしかないが、俺は楯を構えて迫り来る鉄槌に身構える。


「無駄な足掻きを!! 潰れなさい!!!」


 リリアの声と同時に、森により作られた月がのしかかる。


 木々が薙ぎ倒され、巨大な塊の落下に嵐のような暴風が吹き遊び森に巨大なクレーターを作る。



 それでも。


「悪いが、月を止めるのは二回目だ」


 アイアスの盾は砕けない。



【────────────────!!!!】


 轟音と共に大地が揺れ、眩いほどの火花が森の木々に覆われた闇を昼間のように明るく照らす。


「う、うそ……なんで? なんで、潰れてないの?」


 それでも、振り下ろされた鉄槌は勢いを失い、盾の上でぴたりと止まっている。


 体は軋み、骨が二、三本犠牲になったものの、森の生み出した月は大楯により受け止められたのだ。


「はぁ、はぁ、ま、多少腕力には自信があってな」


「腕力って、ありえない!? おじさん、どんな体して……るん……ぇ」


 会話の最中、ふらりと体が大きく揺らすと、リリアはその場にパタリと倒れる。


 彼女が意識を手放すと、同時に俺に襲いかかっていた木々の塊も解けるように収縮していき、元通りの大木に姿を戻す。


 まだ完全に霊核が馴染んでいないのにあれだけの魔法を放ったのだ。


 魔力切れを起こすのは当然だろう。


 無鉄砲なところは、流石はライデルの妹と言ったところか。


「…….流石に疲れたな」


 ため息をついて、その場に腰を下ろす。


 ライデル、森の貴婦人、そして新たなる魔法使いリリア。


 流石に体も疲労を訴えており、一息をついて皮袋の水を喉に流し込む。


「しかし……勘違いした挙句に全力の魔法を叩きつけるとは。姉の顔が見てみたいもんだ」


「……」


 ふと、少し離れた場所で倒れ伏すライデルに声をかける。


 返事はない。


「断っておくが、狸寝入りはバレてるからな」


「あら、わかっちゃった?」


 忠告にライデルは首だけをこちらに向けると、ぺろりと舌を出して起き上がる。


「不死鳥の血を直接投与したんだ。あれぐらいの傷一瞬で治る。お前、リリアが取り乱した時わざと寝たふりを決め込んだな?」


 精霊の命の源である霊核ではあるが、その実生きている生物にとっては魔力を操るための器官でしかない。


 心臓の僅かに下に存在するゆえに、無理矢理に取り出そうとすれば心臓を傷つけ致命傷になるが、場所さえ知っていれば臓器を傷つけることなく摘出することはさほど難しくはない。


 その例に漏れず、ライデルはピンピンした様子で小憎たらしい笑みを浮かべていた。


「当然でしょ? あの状態で私が起き上がりなんてしたら、混乱してあの子魔法を暴発させてたわよきっと。あんたにガス抜きしてもらうのが一番安心だったのよ」


「成程、体よく利用したということか」


「とんでもない。信用したのよ、貴方をね」


 何が違うんだか、と俺は心の中で呆れながらも俺は嬉しそうにくすくすと笑うライデルの姿につられて微笑う。


「まったく。その様子じゃ後悔はなさそうだな?」


「もちろん」


「念のためもう一度言っておくが、霊核を失ったお前は全ての魔法を失った。二度と魔法を使うことはできないからな、今まで見たいな無茶は効かないぞ」


「分かってるわよ。風の魔法がなくなった今、私はちょっと剣が使えるだけのただの村娘、きっと灰色熊と相打ちが関の山でしょうね」


「灰色熊と相打ちをする女をただの村娘とは呼ぶかは疑問だが……お前のいう通り、力で相手をねじ伏せることはもう難しいだろう。だからこそ今後は……」


「分かってる。私一人じゃ無茶が効かないから、これからはリリアと二人で冒険者をやるわ。あの子の方が、魔法の才能あるみたいだしね!」


「……成程そうきたか。ならまぁ、この村は大丈夫そうだな」


 本当はもう少し慎重に行動しろと忠告をするつもりだったのだが……まぁ、ヴィラの魔法を受け継いだリリアと共に冒険者をするというのなら、これは要らぬ忠告だろう。


 そう考えて、俺は整った息を大きく吐いて立ち上がる。


「もう行くの?」


「あぁ、森は開けたからな。ここにいる理由はない」


「少しぐらいゆっくりしてきなさいよ。その傷だって治さなきゃ。私の家なら部屋が余ってるから……ひ、一月ぐらいなら一緒に暮らしたってか、構わないわよ?」


「......好意はありがたいが問題はない、もう夜明けだ」


 そう断って、腕に巻かれた包帯を解く。


 まだ生々しい傷の残る右腕。


 しかし、東の端から顔を覗かせた僅かな陽光が傷を照らすと、時間が巻き戻るように俺の体の傷は元に戻る。


 腕だけではない。折れた骨も、流れた血も、吐き出した吐息の一つすら、俺の体へと巻き戻ると何事もなかったかのように俺の体は1日をやり直す。


「あんた、本当に化け物じみてるわね。何?あれだけ強くて不死身なの?」


 そんな様子に呆れたようにライデルは苦笑を漏らす。


 もはや何が起きても驚かないと言った様子だ。


「そんな大層なもんじゃない。ただ、夜明けと共に肉体が同じ1日を繰り返してるだけだ。1000年ずっとな」


「十分大層なことだと思うけど……まぁ、あんたにとっちゃ本当に大したことじゃないんでしょうね……それで、そんなに急いでガエリアに向かってどうするのよ?」


 不満げに目を細めるライデルに、俺は瓶に詰めた森の貴婦人の霊核を見せる。


「この原因を作った行商人を追う。恐らくこれが最後じゃないはずだ……何が目的かは知らんが、神霊を魔物化して回るなど看過するわけにはいかない」


「あなたも相当なお人好しよね。自覚ある? それ、渦中に自分から飛び込んで行ってるわよ?」


「分かってるが、関わった以上捨て置くわけにはいかないだろう? 誰かがやらねばならないなら、その役を背負うのが俺の仕事だ」


 そういうと、ライデルは一瞬怪訝な顔を浮かべたのちに「ふーん」と納得したように頷く。


「……成程ねぇ。なんとなくアンタの事が分かってきた気がするわ。仏頂面で騙されてたけど、本当はあなた、超がつくお節介さんね?」


「よく言われるな」


「不器用な性格ね。でも、嫌いじゃないわよ、そういうの」


「そうか。なら良かった」


「捕まえたら、私たちの分までまでぶん殴っといてね。本当は自分でやりたいけどこの村、しばらくは落ち着かないだろうから」


「そうだな。ゴブリンやオーク、山賊どもは鼻が効く。森の貴婦人が消えたとなれば、すぐさまこの村を縄張りにしようと動き出すだろう。もっとも、すぐに思い知ることになるだろうがな」


「えぇ、カールフォレストの新たな守り手達は、貴婦人よりも甘くはないってね!」


 拳を突き出すライデルに、俺は微笑んで拳を重ねる。


 今後この森で伝説として語り継がれるであろう、神霊リリアを纏う騎士ライデルの物語を夢想しながら。



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