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痛み分け

「とてもやりやすい」





呟いて、迫る顔面に肘を合わせる。


「ぎゃん───────!!!?」



本来なら、たかだか木を薙ぎ倒す程度の一撃だが、相手の勢いをそのまま利用して完全に頬を打ち抜いたため、鈍い音をたててヴィラは宙を舞う。


そのせいで右腕の腕はひしゃげて使い物にならなくはなったが……神霊一柱の気勢を削ぐには安すぎる代償だ。


「魔法がウリの精霊が、呪いも纏わず肉弾戦とは少々相手を舐めすぎだ……それとも、魔物化でそんなことすら忘れてしまったか?」


「この、っくそ!? いっ、一体何を!?」


ゴロゴロと地面を転がるヴィラは、何が起こったのか分からないと言った様子でこちらを睨むが、当然そんな余裕を与えてやるつもりはない。


「魔法は見えても武術は見えないか。なら、これで終わりだ」


左手でナイフを抜き、体を起こしたヴィラの心臓にナイフを走らせる。


だが。


「っ、!! 舐めるなあぁ!」


ナイフが届く寸前、ヴィラの一喝と共に足元から木の根が伸びて俺の足を絡めとる。



「ほう、森の主人としての力は健在か。この一瞬で俺に宿った神秘を攻略するとは、機転と魔法の技術は見事の一言だ……だが」


足を絡めとる木の根を引きちぎり、俺はそのままナイフをヴィラへと叩き込む。



「木の根を生身で!? 嘘!?」


「この程度で俺は止められんぞ!」


「ひぃ!?」


ナイフの切先は肉を裂き、宙空に黒い血を撒き散らす。


間違いなく致命を狙った一撃だったが。


「浅かったか」


足止めにより動きが一瞬止まったためか、ナイフは心臓を貫く代わりに身を捩って回避をしたヴィラの右腕を切り裂くのみであった。


「っ!!? い゛ああああああああああああああああ!!?」


一瞬、ヴィラは自分の身に何が起こったのか分からず放心するような表情を見せていたが、すぐに我に帰ると絶叫をして逃げるように距離を取る」


「腕が、私の、私の腕が!!?くそ、くそ!! お前、お前は何者だ!?」


顔を青くするヴィラに俺は肩をすくめる。


「ただの冒険者さ、ちょっと強いだけのな」


「バカにして……!!?」


ギリ、とこちらを睨みつけるヴィラ。


こちらとしては正直に申告をしただけなのだが、信じるつもりはないらしい。


まぁどちらでもいい話だ。


「俺の正体などどうでもいいだろう。それでどうする森の貴婦人よ、互いに腕一本同士の痛み分けだが……このまま続けるか?」


「っ!! ────────いいえ、やらないわ」


「そうか」


問いかけに、森の貴婦人はようやく冷静さを取り戻したのか、殺気を収めて首を振る。


「だけど油断しないことね。次は本気で、油断も隙もなく全霊で貴方を殺す。今回のようには行かないわよ」


そうヴィラは宣言をすると、現界を解いて霊体に戻る。


それは奇襲や騙し討ちをてんで警戒していない隙だらけの撤退。


力があるのは確かであるが、おおよそ殺し合いというものに関しては素人同然であるという事がわかる。


長く守り神として祀られ、外敵も魔物ばかりだった弊害だろう。


追おうと思えばいくらでも出来たが、あえてそれはしなかった。


それよりも────。


「おい、大丈夫か?」


「……あなたがいなかったら死んでたわね」


盾の後ろにいたライデルに声をかけると、弱々しい声と共によろよろとライデルが立ち上がる。


「どうだろうな」


ヴィラの魔力に当てられてふらついているようだが、これぐらいなら直ぐに治るだろう。


「? まぁいいわ。それよりも、なんで逃したの?」


「腕をやられたからな。お互い痛み分けだ」


「馬鹿にしないで、あのままやってれば間違いなく倒せてた。同じ腕一本でも、リリっ──、森の貴婦人は間違いなく動揺してた。主導権も握ったし、あんたなら一気に倒せてたはずよ」


なぜ逃したと問い詰めるように睨むライデルだったが、その目には複雑な心境が見て取れる。


「確かにそうかもしれないな、だが理由がある」


「私に気を遣ったつもり? だったら余計な──」


「落ち着け。お前に気を遣ったわけじゃない」


「!! っ、じゃあなんでよ」


「理由は二つだ。まず一つに、戦いが長引けばあれが手遅れになる」


そう言って俺は横たわるトンドリを指差す。


「手遅れって、まさかあの状態で生きてるの!?」


「さっき脅しでトンドリにかけた液体。あれは赤の霊薬だ。即死級の致命傷でも数十分は保つ……適切に処置すれば助かるが、どうするかはお前が決めろ」


「っなんで私が───ッ」


「俺は余所者だ。こいつを赦す権利はない。罰する権利もない。今この場でその権利を持つのは、被害者であるお前だけだ」



静かに諭すと、ライデルは苦虫を噛み潰したような顔で唸り声を上げる。


「ッ──────ッあぁもう!!!!」


しばしの葛藤後。


ライデルは癇癪を起こすように声を上げると、血まみれのトンドリを担ぎ上げる。


「……言っとくけど、許したわけじゃないから! こんな奴のせいで、罪の意識なんかを背負いたくないだけなんだから!」


「いいだろう、それもまたお前の自由だ……」


「ふん。騒ぎになっても面倒だから、教会で手当てをしましょう。この森を抜ければ誰にも見つからないで辿り着けるからついてきて。ついでにあんたのその腕も、手当しないといけないしね」


不貞腐れるようにそう鼻を鳴らすと、ライデルはズカズカと森の中を進んでいく。


と。


不意に何かを思い出したかのようにくるりと振り返る。


「どうした?」


「お礼、言い忘れてた。 さっきは助かったわ。ちょっとやばかったから、その…………ありがとう」


消え入りそうに小さな感謝の言葉。


「なんだ、素直なところもあるんだな」


そんな彼女の感謝の言葉を、俺は苦笑を漏らして揶揄ってみる。



脛を蹴られた。





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