怒り
そう呟くトンドリに、俺は背筋が凍る。
「……まさか──っ!!!?」
そんな悍ましいことあるはずがない。
そう心の中で否定しつつも、その可能性を否定するために俺はトンドリの媚薬を不死鳥の血が入った小瓶に混ぜる。
「ど、どうしたのよいきなり!?」
俺の行動にライデルは訝しげな表情で俺にそう問いかけるが、俺はそれに応える事なく小瓶を振って反応を待つ。
「……!?」
と、ただの薬であるはずのそれは、生命の滴に反応するように煙を上げると小瓶の中で歪な形のガラスように固まった。
「な、何よそれ。液体が急にガラスみたいに」
悍ましい想像は、逃れようのない現実に昇華された。
その反応は、想像できる上で最悪の結果だろう。
「やってくれたな……最早お前一人の命でどうにかなる問題じゃないぞ」
恨めしさを隠すことなく俺はトンドリを睨むと、トンドリは怯えたように叫ぶ。
「な、な、何だよ。その薬が何だってんだよ!?た、ただの媚薬だろ!? 精霊にとってはただの悪戯なんだろ!? 命狙われる筋合いなんか……」
「あぁ、本当にこいつが媚薬なら命を狙われることなんてなかっただろう。だが残念なことに、こいつは媚薬じゃない……森の貴婦人の同族の血だ」
「なっ!?」
「ど、同族の血って!? そ、そんな、じゃ、じゃあ、リリアの様子がおかしかったのは」
「……共食いによる堕天だろう」
「!!!!!! う、うそ、うそだ!!? そんな、なんで!? なん、ひいいいい!!?」
己のしでかしたことの大きさを認められないと言ったように、トンドリは悲鳴に近い声をあげて頭を抱える。
だが、ライデルは現実逃避は許さないと言わんばかりに胸ぐらを掴み無理やり立ち上がらせた。
「お前は……お前はリリアにそんな物を食わせたのか!! 私の、私の妹に!!!」
「し、知らなかったんだ!? 本当に何も知らなかったんだ!! 僕は悪くない! 全部、全部あの行商人が悪いんだ!!」
「それでも、あんたが始めた事でしょうが!! あんたのくだらない欲望のために……あんたなんかのために!! 何でリリアが犠牲にならなきゃいけないのよ!!」
怒声を浴びせながらライデルは拳を握る。
明確にその目には殺意が宿っていたが、俺はその拳を止めることはしなかった。
「や、やめ、やめて!?」
彼女には、その権利があるからだ。
「無理な相談ねッ!」
ライデルはトンドリを簡単に宙に浮かせると、まるで石ころのように数メートル離れた木の幹へと叩きつける。
当たりどころが悪ければ死んでしまうような勢い。
しかし偶然か、それとも彼女の冒険者としての矜持がそうさせたのか。
鈍い音を響かせトンドリの腕はあらぬ方向へと曲がったものの、命は失われていなかった。
「ぎゃあああああああぁ!!? い、痛いいぃ!? 腕が、僕の腕があああ!? ふざけんな、ふざけんなふざけんなこのクソ野郎が!! 何被害者ぶってるんだよ!? 最初に、最初に妹を殺したのはお前じゃないか!!! 自分で妹を殺しておいて、化け物になったいまさら大事にしようとか、正直どうかしてるよこのイカれ女!」
「!!!!!!!!!ッ」
もがき苦しみながら悪態をつくトンドリに、ライデルは激昂した表情で剣に手をかける。
その言葉は間違いなく、矜持も理性も失わせるには十分な呪いだったのだろう。
だが────結局ライデルはトンドリを殺すことはできなかった。
【みぃつけた────】
不気味に響く少女の声。
それは美しく、楽しげに、そして何よりも怒りに満ちていた。
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