薬の正体
「んーー!! んーー!!」
中には猿轡をされ、手足を縛られた状態のトンドリがいた。
よほど怖かったのか、その目には涙が浮かんでいる。
「どうする? 木の幹にでも縛りつける?」
「いや、話を聞くだけならこのままでいいだろう────おい、聞こえるかトンドリ?」
「んーー!! んーーーーー!!!!」
「落ち着け、何も取って食おうってわけじゃない。少し話を聞かせてもらうだけだ。先に断っておくが、騒ぐのは賢明な判断じゃない。分かるな?」
俺の言葉に顔を青くしてトンドリはこくこくと頷く。
その様子に俺はよしと頷いて猿轡を解いてやる。
「──っぷはぁ、はぁ、はぁ、な、なんなんだよぉお前。み、身代金か? それとも、親父に何か恨みでもあるの?」
息を切らしながら怯えるようにトンドリは的外れな言葉を繰り返すが、俺はそれに首を振る。
「少し教えてもらいたいことがあるだけだ、それだけ聞いたら帰してやる」
「なんだよ、親父のほくろの数でも聞きたいのか?」
「それも興味深いが、それよりも大事な事だ。この薬に見覚えはあるな?」
そう言って俺は死体から発見した皮袋をトンドリに見せると、途端にトンドリの顔が青く染まる。
「そ、それは!?」
「知っているんだな? これは他所から来た行商人から買ったと聞いたが、これはなんだ?」
「あ、えと、た、ただの胃薬だよ。ほら酒ばっかり飲んでるから胃が弱っててね、これがよく効くもんだから常に持ち歩いてるんだよ」
「……そうか、なら安全なものだな」
「へ、へへへ、そうそう、安全なもので……」
ニヤニヤと笑うトンドリ。
背後にいるライデルから殺気が迸っているが、俺はそれをやんわりと静止して。
「あぁ、安全なものなら良かったよ」
薬をトンドリの頭からかける。
「は? え? あ、わ、うわあああああああああああああああああ!!?」
「おいおい大袈裟だな。ただの胃薬なんだろ?」
「うわあああああぁ!? たす、助けて!! あいつが、あいつが僕を殺しにくる!!?」
忠告も忘れてぎゃあぎゃあと騒ぐトンドリに、俺は呆れながら懐から今度は本物の例の薬を取り出す。
「落ち着けよ、今のは偽物だ。袋を取り替えただけ、中身はただの薬だ、人体に影響はない……泣くほどお薬は苦手だったか、坊主」
「な、あんた、僕を騙して────ひっ!!?」
顔を赤くしてトンドリはこちらを睨みつけるが、俺は今度は本物の薬をトンドリの目の前に突きつける。
「正直に話せ……この薬はなんだ? そして、これでお前たちは何をしようとした?」
「っ!!!?」
秋の終わり、寒気すら覚えるこの時期にトンドリの全身から汗が吹き出す。
しばらくトンドリは俺とライデルを交互に見ながら震えていたが、痺れを切らしたライデルが剣に手をかけたところで、観念したと言う様子で……。
「び、媚薬…………です」
そう呟いた。
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