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和睦と手がかり

「これは?」


赤霊薬(レッドポーション)だ。不死鳥の血とマンドラゴラの粉末を、太陽光で蒸留した水と調合してある。軽い脳震盪なら一口で治る」


「不死鳥〜? なんか胡散臭いわね……変なものはいってんじゃないでしょうね?」


「毒味が必要か?」


「別にいいわよ。あんたに毒使う理由がないもの」


そう言ってライデルは顔を顰めたまま赤霊薬を一気に飲み干す。


と、不思議そうな表情を浮かべた。


「思ったより美味しいわね……」


「あぁ、うるさい奴がいてな。飲みやすいように

たっぷりベリーの果汁も混ぜてある」


「この味、甘ったるくてほとんどジュースじゃない。本当に効くの?」


「試してみればいい、立ってみろ」


俺の言葉にライデルは肩をすくめて立ち上がると。


「うそ……立てちゃった。それに頭痛も、さっきまで頭割れそうに痛かったのに……なんともない」


「どうやら、しっかり効いたようだな」


「凄い……あんた何者? その強さといい、ただの旅人って言うのにはやっぱ無理があるわよ」


「そんな大層なもんじゃない、俺が披露したもののほとんどは、盾以外は全部唯の知識だ。霊薬作りは冒険者をしていた頃に、お前を投げ飛ばした格闘術はロマリア軍でそれぞれ10年かけて会得した。お前だって、覚えれば同じことができる」


「そもそも、そんな知識持ってる人間がこんな田舎の森を歩き回ってる時点で、おだ異常事態なんだけど……って言うか、それぞれ10年って、あんた今いくつよ」


「……ふむ、見た目ほど若くはない、とだけは言っておこうか」


「……どうやら、あんたを怪物扱いしたことは謝らなくても良さそうね」


ため息を漏らして返事の代わりに肩をすくめると、ライデルは少し悪戯っぽく微笑んで遺体の調査に加わる。


「先に聞くが、ここの遺体の調査はしたのか?」


遺体の前にやってきたライデルにそう問うと、ライデルは首を横に振る。


「遺体の確認は私がやったけど、どれも数分ぐらいしか調査はできなかったわ」


「なぜ?」


「どの遺族も調査に猛反対してね……見れたのはそこの咬み傷ぐらいよ、真犯人が他にいるって確信をするには、それで十分だったわ」


「ふむ、森の貴婦人……リリアには牙がないからか」


俺の言葉に、ライデルは眉を顰める。


「……ギルドマスターから話を聞いたのかしら?」


「いや、正体を知っているだけだ。森の貴婦人の正体は、ヴィラという精霊の一種だ。森に住む魔物で、銀と血を主食とし……あー、森で死んだ人間の姿を真似て現れる。だからこそこんな牙を持たないし、そもそもヴィラは高貴な精霊だからな、生き血を啜るなどと言う野蛮な真似はしない」


「そうよ。だからリリアは犯人じゃない」


きっぱりと言い放つライデルであったが、俺は首を振って、抜け落ちている基本的な可能性を提示する。


「一つだけ忘れてないかライデル……元々妖精や精霊は、生まれながらにして魔物に堕ちる呪いをかけられた種族だ。森の貴婦人が魔物に堕ちれば身体的特徴など当てにならん」


俺の言葉に、ライデルはムッとした表情をして口を尖らせた。


「当然、堕落のことは百も承知よ。 だけどそれこそありえないわ」


「なぜそう言える?」


「堕落は、妖精や精霊が大罪を犯した時に起こる現象よ。

虐殺、共食い、性倒錯、呪いの流布、強欲、傲慢……度が過ぎた行動への罰として、月の王が下す天罰なのよ?

真面目に村人を助けてきたリリアにそんなの降るわけないわ」


「堕落は極度のストレスや精神疾患により、妖精の心臓部である霊核が汚染されることで魔物化する現象だ。大罪と呼ばれる行為をした妖精や精霊が堕落を引き起こし安いのは、より強く罪の意識に苛まれやすいからと言うだけだ。大罪を犯さなくとも、小さな罪でも堕落する者もいれば、大量虐殺をしても平気でいるような奴もいる。その精霊の素行の良さは関係ない」


「でも、リリアは500年この村を守り続けてる実績がある。ちょっとのことで堕落をする精霊なら、今頃とっくに魔物になってるはずよ」


「ふむ……」


確かに彼女のの言葉には一理ある。


そう考えて言葉を止めると、勝ち誇ったようにライデルは言葉を続ける。


「リリアは堕落なんてしてないわ、そんな仮説よりよっぽどよそ者の犯行を疑った方が合理的よ」


「そうかもな……だが、森の守り神であるリリアが健在ならば、なぜそんな危険な怪物を看過する?」


俺の言葉に今度はライデルが言葉を詰まらせる。


「それは……何か理由が……」


「そうだな、堕落じゃないにせよ5人もの被害を許してる以上、森の貴婦人に何か望ましくないことがあったことに疑いようはない……その何かをを探れば、自ずと答えにはたどり着けるだろう」


俺の言葉に、一瞬ライデルはむすっとした表情を見せるが、しばらく考えるようなそぶりを見せたあとため息を漏らした。


「……悔しいけど、アンタの言うとおりね。そしてその鍵を握るのが」


「あぁ、ここに並んでる被害者と言うことだ。なぜ森の守り神であるリリアの加護がこいつらには届かなかったのか……そこに今回の事件の真相が眠っているはずだ。5人に何か共通点はないか?」


一瞬、迷うようにライデルは視線を泳がせるが、恐る恐ると言った表情で5人についてのことを語り始める。


「彼らは同じ冒険者よ。と言っても、ゴブリン退治すら出来ないような遊び半分の道楽だけど」


「……定職につけずに冒険者になった口か。それにしては身なりがいいな」


羽織っている毛皮は安物のキツネやウサギではなく形の良い鹿のもの。

ロマリアは、身分による服装の制限は無いとはいえ、それでも鹿の毛皮は高級品である。


「こんな村でもやっぱり貧富の差はあってね、働かないで遊んで暮らせる奴らっていうのも少なからずいるのよ」


「ふむ。というとこいつら全員、似た境遇の奴らということか……同じパーティだったのか?」


「まさか。いっつもギルドで酒飲んでる奴らよ? 依頼を受けたことすらないんじゃないかしら? まぁ、一緒に飲んでる姿なら何回か見かけたけど……そういえば、あの時もこいつら一緒に飲んでたっけ?」


「あの時?」


ふと思い出したようにポツリと言葉を漏らす。


「3ヶ月前、洪水が起こるちょっと前だからよく覚えてるわ。その日は珍しく村に行商人が来てね。村の中でも金があって特に暇してるこいつらと、あとトンドリが、ここに商人を招いて大騒ぎをしてたわ」


「トンドリ……ここに来た時にお前に絡んできたあいつか?」


「えぇ。あいつは領主のところのバカ息子よ……と言っても、領主は今ロマリアの王宮で働いているから、事実上彼がこの村の権力者だけどね」


「ふむ、気を悪くしたら申し訳ないが、こんな田舎の村の領主が王宮勤めとは、どんな魔法を使ったんだ?」


少なくとも、領主といえども王の膝下、王宮で働くにはそれなりの地位がいる。


上級貴族、王の身内、巨大な領土を持っている、など条件は様々だが、そのどれもこの小さな村が満たしているとは思えない。


「んー、昔の名残だってギルドマスターは言ってたわ。ここは昔ガエリア侵略の際に拠点として使われてたらしくて、侵略後、ガエリアに価値がないとわかると、将軍はここの領主だったトンドリの家に北部総督の地位を押し付けて王宮に戻っちゃったそうよ」


成程、戦争だってタダじゃない。

大枚を叩いて奪った土地に価値がないとなれば、責任を取らされるのはガエリア遠征を率いた人間……すなわち将軍だろう。


だからこそ、将軍は北部の運営が難しいとわかった段階で田舎領主に総督の座を譲って、責任の所在をうやむやにしたのだろう……なんともロマリア高官のやりそうなことである。


「その後ガエリアの領土は自然と放棄された。奪い返された訳でなく、自然に消滅をしただけだから、北部総督としての地位と権威は残り続けたと言うわけか」


「そう言うこと、もちろん権威はあれどガエリアを放棄した今、権威の使い所はここにはない。だからトンドリの家は代々空っぽの権威を王宮で振るっているってわけ」


「確かに、ここより居心地は良さそうだな……しかしそうなるとこの村の管理はトンドリが行っているはずだが、そうは見えなかったな」


「あの飲んだくれに村のまとめ役なんてできるわけないからね。自然と、村の相談役やまとめ役の座はギルドマスターに代わったってわけ……彼、昔トンドリの父親の教育係をやってたことがあったみたいでね、領主様からも信頼があるから」



「ほぅ……」


なんともないと思ってた村だが、意外にも奇妙な縁でロマリアと深く繋がっているようだ。


「っと、話が逸れたわね。この5人とトンドリについてはこんな感じよ? どう? 何か事件解明の役に立ちそうかしら?」


「村に招き入れた行商人だが、この5人に何を売ったかはわかるか?」


「さぁ、そこまでは。やけに喜んでたのは覚えてるけど……でもなんで?」


首を傾げるライデルに、遺体の口から出てきた皮袋を見せる。


「実はこの男の口からこんなものが出てきてな」


「口から……何この液体?」


「分からん。だが、死体の口の中から出てきた以上、事件に関わるものだろう。そして村の人間であるお前がこれの正体を知らないと言うことは、自ずと外から持ち込まれたものになる」


「そうするとこれが、トンドリ達が買った物……」


「あぁ。どうやら……こいつについて、トンドリを問いただす必要があるようだな」



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