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検死

 遺体の安置されている教会は、村の北側にポツンと孤立するように建てられており、手入れの行き届いた周辺の墓地とは対照的に、壁の塗装は剥がれかけ、扉や窓からは隙間風が通り抜けるのか息も絶え絶えと言ったようにヒューヒューと音が響いている。


「……月神への信仰心(服従の呪い)もヴィラに阻まれたようだな。成程、村人たちの心が綺麗なわけだ」


 俺は皮肉を漏らして教会の扉を開ける。


 鍵はかかっておらず、薄暗い部屋で目を凝らすと教会の椅子は四隅へと追いやられるように片付けられ、代わりに簡素な寝台が五つ並んでいた。


 その寝台全てに、白い布をかけられた状態の遺体が並べられている。


「……ふむ」


 担いでいたライデルを壁際に追いやられた長椅子に横たわらせ、俺は遺体の調査に取り掛かる。


 寝かされた遺体の前に立つと、防腐避けの薬品の匂いが鼻をつく。


 死体はそのままと言うのは本当のようで、白いシーツからだらんと垂れ下がった腕には、黒ずんだ血の塊がびっしりとこびりついている。


「こんな雑に放置して、リビングデッドになっても知らんぞまったく……」


 そんな死体の扱いにため息を漏らしながら、俺は布を引っ剥がす。


 と、現れたのは青い顔に眼球の周りが窪んだように黒ずんだ遺体。


 手をつけてないとの言葉通り、来ていた衣服までそのままだ。


 残りの布を全てめくっても、遺体は同様の表情で死んでいた。


「首筋に深い咬み傷……死因は一気に血を抜かれたことによるショック死か。血を吸われて目が窪んでいるが、致死量以上には吸ってないところを見るに、完全に殺害が目的の吸血……ここまではギルドマスターの見解と一致するな」


 遺体の傷口を見ながら俺はそうつぶやき、さらに調査を進めると、俺はあることに気がつく。


「……ふむ。どれも防御創が見当たらない。眠らされたか、もしくは一瞬でやられたのか……魔法をかけた痕跡は無いところを見ると、やはり魔物の仕業で間違いなさそうだが……うん?」


 一人の少し小太りな男の口の中を調べていると、口の中に何かが詰められているのを見つける。


 殺した後に意図的に押し込んだのか、取り出してみるとそれは羊革でできた小さな袋だった。


 中を開けてみると、そこには何やら粉のようなものが入っている。


「これは……?」


 ぺろりと舐めると、甘くつんとした香りが広がるその白い粉は覚えがある。


 覚えはあるのだが……何か別な匂いに阻まれて記憶が定かにならない。


「うーん」


 頭を捻らせていると、思考を遮るように、唸り声が教会に響く。


 振り返ると目を覚ましたのか、頭を抑えながらライデルが起き上がっているのが見えた。


「ようやくお目覚めか、いい夢は見れたか?お嬢さん?」


「ここは……!! っ──痛っ!?」


「あんまり興奮しない方がいい。加減はしたがまだしばらく痛みは引かないはずだ。頭がくらくらして、まともに剣も握れないだろ?」


「ぐっ、馬鹿にして……ってきゃあ!?」


 無理矢理に体を起き上がらせようとしたライデルは、隅に寄せられた教会の長椅子へとふらついて頭から突っ込み、埃と轟音を撒き散らす。


「言わんこっちゃない……」


 そんなライデルにため息を一つ漏らして、作業を中断することにする。


 あんな状態で暴れられても、うるさいし集中できない。さっさとこちらの問題から解決してしまおう。


「っ……」


「落ち着け、危害を加えるつもりならもうとっくにやってる……そうだろ?」


 近づく俺をライデルは警戒するように睨みつけるが、俺は肩をすくめて敵意がないことを示すと、ライデルは悔しそうに舌打ちをするとため息をついてこちらに向き直る。


「私、負けたのね」


「まぁ、そう言うことになるな」


「まさか私のとっておきが防がれるなんて────貴方何者よ?」


「ほぅ? どうやらようやく人間として認めてもらえたようだな」


「うぐっ……そ、そうね、怪物じみた強さだけど……怪物と魔物に慈悲はない。悔しいけど……二回も気絶したのにこうして五体満足で生きてる時点で、貴方が怪物ではないと認めざるを得ないわ」


「成程。それなら、殺人の容疑も晴れたと言うことで構わないな」


「そうね……魔物じゃなければ、丁寧に致死量の血を抜き取って殺すなんてやり方できるわけないものね。素直に謝るわ……ごめんなさい」


 敗北のためか、それとも頭が冷えたのか?


 ライデルはしおらしい表情で謝罪をしてくる。


「ふむ、誤解が解けて何よりだ」


「あ! で、でも! あ、あくまで貴方が犯人じゃないって認めただけだから! まだリリアが犯人だって認めたわけじゃないんだからね!」


 ハッとした表情を見せると、今度は意地を張るように声を荒げるライデル。


 まぁ事情が事情だ、二回投げ飛ばされた程度で考えが変わる程度なら集会所の襲撃なんて企てない。


 疑いは晴れたとはいえ、彼女が追い詰められていることには変わりはないのだ。


 今のところは、ことを荒立てないように立ち回ろう。


「森の貴婦人の仕業か、真犯人がいるのか。俺にはどっちでも構わない。本当に犯人がいると言うなら、お前が証明して見せろ」


 そう言って、ポケットから小瓶を取り出してライデルへ渡す。


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