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手放された盾

 

「アイアス、本日をもって総司令官の任を解く」


 その日、国王ホノリウスは俺にそう宣告をした。


 それは魔王軍幹部を討ち取った報告をした後の出来事だった。


「は? 陛下、今なんと?」


 唖然とする俺を尻目に、玉座の間にクスクスという笑い声が響く。


「聞こえなかったか? 我がロマリア王国軍総司令官……ロマリアの盾の任を解くと言ったのだ」


 侮蔑するように吐き捨てる国王ホノリウス。


 すると、俺を取り囲むように立っていた兵士たちが一斉に剣を抜いた。


「おいおい、唐突すぎて理解に苦しむな。何故俺は任を解かれる?」


「其方には叛逆の疑いがある、悪戯に兵を消費し戦争を長引かせた……重罪だ」


「叛逆だと?今日だってこうして幹部二人の首をアンタに献上をしてる。それでも叛逆だと?」


「黙れ!! 我が屈強なるロマリア兵を束ねているのだ、勝利など当たり前だ。並の軍師なら今頃蛮族などとうに制圧できていることだろう。だというのにお前は小物を二人しか仕留められず、蛮族討伐を任されておきながら、やっていることは国境の防備を固めるだけ。悪戯にこの王国の財と人命を無駄にしておる!」


「……王よ、蛮族ではなく相手は魔王軍だと何度も報告しているはずだぞ。魔王の軍勢は雑兵一人がロマリア正規兵三人分に匹敵する。踏み鳴らす足跡は百万の騎馬隊よりも大きく大地を揺らし、押し寄せる黒鎧の軍勢は、まるで黒い津波のように全てを飲み込む。慈悲はなく、通った後には血の海か、焼けこげた死体しか残らない」



「うっ、むぅ」



「現に東の諸国は壊滅状態。加えて魔王は妖精を魔物に変え、さらなる勢力を伸ばしている。この国も防備を固めてなきゃ、今頃国境を超えた魔物達があんたに向かって押し寄せて来るはずだ。そこでふんぞり帰っていてもそれぐらいの情報は……」


「嘘にございますよ、陛下」


 説明をする俺の言葉が遮られる。


 すると宮廷魔導士のジェルマンが王の元へと駆け寄り、下卑た目をこちらに向けた。


「ジェルマン……」


「騙されてはなりませぬぞ陛下。 この世に我が軍を脅かすような怪物などいるはずがありませぬ。全ては出鱈目、この男は自ら失態を隠すため御伽噺をでっち上げているだけに過ぎません。考えても見れば誰もがわかるでしょう?ゴブリンやオークならまだしも、ヒドラにグリフォン、ドラゴンにデーモン。くくっ、どれもこれも子供が考えたような妄言ではありませんか」


 ニマニマと口元を緩めながら王に耳打ちをする宮廷魔術師ジェルマンは、王の相談役として5年前よりふらりと現れた男である。


 思えばこの男が来てからだ、王が内政を疎かにしだしたのは。


「うむ、そうだな。この世に怪物など存在するはずがない。お前は恥知らずの詐欺師だアイアス、これからはこのジェルマンに総司令官……ロマリアの盾として働いてもらうことにする。お前はもう不要だ‼︎」


 クスクスという笑い声は大きくなり、その声に混ざるように「詐欺師」や「臆病者」という大臣たちの侮蔑の言葉が玉座の間に響く。


「冗談だろ? 目玉だけでアンタの顔ほどあるグリフォンの首を忘れたか? この場所で直々に披露してみせたはずだろう?」


「我が国の職人は優秀です陛下。いくらでもあんな人形作れましょう」


「あぁ、ジェルマンのいう通りだな。あんな人形いくらでも作れよう。余をたぶらかした罪は重いぞアイアス」


「えぇ、そうですとも。陛下のおっしゃる通りでございます」


 王はもはやジェルマンの操り人形にすぎないようで、こちらの声は届かずにとんとん拍子で俺はあっという間に罪人にされる。


 この様子じゃ罪人にする話はあらかじめ決まっているのだろう……となれば、いくらここで弁明をしたところで無駄か。

 

 反論を諦めて俺はジェルマンを睨むと、ジェルマンの奴は勝ち誇った様な笑みを浮かべると再度王に耳打ちをする。



「極刑に処しましょう陛下。 王への虚偽は万死に値する行為です」


「極刑か。なるほど、確かに其方の言う通りだな。ではジェルマン、ロマリア軍総司令官として最初の仕事を命ずる。 あいつを殺せ」


 安い芝居だ。


 あらかじめ決まっていたかのような王の台詞に満面の笑みを浮かべたジェルマンは、杖を振り上げると魔法で空中に巨大な剣を召還する。


「何か言い残すことはありますか? 元総司令官・・・・・?」


「呆れてものも言えないが……まぁ処刑でもなんでも好きにすればいいさ……だが──」


「ではお望み通り‼︎ おさらばです‼︎」


 昂っているのか、それとも最初から話なんざ聞くつもりがなかったのか?


 言い終わるよりも早くジェルマンは叫ぶと魔法の剣を投げ放つ。


 対城魔法 破滅ドゥームソード。本来ならば城の城壁を破壊するために用いられる魔法だが。


 どうやらあいつらはその程度で俺を殺せるつもりでいるらしい。


「──────そうなればお前達全員、俺の敵になるぞ?」


 主従という鎖を切ったら、金持ちも魔法使いも王様だって……俺にとってはただの獲物でしかなくなるというのに。


「ひッ‼︎───‼︎ ま、待てジェルマン‼︎」


 悲鳴に近い声を王はあげて、同時に眼前で刃が止まる。


「陛下、いかがなされました?」


「や、やはり追放だ。追放にしよう……そう、それが良い」

 

「追放ですか……御言葉ですが陛下、いささか寛大にすぎるかと」


「構わん‼︎ わ、わざわざ臆病者の血でこの国を汚す必要もない。この王宮から永久に追放する、これは余の決定だ‼︎」


「ふむ……ではそのように。 聞いたなアイアス? 嘘吐きにはこのロマリアの地で死ぬ資格すらない。二日後までに荷物をまとめこのロマリア王城を去れ。戻ればその時こそ命はないぞ?」


 自分が今王に救われたということも気づかずにジェルマンは勝ち誇った表情で笑い、その姿に俺は馬鹿馬鹿しくなって拳を収める。


「あぁ、戻らないさ……二度とな」


 総司令官の証である銀の腕章。その二つを床に投げ捨てる。


 何よりも重いはずのその腕章が、軽い音を立てて床に転がった。


「ふふん、命拾いしてよかったなぁ? 無職のアイアス君」


 その光景にジェルマンはそう俺に言葉を投げ、大臣たちもケラケラと笑い出す。


 あいつらのおめでたい目玉には、俺がすごすごと逃げ出す姿でも見えているのだろう。

 

「そっちがな」


 このまま帰り、変な噂を立てられても迷惑だ。


 そう思案して俺は剣を抜くと、振り向きざまに魔法の大剣に一閃を放つ。



 玉座の間に金属音が響き……同時に魔法の大剣はパックリと両断されたあと、ガラスのように砕けちる。


 薄い氷でも切ったかのような……綻びだらけのなんとまぁお粗末な呪文である。


「‼︎? バカな……ッ‼︎」


 驚愕するジェルマンに俺は肩をすくめて、剣を床に放る。


 装飾が派手な趣味の悪い剣。


 ようやっと、こんな鈍ともおさらばできると思うと、自然と笑みが溢れてしまう。


「じゃあな三流魔導師。次はもう少しマシな物を用意した方が良い。出ないと他国の笑い者になる」


「三流だと‼︎? 貴様アイアス──ッ思い知れ!!」


 怒りに身を任せるようにジェルマンは魔法陣を展開し、続け様に四度ドゥームソードを俺へと放つ。


 だが。


「言った筈だ、マシな物を作れと」


 そのどれもが俺には届くことなく空中で静止し、カラカラと音を立てて地面に落ちては霧散する。


「ば、ば、馬鹿な!? 何を、何をした貴様!!」


 狼狽するジェルマンに俺は口元を緩める。


「お勉強が足りないな坊主。立派なのはその高そうな杖だけか?」


「っっっっき、き、き、貴様ああアァ!! この私を侮辱して!! 絶対に許さな────」


 先程の意趣返しに、ジェルマンの言葉が終わるよりも早く玉座の間の扉を閉める。


 ギャーギャーと何かを騒いでる音がくぐもって聞こえたが、負け犬の遠吠えを聞くつもりもない、さっさとお暇するとしよう。


 玉座の間とは打って変わって王城の廊下は静寂そのものであり。


 俺は振り返ることなく王城の出口へと向かっていく。


 追放ということは当然、資産も領地も全て没収ということ。


 逆に言えば、今まで鬱陶しかった身分も、責任も、あちらが全部取っ払ってくれたということでもある。


  これからは馬鹿な指示を出してくる上司も、他人の目やくだらない政治戦略とかに身を投じる必要すらない。

 

 これから何もかもが自由。

 そう考えると自然と足取りは軽くなる。


「さぁて、これからどうしようか……」


 口角をく、とあげて俺はそう呟き、古臭い王城を出たのであった。


 □


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