度胸比べの時
回転式拳銃、通称リボルバーとは、レンコン状の弾倉に複数発の弾丸を装填し、銃身に沿って回転させることで連続発射を可能にした拳銃である。ソウタロウは弾倉を横に振り出すと、弾丸排出用のエジェクターロッドを操作して、中に入っていた弾を全て排出した。
ポトポトポトポトポトポトポト……
魔法少女の処刑人とヤクザの組長が睨み合う、行灯の光で照らされた薄暗い室内で、弾が畳の上に落ちる音だけが響く。
「弾は6発……」
ソウタロウは畳に落ちた弾を全て拾い、一度は自分の懐にしまう。
「命は一つ」
次にソウタロウは1発だけ弾を取り出し、弾倉にこめると、それを勢いよく回転させて、手首のスナップを効かせて弾倉をガチャリと銃に戻した。
「ちょいとばかし、この老人の遊びにつきあってくれよ」
そう言うやいなや、ソウタロウは自分のこめかみに銃口を向け、拳銃のトリガーを引いた。パチンと、撃鉄が空打ちする乾いた音だけが響く。ソウタロウがまだ生きているのは、銃に込められた1発だけの弾丸が、まだ発射位置に来ていないからだ。だが、何度もトリガーを引けば、いずれは弾丸が発射される。
ロシアンルーレットだ。
だが、トコヤミがこの遊びに付き合う理由があるのだろうか?ソウタロウは二人の間に拳銃を置く。
「殺してほしいのは風俗店『ミルクアンドハニー』のオーナー、京木ユウジロウと、その仲間の男三名だ。やつらは俺たちの縄張りを奪うために喧嘩を売り、山口ジンを殺害した。この恨みをどうか晴らしてやってほしい」
トコヤミは拳銃を手に取ると、それをソウタロウと同じようにこめかみに当て、トリガーを引いた。またしても、パチンという音だけが響き、弾はまだ発射されない。
「私たちは、ただの殺し屋じゃない」
トコヤミは理解していた。このロシアンルーレットは、無意味な遊びではなく、主導権の奪い合いなのだ。遊びというにはあまりにも危険なこの所業を通して、相手をひるませようとしている。ひるめば、つけこまれる。オトハがそうであるように、ツグミもまたヤクザの走狗になるつもりはない。ならば、この勝負に一歩も退くわけにはいかなかった。
「人でなしの魔法少女を始末する。それが私たち暗闇姉妹。京木ユウジロウを殺したいのであれば、自分たちでやればいい」
「だが、ジンを殺したのは魔法少女だろう?その魔法少女を裏で操っているのが京木であれば、間接正犯として始末するべきなんじゃねぇのか?」
「ならば全員抹殺する」
ソウタロウは自分の番とばかりに、こめかみに銃口を向ける。パチン。まだ弾は発射されない。
「魔法少女は生かして俺の前につれてこれないか?」
「なぜ?彼女の始末は暗闇姉妹がする」
「悪いが、俺たちはそれじゃ収まらねぇ。それに、ただ京木に騙されているだけだとしたら気の毒だ。せめて申し開きの一つも聞きてぇしな」
「誰かに騙されて人を殺すような魔法少女なら、どのみち生かしておくわけにはいかない」
「おいおい、ずいぶん厳しいんだな」
「もしも……」
トコヤミが銃口を自分のこめかみに向けた。これで4回目のトリガーだ。パチン。弾は発射されなかった。
「その魔法少女を、逆にあなたたちが自分の戦力として利用しようという魂胆なら、ますます生かして引き渡すわけにはいかない」
「そいつは……」
すぐにソウタロウが拳銃を取る。5回目のトリガーは……不発だった。
「言葉が過ぎるんじゃねぇか?暗闇姉妹……!」
ソウタロウはゆっくりと拳銃を膝の前に置いた。誰も死ななかった。その結果に安堵するように「ふーっ……」と息を吐くと、トコヤミに命令する。
「どちらにしろ、京木をマークすれば、その魔法少女は現れるだろう。正体を暴け。そこから先どうするかは俺たちが決める」
「そんなのお断りだよ」
「!」
トコヤミが拳銃を手に取って彼女のこめかみに銃口を向けた瞬間、ソウタロウは驚きを隠せなかった。6度目のトリガーをトコヤミが引く。結果は……またしても不発であった。
「……弾は7発あった」
トコヤミはゆっくりと、拳銃を膝の前に置いた。
「茶番は終わりだよ、ソウタロウさん。あなた『弾は6つ、命は一つ』なんて言ってたけれど、最初に排莢された弾は7つだった。あなたがそれを懐に隠すまでに気づけない者ならば、いくらでも騙して利用できる。そういうテストだったんでしょう?」
「なかなか渋いじゃねぇか」
「暗闇姉妹に嘘やごまかしは通用しない」
「だが、わからねぇなぁ……」
ソウタロウが拳銃を手に取り、弾倉を横に振りだす。勢いよく回転させて銃に戻した弾倉は、さきほどロシアンルーレットを始めた時とまったく同じ位置に止まった。
「この銃には弾が最後に発射されるように細工がしてあった。だが、もしも細工をしていなかったらどうするつもりだったんだ?」
「いくらあなたに度胸があっても、こんな事に命をかけるとは思わなかった。私はそこまで、ヤクザに夢を見てはいない」
「……うちの若い衆に、あんたみたいなのが居れば若頭も夢じゃねぇのにな」
それが、今のソウタロウが口にできる精一杯の賛辞だった。
「わかった。やつらの始末は、あんたら暗闇姉妹に一任する」
「口外しないように」
「当然だろう。それに、京木にあんたたちの事を知られたくはない。今は大人しく、あいつの目論見通りにさせておくさ…………シンゾウ!」
「へいっ!」
茶室の外で待機していた組長付きの男が返事をする。
「約束の金を用意してやれ」
「承知いたしやした!」
シンゾウがどこかへ駆けていくのが足音でわかった。トコヤミは、札束の詰まったアルミケースを仕事料として受け取るのだが、それは後の話。ソウタロウに背を向けて茶室を出ようとしたトコヤミは、意外な名前をソウタロウから聞いた。
「オトハは元気にしているか?」
「えっ?…………」
振り向いたトコヤミはしばらく沈黙していたが、やがて首を横にふる。
「知らない。いったい誰のこと?」
「なるほど、な……いや、なんとなく……そんな予感はしていたが……まさか暗闇姉妹と関わりがあったとは……」
「あなたは何か勘違いしているよ」
トコヤミの言葉に、ソウタロウはニヤリと笑う。
「この白金ソウタロウに嘘やごまかしは通用しねぇぜ?」
不覚をとったな、とトコヤミは唇を噛み、渋い顔をして茶室を後にした。意外なタイミングで、意外な名前を聞いてしまったトコヤミの動揺は、百戦錬磨のヤクザの組長から隠しきれるものではなかったようだ。




