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西暦2024年2月2日

 カンノンプラチナは混乱した。自分はたしか、ムラサメツグミを探しに行ったはずだ。彼女ならオウゴンサンデーを治せるかもしれないと、グレンから聞いたからだ。


 だが気がついた時には、プラチナは街の中にいた。林立するビルが、高みからプラチナを見下ろしている。どうやら、どこかの都市のようだ。それも、日本の。


「はあ!?」


 なぜ急に景色が変わってしまったのか、理由がまったくわからなかった。しかも、カンノンプラチナは一人だ。見回しても、ムラサメツグミも、グレンバーンも、師匠であるオウゴンサンデーの姿も見えなかった。それどころか、明らかに都会のように見えるビル街には、人の気配がない。荒廃しているようには見えない。どの建物も、新品のようにキレイであった。それがプラチナにはかえって不気味に見えた。


 さらにプラチナを困惑させたのは、その気温だ。


「寒っ!?」


 プラチナにとって、今は西暦2002年の9月のはずである。なのに、街は真冬のように寒かった。街全体に、厚い霧がたちこめている。


「これは……本物の街じゃないよな……ニセモノか?なんて大掛かりなセットなんだ」


 自分がどうしてこんな場所にいるのかわからないが、とにかくサンデーやグレンがいた場所へ戻らなければ。そう思ったプラチナは、寒さに震えながらも歩き始めた。


 幸いにも、プラチナはすぐに見知った顔を見つける事ができた。アケボノオーシャンである。オーシャンは、何か迷彩柄の塊の側にしゃがみ込んでいた。


「おーい!」


 プラチナはすぐに駆け寄ったが、オーシャンの側にある物体の正体に気がついて、思わず足が止まった。


「……死体!」

「…………」


 オーシャンはプラチナに気がついて一瞥したものの、すぐに視線を死体へと戻した。


 死んでいるのは、迷彩服を来た少女である。ヘルメットやブーツ、そしてライフル銃で武装している。仰向けに倒れ、顔は恐怖に固まったまま、虚空を見あげていた。プラチナがオーシャンに尋ねた。


「お前がソイツを殺ったのか?」

「いや、まさか」


 アケボノオーシャンは否定しつつも、死んだ少女の体をまさぐっている。


「やめろよ」


 死者への冒涜のように感じたプラチナがそう言ったが、オーシャンは無視して少女をまさぐり続けた。グレンやサンデーならば、こうした感覚は共有できたのに、とプラチナは思う。オーシャンの様子は、まるで死体を貪るハイエナのようで、プラチナには気味が悪く見えた。もしかして、このアケボノオーシャンも、この街と同様にニセモノなのだろうか。


「目立った外傷は無いなぁ。何がこの子を死なせたんだろう?」


 実際のところ、アケボノオーシャンは本物である。彼女もまた、気がついた時にはこの世界にいたのだ。どうしてそうなったのかは、プラチナと同様に、わからない。


 そんなオーシャンが偶然発見したのが件の死体である。多少、悪いとは思いつつも、目的のためならば手段は選ばないのが彼女の流儀であった。遺品を調べて、この不可解な現象の正体を突き止めなければならない。


「ほら」

「は?」


 オーシャンがプラチナに投げたのは、小さな手帳であった。それは、死んだ少女の持ち物である。


「なんだよ、オーシャン?」

「読んで」

「えーっ!?」

「いいから。この子が何者で、どうして私たちがここにいるのか、手がかりになるかも」

「うーん……」


 とはいえ、オーシャンのかわりに遺体を探る作業はゴメンだ。そう思ったプラチナは、渋々ながら手帳を開いてみた。


「変だぜ」


 プラチナの第一声である。


「この手帳、日付が2022年から始まってらぁ」

「ねえ、プラチナ。直近の事から知りたいから、最後のページから読んでくれない?」

「ちっ!わかったよ」


 プラチナは、オーシャンの口ぶりにイラつきながらも従った。オーシャンはオーシャンで、


(2002年の誤記でしょ。そんなの)


 と呆れていた。


 やがてオーシャンは、遺体の耳に、補聴器のような物が付いているのを見つけた。


「おいおい……」


 プラチナは死人の耳に付いていたソレをオーシャンがためらいなく耳に付けるのを見て慄いたが、オーシャンは、


(自分の仕事に集中してよ!)


 と睨みつけて、プラチナを黙らせた。


 アケボノオーシャンにとって驚いたことに、補聴器のような機械の正体は無線機であった。先ほどから、無線機はその持ち主の名前を叫び続けていたらしい。女性の声だ。


『コレトー!コレトー!お願いだから返事をして!コレトー!そばに誰かいるの?何か声が聞こえた気がしたんだけど……』


 コレトー、というのが、どうやら死んだ少女の名前らしかった。その独特な名前に、オーシャンは少女の右手を見る。なぜ今まで気がつかなかったのだろうか。彼女は魔法少女だ。魔法少女の指輪が、右手の中指に輝いている。


(私たち以外に、宇宙船に侵入した魔法少女たちがいるのか?)


 黙っていても仕方がない。アケボノオーシャンは、無線機に話しかけてみることにした。


「あー……もしもし?」

『えっ!?誰なの!?コレトーは!?』

「たぶん、だけど……残念ながら、そのコレトーという人……死んじゃったんじゃないかなぁ」

『…………』


 無線機越しの相手が息を呑んでいるのが聞こえる。


「誤解しないでね。コレトーという人を、私が殺したわけではない。ただ、死んでいるのを見つけたんだ。目立った外傷は無いから、何故死んだのかまではわからないけれど」

『あなたを疑ったりはしないわ。そう、コレトーが…………でも、見つけてくれてありがとう。ところで、あなたは誰なの?』

「閃光少女のアケボノオーシャンだよー」


 無線機の少女が沈黙した。知らない声だが、顔見知りだったのだろうか?そうオーシャンが訝っていると、怒気を含んだ声が返ってきた。


『……冗談はやめてくれないかしら。よりによって、その名を名乗るなんて……』

「えっ?なに?私、なんか悪いこと言った?」


「おい、アケボノオーシャン」


 カンノンプラチナに話しかけられたオーシャンが振り向く。オーシャンは耳につけた装置を指で強調した。


「ちょっと待ってよ。これ、無線機だったんだ。死んだ、この子の関係者と今、話をして……」

「お前、死んだ事になっているぜ?」

「は?」


 プラチナは手帳をオーシャンに広げて見せた。


「だから、お前は死んだ事になってるんだよ!それに……今日は2024年の2月2日なんだ。オレたち、もしかして未来に来ちまったんじゃあないか!?」


 無線機の女性は、そんなプラチナの言葉に困惑するオーシャンを、さらに動揺させるように言葉を続けていた。


『アケボノオーシャンは、私たちレジスタンスの希望だった。軽々しく名前を使わないで!』

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