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超強火玉の時②

 時間が静止してしまった時。


 グレンバーンはすでに、火球を投げつけるモーションに入ってしまっていた。今さら発射方向を変更できそうにない。時間停止魔法を使ったアンバースに火球を避けられてしまう。


「そうはさせるかよ!」


 火球から逃れようとするアンバースに立ち塞がったのは、同じように時間が静止した世界で動くことができるカンノンプラチナだ。プラチナにとっては、自分が時間停止魔法をアンバースに教えてしまったという負い目もある。なにより今、時間が停止した世界で動けるのは自分だけだ、という責任感もあった。


 だが一人でアンバースに立ち向かうのは簡単ではない。


「バアッ!」

「おりゃあっ!」


 プラチナは果敢にアンバースへ蹴りを放つが、アンバースはそれを防御し、プラチナやグレンからたっぷり教わった格闘技で反撃した。キックボクシング特有の斬りつけるような肘打ちが顔に直撃し、プラチナの口元を鼻血で染める。


「ああっ!くそっ!」


 それでも懸命に、プラチナは拳を突き出した。アンバースの両手が破裂するほどの魔法をグレンは使った。彼女の両手も、少なくないダメージがあるはずだ。スーパー強火玉は二度とは撃てないだろう。この機会を逸するわけにはいかない。そうプラチナは思った。


 だが事態はさらに悪化していく。


「なんだ!?体が急に重く……!?あっ!」


 まるで透明なセメントで体を固められていくような、不穏な感触。カンノンプラチナの、時間停止能力が限界をむかえたのだ。


(ああ、そんなぁ!ここで動けなくなるなんて!)


 と口に出して悔しがることもできないプラチナである。だが、不思議であった。


(…………?)


 アンバースもまた動きを止めたのだ。たしかに、スーパー強火玉の射線からは外れているのだが、まるでそれ以上は動きたくても動けないような、不自然な様子なのである。


(アイツも時間停止能力の限界が……?いや、だとしたら。今この世界の時間を止めているのは誰なんだ!?)


 カンノンプラチナの肩を、誰かが後ろから、優しくポンと叩いた。


「よく頑張りましたね、カンノンプラチナ」

(この声は……サンデーさん!)


 アンバースに昏倒させられていたオウゴンサンデーが、いつの間にか目を覚ましていたのだ。すなわち今、世界の時計を止めているのはサンデーである。プラチナへのねぎらいの言葉は、やがて厳しさを込めた指導へと変わる。


「しかし、詰めが甘いですよ、カンノンプラチナ。このように、時間停止魔法を使える者同士が戦う場合は……後から時間を止めた方が勝ちます。見ていなさい」


 サンデーの姿がプラチナの視界に入った。小さくも頼もしい後ろ姿がアンバースへ近づいていく。


 アンバースにも当然、オウゴンサンデーが見えているに違いない。が、口をきくこともできない。そんなアンバースの手首に向かって、サンデーの回し蹴りが飛んだ。


(うげっ!?)


 内心で思わずうめいたのはプラチナだ。アンバースのボロボロになった手首から血が吹いた。かなり痛々しい光景だ。


「せりゃあっ!」


 サンデーは足底や足刀を用いて、何度も、何度もアンバースの砕けた手首に蹴りを加えた。その度に血が飛び散り、手首の亀裂が深くなっていく。


「アアアアアアッ!!」


 痛みへの絶叫とも、怒りの咆哮ともとれるようなアンバースの悲鳴が響いた。つまり、アンバースは再び時間停止の世界で自由を得たのだ。


(あっ!ズルい!また動きだしやがった!)


 残念ながら、カンノンプラチナの方はまだ動くことができない。プラチナは、師匠のオウゴンサンデーが、あとどれくらい時間を止めた世界で行動できるか心配になった。


「バアッ!」


 アンバースのミドルキックを、サンデーは脇で抱え込むようにして止める。そして、再びアンバースの手首に向かって回し蹴りを放った。


「アアア!!」


 執拗に破損部位を攻められたアンバースは、ついに痛みでのたうち回った。そのアンバースの背後に回ったサンデーは、彼の両腕を羽交い締めにして無理やり立たせた。


 プラチナを驚かせたのはサンデーの行動だ。


(あっ!サンデーさん!何を!?)


 アンバースを背後から羽交い締めにしたまま、サンデーはグレンの前に移動した。それは、いい。だが、このままではサンデーもスーパー強火玉に巻き込まれてしまう。


 もっとも、サンデーもそのつもりなのだ。アンバースは、残念ながら、プラチナやサンデー以上に時を止める能力があるらしい。ならば、誰かが犠牲になるしかないのである。


「あなた達は、よく頑張りました」


 サンデーがそうプラチナに語りかけた。


「だから、次の瞬間、何が起ころうとも後悔だけはしないでください。いいですね?グレンバーンにも、そう伝えてください。もしかしたら、これが最期の言葉……」

(サンデーさん!!)


 サンデーの動きが止まった。彼女もまた、時間停止能力の限界をむかえたのだ。それなのに、アンバースは暴れ続けている。


「バアアアッ!アアア!」


 だが、どれだけ暴れても、文字通り石のようになったサンデーの体がアンバースを離すことは無かった。そして、ついにアンバースも限界をむかえ、世界は再び時を刻みだす。


「おらあああっ!!」


 グレンバーンの手からスーパー強火玉が放たれ、光る火球がアンバースの胸に吸い込まれるように着弾。


(えっ!?)


 グレンはアンバースを羽交い締めにしているサンデーを、ここで初めて認識した。だが、その時には全て終わっていた。

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